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Re:アルケオン〜守護者として生まれた私は世界を旅する〜  作者: れんP
アジアの章 日本編

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第五十四話 「風を駆ける守護神」



 広島県 呉市。


 軍港の空気が残る街並みの上で、彩葉とアビは向かい合っていた。


 海風が強く吹き抜け、帽子のない髪が揺れる。


「ねぇ彩葉(いろは)


「はい?」


 アビは軽く地面を蹴ると、ふわりと数十センチ浮かび上がった。


 その動きは自然で、重力を忘れているかのようだった。


「移動するなら、飛んだ方が速いの」


「飛ぶ……?」


 彩葉は首をかしげる。


 守護者は基本的に水上歩行はできるが、空を飛ぶという概念は持っていない。


 少なくとも日本生まれの守護者はそうだと聞いていた。


「そうなの。アビの技」


 アビはにやっと笑う。


「エアーライド」


 その瞬間。


 空気が変わった。


 風が一点に集まり、足元に透明な“流れ”のようなものが形成されていく。


 見えない階段。


 見えない道。


 それが空へと伸びていた。


「え……なにこれ……」


「乗るの」


 アビは軽やかにその“空気の道”へ足を置いた。


 まるで地面の上を歩くように自然だった。


 そして手を差し伸べる。


「大丈夫なの。落ちないの」


「ほんとですか……?」


「ほんとなの」


 少し迷ったあと、彩葉はそっとその手を取った。


 次の瞬間。


 ふわり。


 身体が浮いた。


「わっ……!」


 驚く間もなく、足元にしっかりとした“風の道”が感じられる。


 踏みしめても沈まない。


 むしろ地面より安定しているような不思議な感覚。


「すごいです……!」


「でしょなの」


 アビは楽しそうに笑いながら先へ進む。


 二人はそのまま空へと歩き出した。


 呉の街がゆっくりと下へ離れていく。


 港。


 船。


 軍港の建物群。


 そして海。


 すべてが小さくなっていく。


「本当に飛んでます……!」


「飛んでないの。歩いてるの」


「でも空ですよ!?」


「風の上だから歩きなの」


 アビは不思議な理屈を当然のように語る。


 彩葉は少し混乱しながらも、その景色に目を奪われていた。


 瀬戸内海が広がる。


 点在する島々。


 白い波。


 遠くの地平線。


「きれいです……」


 思わず呟く。


 風が頬を撫でる。


 空は青く、どこまでも続いている。


「彩葉は面白いの」


「え?」


 歩きながらアビが言う。


「初めて会ったとき、すごく真っすぐだったの」


「真っすぐ?」


「うん。怖いとか、迷いとかより、先に“行く”って決めてたの」


 彩葉は少し考える。


「そう、かもしれません」


「だから気に入ったの」


 アビは軽く笑った。


「面白いものは好きなの」


「ありがとうございます?」


「ありがとうじゃないの。事実なの」


 少しズレた会話。


 でもそれが逆に心地いい。


 風が流れる音だけが周囲を満たす。


 やがてアビが前方を指差した。


「あっちなの」


「何がですか?」


「広島市なの」


 その言葉に彩葉は顔を上げる。


 遠くにうっすらと大きな都市の影が見えてきていた。


 高い建物。


 広がる川。


 街の密度。


「大きいですね……」


「人も多いの」


「そうなんですね」


 アビは少しスピードを上げる。


 風の道がそれに合わせて伸びる。


 二人は空を滑るように進んでいく。


 やがて、風景が一気に変わった。


 川が見える。


 橋が見える。


 建物が密集し始める。


 そして人の気配が一気に濃くなる。


「ここが……」


 彩葉は息を呑む。


 街のスケールが呉とはまったく違う。


 生命の密度が高い。


 音が多い。


 気配が重なる。


「広島市なの」


 アビが言う。


 風の道がゆっくりと降下し始める。


 地面へ。


 都市へ。


 やがて二人は川沿いの広い場所へと降り立った。


 風が止む。


 空気が変わる。


 目の前には大きな都市の景色。


 高層ビル。


 川。


 行き交う人々。


 車の音。


 すべてが混ざり合っている。


「広島県広島市……」


 彩葉はゆっくりと呟いた。


 新しい街。


 新しい気配。


 そしてまた、新しい出会いの気配が確かにそこにあった。


 アビはその横で、楽しそうに空を見上げている。


「ここからもっと面白くなるの」


 そう言って、翼を小さく揺らした。

ここまで読んでくれてありがとうございます。

次回もお楽しみに

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