第五十九話 断界の使者と無数の想霊
広島県広島市。
休憩スペースを飛び出した彩葉たちは、異様な気配を追って外へと出ていた。
見上げた空。
そこだけが夜のように暗く染まり、黒雲のような瘴気が渦巻いている。
その中心に、一人の男が浮かんでいた。
全身を黒い外套で包み、不気味な笑みを浮かべている。
その姿を見つけた彩葉が指差した。
「あ!あそこ!」
灰原の表情が険しくなる。
「あれは……」
男は両腕を広げ、大げさに頭を下げた。
「ククク……さぁ、殺りあおうじゃないか」
アリアの顔色がさらに悪くなる。
「……」
アビは男をじっと睨んだ。
「誰なの」
男は楽しげに笑った。
「断界同盟の幹部『怪鬼』様の配下、ゼクロス。はじめまして、そしてさようなら」
灰原はすぐに彩葉たちへ向き直る。
「彩葉!アビ!私は制約があるので戦えませんが、アリアを守ります!お二人はあいつの相手を!」
「わかったなの!」
「はい!」
ゼクロスはニヤリと笑った。
「さぁ!こい!我が配下よ!」
男の周囲から黒い穴がいくつも出現する。
その中から、異形の存在たちが次々と現れ始めた。
「ギギギギ……」
「アアアアア……」
「グルルル……」
黒い霧に覆われた獣。
歪んだ人型。
巨大な鳥のような姿。
どれも怨念と悪意で構成された存在。
彩葉は目を見開く。
「あれは、想霊!?」
アビも驚く。
「たくさんいるなの」
ゼクロスは満足そうに両手を広げた。
「さぁ、潰しなさい」
数十体を超える想霊が、一斉に彩葉たちへ向かって襲いかかる。
だが。
「エアーライド!」
アビが翼を大きく広げた。
神力が風となって吹き荒れ、前列の想霊たちを吹き飛ばす。
さらに彩葉も両手を前に突き出した。
「魔力よ!」
血管の中を流れる魔力が循環する。
心臓から送り出された魔力が全身を巡り、腕へ集中する。
「縛って!」
無数の魔力の帯が飛び出し、数体の想霊を拘束した。
「ギャアアア!!」
その隙にアビが急降下する。
「神風斬!」
圧縮された風が刃となり、拘束された想霊たちを浄化した。
だが。
ゼクロスは笑っていた。
「クククク……良いぞ、良いぞ!」
彩葉は不思議そうに首を傾げた。
「断界同盟って……なんなんですか?」
その問いに反応したのは、アリアだった。
灰原に支えられながらも、静かに口を開く。
「……断界同盟」
その名前を口にした瞬間、彼女の顔から笑みが消える。
「世界を分断するための組織です」
「分断?」
彩葉は首を傾げる。
「はい」
アリアは続けた。
「人間と妖怪、人間と守護者、神々と悪魔……」
「仲良く暮らしている存在同士を争わせ、憎しみを広げ、世界をバラバラにすることを目的とした集団です」
アビがぷくっと頬を膨らませる。
「嫌なやつらなの!」
灰原も静かに頷く。
「共存を否定する存在……」
アリアはさらに説明する。
「彼らは争いから生まれる負の感情を好みます」
「憎悪、怒り、絶望……そういうものを利用し、各地で事件を起こしています」
彩葉は目を丸くした。
「そんな……」
脳裏に浮かぶ。
陽菜。
影。
喰。
小紅。
八咫鏡。
マミ。
ニーミ。
直。
朱鬼。
塔風。
アビ。
灰原。
そしてアリア。
これまで出会ってきた様々な存在。
人間。
妖怪。
仙人。
鬼人。
神の御霊。
守護神。
皆が笑い、支え合い、共に生きていた。
彩葉は拳を握り締める。
「そんなの……ダメです!」
ゼクロスはニヤリと笑う。
「ほぉ?」
「どうして?」
「争いこそ進化!」
「憎しみこそ力!」
「共存など幻想!」
「世界は本来、分かれているべきなのだ!」
彩葉は叫ぶ。
「違います!」
「私はまだ生まれたばかりだから、難しいことはわかりません!」
「でも!」
「みんな優しかった!」
「人間さんも!」
「妖怪さんも!」
「神様も!」
「守護者さんも!」
「みんな笑ってた!」
「だから!」
「そんな世界を壊そうとするなんて、絶対に間違ってます!」
アビも羽を広げた。
「そうなの!」
「彩葉の言う通りなの!」
ゼクロスは狂気じみた笑みを浮かべる。
「クハハハハハ!!」
「ならば!」
「お前たちの希望とやらを!」
「絶望へ変えてやろう!!」
その瞬間。
ゼクロスの背後の空間が大きく裂けた。
黒い亀裂。
そこから、先ほどまでとは比べ物にならない巨大な影がゆっくりと姿を現し始める。
その禍々しい気配に、灰原が息を呑んだ。
「……っ!」
アリアの顔色が変わる。
「まさか……!」
アビの翼が震える。
「な、なの……?」
彩葉も思わず後ずさった。
「え……?」
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