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Re:アルケオン〜守護者として生まれた私は世界を旅する〜  作者: れんP
アジアの章 日本編

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第五十六話 「灰に咲く願い」


広島県広島市。


夕暮れの光が原爆ドームを赤く染めていた。


静かに流れる川。


遠くから聞こえる人々の笑い声。


それらとは対照的に、灰原の声にはどこか影があった。


原子爆弾の守護者。


その名を口にするだけでも、彼女の胸は痛んでいた。


「私は――原子爆弾の守護者『灰原(はいばら)』」


風が一瞬だけ止まったように感じられた。


「その名に、罪を背負うものです」


波の音だけが戻ってくる。


彩葉(いろは)はすぐに言葉を返せなかった。


ただ、空に散った花火と、静かに立つ少女を見つめていた。


やがて、おそるおそる口を開く。


「……爆弾……原子爆弾?」


灰原は小さく頷いた。


「原子爆弾とは、とても危険な、世に出してはならないものです……」


隣ではアビも黙っていた。


「……罪って……」


その問いに、灰原は少しだけ目を伏せる。


「原子爆弾は全てを灰にし、灰の平原に変えてしまいます。私の名前は、そこから……」


夕日が彼女の横顔を照らす。


「そして、原子爆弾はこの都市と、普通の爆弾が長崎、四国、日本の首都などにも落ちました……」


「全てを無に変えて……全ては沈黙し……人々の大切なものを破壊し、消しました……」


灰原の声が震える。


「私はそんな守護者なの……」


「この街の人は優しいけど……きっと、裏では……ッ……」


するとアビが慌てたように首を振った。


「そんなことないなの!」


彩葉もすぐに声を上げる。


「そんなことありません!」


まっすぐな瞳だった。


「皆さんは優しい気配がしました!」


「そんなこと、ありません!」


「そ、そうなの!」


アビも羽をぱたぱた動かしながら続ける。


「みんな、灰原のせいじゃないって言ってたなの!」


「忘れたなの?」


しかし灰原は悲しそうに笑った。


「いえ、覚えていますよ……」


「ですが、私は自分を信じられないのです」


「そして怖いの……」


「また、大切な存在を破壊しそうでっ!」


その瞬間。


彩葉は何も言わず、灰原を抱きしめた。


「ッ!?」


灰原の目が大きく開く。


「大丈夫ですよ」


彩葉の声は優しかった。


「私にはわかる気がします」


「灰原さんは、そんなことしないって」


「…………」


灰原の身体から力が抜けていく。


長い年月、誰にも見せられなかった不安。


押し込めてきた恐怖。


それらが少しだけ溶けていく。


「……すみません」


「カッコ悪いところをお見せしました」


「ありがとうございます」


「少し、勇気をもらいました」


そして小さく微笑んだ。


「……そうです」


「ついてきてください」


「私のこと、もう少しお話ししましょう」


三人は夕暮れの街を歩いた。


人々の笑い声。


優しく吹く風。


平和記念公園を抜け、やがて一つの建造物の前に立つ。


「ここです」


彩葉は見上げた。


「ここは?」


アビが答える。


「原爆ドームなのです」


「原爆ドーム……」


崩れたレンガ。


むき出しになった鉄骨。


それでも立ち続ける建物。


悲劇を忘れないために。


二度と繰り返さないために。


その願いを込めて残された場所。


灰原は静かに語り始めた。


「……原子爆弾が落ちて残った建造物を、悲劇を忘れないために残したものです」


「……私のこと、お話ししますね……」


彩葉とアビは静かに耳を傾けた。


「私は第一次共生世界大戦の時に生まれました……」


「生まれた直後、私は大量の想霊と怨念に取り憑かれ、暴走し……アメリカを襲撃しました」


彩葉が息を呑む。


「私と同じ境遇の、放射線の守護者『ホウシャン』と共に……」


「そして私は暴れに暴れ……」


「アメリカ合衆国の守護者『ローズ』との戦いに勝ったサクラが、私を止めに来て……」


「私は敗れ……救われました」


「そして約束をしたのです」


灰原は空を見上げた。


「私とホウシャンを生かす代わりに、この国を守ってほしい、と」


「そうしてホウシャンは、生まれた場所と離れた佐世保へ」


「私は呉市に住むことになりました」


「そうなんですね……」


彩葉は胸が締め付けられる思いだった。


アビは笑顔で羽を揺らす。


「最初は遠慮がちで、灰原は交流を避けてたなの」


「でも、少しずつみんなと話すようになったなの!」


灰原は少し照れたように微笑んだ。


「はい……」


「皆さんに混ざりたかったのかもしれません」


「一人は……寂しいですから」


夕日が沈み始める。


空は赤から紫へと変わり始めていた。


その時だった。


ドサッ。


突然、何かが倒れる音が響く。


「え!?」


彩葉が振り返る。


歩道の近く。


一人の少女が倒れていた。


白い髪。


ボロボロになった服。


身体中に傷があり、まるで長い間まともに休んでいなかったような姿。


「女の子、なの?」


アビが慌てて駆け寄る。


灰原はすぐにしゃがみ込み、少女の様子を確認した。


「いえ……守護者です」


「すごくボロボロ……」


「このままでは弱ります」


「えええ!?どうしよう!」


彩葉が慌てて右往左往する。


「落ち着いてください!」


灰原はしっかりした声で言った。


「近くに休憩スペースがあるはずです」


「そこに運びましょう」


「は、はい!」


「わかったなの!」


すると倒れていた少女の唇がかすかに動いた。


「…………うぅぅ…………」


その声はとても小さく。


今にも消えてしまいそうなほど弱々しかった。


三人は顔を見合わせる。


そして急いで少女を助けるため、動き出した。 

ここまで読んでくれてありがとうございます。

次回もお楽しみに

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