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Re:アルケオン〜守護者として生まれた私は世界を旅する〜  作者: れんP
アジアの章 日本編

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第四十九話 波間に刻まれた約束



 瀨戸内海 直島。


 夜の帳が下りた海辺には、祭りの最後を楽しみに集まった人々の姿があった。


 子供たちは目を輝かせ。


 大人たちは穏やかな笑みを浮かべ。


 観光客らしき者たちも、島の人々と共に海を見つめている。


 海面には月明かりが反射し、無数の星々が夜空を彩っていた。


 彩葉(いろは)もまた、そんな人々に混じりながら海を見つめていた。


「すごい人ですね」


 隣に立つ塔風(とうか)が微笑む。


「毎年こうなんです」


「毎年?」


「はい。この海上模擬戦闘は、島のみんなにとって大切なお祭りの締めなんですよ」


 すると。


 沖の方から大きな歓声が上がった。


「おーい!」


「守護者様ー!」


「今年も頼むぞー!」


 声の先。


 海上。


 そこには既に直の姿があった。


 白髪を夜風になびかせながら、海面の上に立っている。


 まるで海そのものに立っているかのような姿。


 日本生まれの守護者特有の水上歩行。


 幻想的な光景だった。


「わぁ……」


 彩葉は目を丸くする。


「綺麗……」


 その時。


「よっと!」


 反対側から朱鬼(しゅき)の声が聞こえてきた。


 彩葉がそちらを見る。


「え?」


 海の上に浮かんでいる大きな浮きマット。


 その上に朱鬼が立っていた。


「ええっ!?」


 彩葉は思わず声を上げた。


「海の上に立ってない!」


 塔風が苦笑する。


「朱鬼さんは鬼人ですからね」


「鬼人は日本生まれじゃないの?」


「半妖ですので、守護者とは少し違うんです」


「あ、そうなんですね」


 すると。


 朱鬼が笑った。


「昔はもっと大変だったんだぞ?」


「昔?」


「昔の私は流木を足場にしてたんだ」


「流木!?」


 彩葉は目を丸くする。


「そんなので戦ってたんですか!?」


「おう」


 朱鬼は笑う。


「海に浮かんでる木を探してな」


「それを蹴って飛び移って」


「また別の流木を見つけて」


「そんな感じ」


「危なくないですか!?」


「危なかった」


 朱鬼はあっさり言った。


「何度も落ちた」


「でも、今は便利な時代だ」


 ぽんぽんと足元の浮きマットを叩く。


「浮きマットに浮き板、漁師さんから借りる浮き台」


「色々あるから助かる」


 直が少しだけ笑った。


「昔よりは楽になった」


「直は変わらず海の上だけどな」


「朱鬼が泳げばいい」


「嫌だ」


「なぜ」


「鬼人の誇りだ」


「意味がわからない」


 そんな二人のやり取りに、島の人々が笑う。


「今年も仲良しだな!」


「頑張れよー!」


「負けるなー!」


 歓声が飛ぶ。


 すると。


 朱鬼の表情が変わった。


「さて」


 右手を握る。


 ブワッ!!


 赤い妖力が吹き上がった。


 その妖力はやがて形を変え。


 巨大な金棒となる。


「おぉ……!」


 彩葉は息を呑んだ。


「妖力……!」


 長さ二メートルほどもある赤黒い金棒。


 表面には鬼の紋様が浮かび上がり、妖力の炎が揺らめいている。


「これが朱鬼さんの武器……」


 塔風が頷く。


「妖力で作った金棒です」


「昔から変わらないんですよ」


 対する直。


 ゆっくりと背中の大剣を抜く。


 ギィ……


 巨大な刀身。


 月光を受けて輝くその姿に、海風が震えた。


 彩葉の背筋にぞくりとしたものが走る。


(強い……)


 戦っていない。


 本気でもない。


 なのに。


 二人から発せられる圧が、海そのものを揺らしているようだった。


「これ……模擬戦なんですよね?」


「はい」


 塔風が頷く。


「本気ではありません」


「え?」


「本気だったら島がなくなります」


「なくなる!?」


「昔の戦いは、それくらい凄かったそうです」


 彩葉は目を丸くした。


 そんな二人が今では笑い合い。


 祭りの最後を飾るために戦う。


 不思議な関係だった。


 すると。


 直が静かに剣を構える。


「準備はいい?」


 朱鬼が笑う。


「いつでも」


「今年も負けない」


「それはこっちの台詞だ」


 海風が吹く。


 波が揺れる。


 月明かりが二人を照らす。


 その姿はまるで神話の一場面だった。


 彩葉は思わず見入ってしまう。


「すごい……」


 人間。


 亜人。


 半妖。


 みんなが笑顔で見守る。


 争いではない。


 憎しみでもない。


 強さを競い合いながらも、互いを信頼し、認め合う。


 そんな戦い。


(これも……守るってことなのかな)


 彩葉は胸の奥でそう思った。


 すると。


 朱鬼が大きく息を吸う。


「今年も派手にいくぞ!」


 直も剣を肩に担ぐ。


「受けて立つ」


 その瞬間。


 島中の人々が歓声を上げた。


「いけー!」


「守護者様ー!」


「朱鬼ちゃん頑張れー!」


「直ちゃん負けるなー!」


 夜の瀨戸内海。


 月明かりの下。


 二人の影が静かに向かい合う。


 そして。


 祭り最後の海上模擬戦闘が、今まさに始まろうとしていた。

ここまで読んでくれてありがとうございます。

次回もお楽しみに

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