第五十話 波間に響く絆
瀨戸内海 直島。
月明かりに照らされた海。
祭りの最後を飾る海上模擬戦闘。
直と朱鬼が静かに向かい合う。
誰もが息を呑んでいた。
子供たちは目を輝かせ。
大人たちは穏やかな笑顔を浮かべ。
観光客たちも、この不思議な祭りの締めくくりを見守っていた。
彩葉もまた、胸を高鳴らせながら二人を見つめている。
「始まる……」
塔風が隣で微笑んだ。
「今年も楽しみです」
海風が吹く。
波が静かに揺れる。
そして。
直が大剣を構えた。
朱鬼が妖力の金棒を肩に担ぐ。
「行くよ」
「おう!」
次の瞬間。
ドンッ!!
海面が爆ぜた。
「ふぇっ!?」
彩葉は思わず声を上げる。
直の姿が消えた。
いや。
速すぎて見えない。
ザバァァァァン!!
海面を蹴りながら一直線に駆ける。
「速い!」
同時に。
朱鬼も浮きマットを蹴った。
さらにその先に浮かぶ板へ飛び移る。
「おぉぉぉぉ!!」
妖力を纏った金棒が振り上げられる。
そして。
ガギィィィィン!!
大剣と金棒が激突した。
凄まじい衝撃。
だが。
波は不思議と荒れない。
海そのものが二人を受け入れているかのようだった。
「すごい……!」
彩葉は目を輝かせる。
直が笑った。
「まだまだ!」
大剣が横薙ぎに振るわれる。
朱鬼は飛び退き、別の浮き板へ。
「危ねぇ!」
そのまま金棒を振り下ろす。
ブォォォォン!!
空気を裂く音。
直は身体を傾け、紙一重でかわした。
そのまま海面を滑るように移動する。
「おぉー!!」
「守護者様ー!」
島の人々の歓声が響く。
子供たちは大はしゃぎだ。
「直ちゃん速い!」
「朱鬼ちゃん負けるなー!」
その声を聞いて。
朱鬼が笑った。
「応援されると燃えるな!」
「昔は喧嘩だったのに」
「今は祭りだ!」
「そうだね」
二人は笑う。
そして再び。
ドンッ!!
衝突。
ガギィィン!!
火花が散る。
妖力。
身体能力。
技術。
互いの力がぶつかり合う。
だが。
殺気はない。
怒りもない。
そこにあるのは。
信頼。
友情。
そして。
楽しさだった。
「すごい……」
彩葉は見惚れていた。
すると。
塔風が優しく微笑む。
「昔は違ったそうです」
「うん」
「二人とも、もっと若くて」
「本当に戦ってしまった」
「守護者と鬼人」
「互いの考えがぶつかって」
「大喧嘩になった」
彩葉は静かに聞く。
「でも」
「最後にはお互いを理解したんです」
「それから毎年」
「こうして戦ってるんですよ」
彩葉は海を見る。
そこでは。
ガキィィィン!!
「ははははは!」
「ふふっ!」
二人が楽しそうに笑っていた。
(仲良しなんだ)
昔は敵。
今は友。
そんな関係もある。
その時。
朱鬼が大きく跳躍した。
「行くぞ直!」
「来て」
妖力が渦巻く。
金棒が赤く輝く。
「鬼人流!」
ブォォォォォン!!
大振り。
直は大剣を構えた。
「直島流」
ガァァァァン!!
再び衝突。
だが。
二人とも吹き飛ばない。
むしろ。
笑っている。
「昔より強くなったな!」
「朱鬼こそ」
「昔より頭使うようになった!」
「失礼な!」
観客席から笑いが起きる。
「あははは!」
「仲良いなぁ!」
「毎年これだから!」
すると。
朱鬼が急にニヤリと笑った。
「直」
「なに」
「昔のやつ」
「やる?」
直の目が少し細くなる。
「いいよ」
塔風が青ざめた。
「え」
「え?」
彩葉も首を傾げる。
「昔のやつ?」
次の瞬間。
二人の気配が変わった。
「!?」
彩葉の身体が震える。
(つ、強い……!)
今までとは比べものにならない。
もちろん本気ではない。
それでも。
長い年月を生きてきた者たちの重み。
積み重ねた力。
経験。
それらが一瞬だけ解放された。
塔風が慌てる。
「二人とも!」
「島壊しちゃダメですよ!?」
「わかってる」
「加減する」
しかし。
周囲の島民たちは。
「来た!」
「おぉ!」
「昔の技!」
「久しぶりだ!」
なぜか大歓声。
「えぇ!?」
彩葉だけが驚いていた。
すると。
近くのおじいさんが笑った。
「安心しなさい」
「守護者様たちは優しいからな」
「加減は知ってる」
「でも」
「迫力だけは保証するぞ!」
彩葉はごくりと唾を飲んだ。
海の上。
月の下。
直と朱鬼が笑い合う。
「負けるなよ」
「そっちこそ」
そして。
二人は同時に海面を蹴った。
その瞬間。
夜空に二つの光が走った。
「わぁぁぁぁ!?」
彩葉の歓声と。
島中の歓声が重なる。
直島の夜は。
まだ終わらなかった。
ここまで読んでくれてありがとうございます。
次回もお楽しみに




