第四十五話 芸術の島へ渡る海
瀨戸内海。
朝の光を受けた海面がきらきらと輝いている。
彩葉は海岸に立ち、遠くに見える島々を眺めていた。
「わぁ......」
海の向こうにはいくつもの島が見える。
どれも緑に包まれ、美しい景色を作り出していた。
京都の山々とも違う。
東京の街並みとも違う。
三重の神聖な空気とも違う。
大阪の賑やかさとも違う。
そしてさぬき市とも違う。
それぞれに違う魅力がある。
彩葉は改めて旅の楽しさを感じていた。
「直島......」
地図を見る。
目的地はあそこだ。
芸術の島。
祭りが行われている島。
マミが勧めてくれた場所。
行かない理由はなかった。
「よし!」
彩葉は一歩踏み出した。
海面へ。
普通の人間ならそのまま沈む。
だが彩葉の足は沈まない。
海面が波紋を作るだけだった。
「おお~!」
彩葉は少し感動した。
久里子から教わった水上歩行。
大阪から四国へ渡る時にも使ったが、まだ新鮮だった。
「本当に歩ける......」
海の上に立つ。
普通ではありえない感覚。
波が足元を通り過ぎていく。
それでも沈まない。
不思議だった。
彩葉はゆっくり歩き始めた。
海風が髪を揺らす。
潮の香りが漂う。
空では海鳥たちが飛び回っていた。
穏やかな時間だった。
しばらく進む。
すると近くを貨物船が通り過ぎていく。
巨大な船だった。
「大きい......」
彩葉は思わず見上げる。
京都では見なかった。
三重でも見なかった。
海ならではの光景だった。
船員らしき人が彩葉に気付く。
「おーい!」
彩葉も手を振る。
「こんにちはー!」
「守護者様だー!」
「気をつけてなー!」
「はーい!」
船はゆっくりと離れていく。
彩葉は笑顔で見送った。
旅をしていると色々な人と出会う。
それが楽しかった。
さらに進む。
瀨戸内海は穏やかだった。
波も高くない。
空も晴れている。
まるで旅を歓迎しているようだった。
途中、小さな島が見えた。
無人島だろうか。
木々に覆われている。
「島がいっぱいありますね......」
彩葉は周囲を見回す。
島。
また島。
さらに島。
瀨戸内海が多島海と呼ばれる理由が少し分かった気がした。
歩きながら景色を楽しむ。
守護者は疲れにくい。
だからこそ景色を見る余裕もある。
彩葉は海面に映る空を眺めた。
青空。
白い雲。
そして輝く太陽。
とても綺麗だった。
「いい天気です」
誰に言うでもなく呟く。
すると。
突然何かが海面から跳ねた。
「ふぇっ!?」
彩葉は驚く。
見れば魚だった。
銀色の体を輝かせながら海へ戻っていく。
「びっくりしたぁ......」
彩葉は胸を撫で下ろす。
しかしその直後。
また別の魚。
さらに別の魚。
次々と跳ねる。
「おお~!」
今度は驚きより感動だった。
魚たちはまるで歓迎しているようだった。
彩葉は思わず笑顔になる。
「こんにちはー!」
魚に向かって手を振る。
もちろん返事はない。
だがなんとなく楽しかった。
そんな時間が続く。
そして。
やがて。
遠くに見えていた島が大きくなってきた。
建物が見える。
港も見える。
山も見える。
「もしかして......」
彩葉は目を輝かせる。
「直島!」
目的地だった。
海の向こうにあった島が目の前にある。
彩葉は自然と足を速めた。
波紋が次々と広がる。
海鳥たちが空を舞う。
風が吹く。
そして。
ついに。
彩葉の足が陸地へ届いた。
「着いたー!」
彩葉は思わず両手を上げた。
直島。
芸術の島。
新たな目的地。
新たな出会いが待つ場所。
港には観光客らしき人々もいる。
人間。
妖怪。
亜人。
妖精。
様々な存在が行き交っていた。
祭りの準備なのだろうか。
どこか賑やかな空気も感じる。
彩葉は周囲を見回した。
「すごい......」
港の近くには色鮮やかなオブジェが置かれている。
普通の街では見ない形だ。
大きな球体。
不思議な彫刻。
幾何学模様。
どれも独特だった。
「これが芸術......?」
彩葉は首を傾げる。
まだよく分からない。
けれど面白そうだった。
知らないものを見るのは好きだ。
だからこそ旅をしている。
彩葉は港から続く道へ視線を向けた。
島の奥へ続いている。
森も見える。
家々も見える。
そしてどこかから楽しそうな音楽も聞こえてきた。
「楽しそう!」
彩葉は笑顔になる。
新しい場所。
新しい景色。
新しい出会い。
それらが彼女を待っている。
バッグの守護者・彩葉は胸を弾ませながら。
芸術の島、直島の中へと歩き出した。
ここまで読んでくれてありがとうございます。
次回もお楽しみに




