第四十四話 芸術の島へ
翌日。
香川県さぬき市。
さぬき市平和公園。
朝の光が公園を優しく照らしていた。
昨夜の出来事が嘘のように穏やかな朝だった。
木々の葉が風に揺れ、小鳥たちが楽しそうに鳴いている。
彩葉は体育館の前でマミと話していた。
「え!?そうなの?」
マミは小さく頷いた。
「うん、ここを守るためにニーミに四国八十八ヶ所巡りをしたらどうだ?って言われたから、だから、一緒には行けないけど......応援してるよ」
「うん!」
彩葉は満面の笑みを浮かべた。
マミも少しだけ微笑む。
以前なら考えられなかった表情だった。
少しずつだが変わっている。
彩葉にはそれが嬉しかった。
「あと......」
「?」
「あまり無茶しないで」
「だいじょうぶ!」
「その元気が心配......」
マミがぽつりと呟く。
彩葉は首を傾げた。
「?」
マミは小さくため息をつく。
「なんでもない......」
その様子に彩葉は思わず笑ってしまった。
するとマミも少しだけ笑った。
そんな穏やかな時間が流れる。
しばらくして。
マミが何かを思い出したように言った。
「あ、そうだ、瀨戸内海の島の『直島』でなにかお祭りをやるらしいよ、行ってみたら?」
「直島?」
「うん」
マミは頷く。
「あそこは芸術の島でもあるから、きっと良い思い出になるよ」
「うん!ありがと!」
彩葉は元気よく返事をした。
するとマミは少し安心したように微笑んだ。
「うん」
その後。
彩葉は平和公園のみんなにも挨拶をした。
老人。
老婆。
公園の管理人。
顔見知りになった人たち。
みんなが笑顔で見送ってくれる。
「守護者様!気をつけてな!」
「また来るんだよ!」
「次はもっとゆっくりしていきな!」
「うん!」
彩葉は何度も手を振った。
こうして見送られるのは初めてだった。
旅に出た時は誰も知らなかった。
けれど今は違う。
少しだけ繋がりができていた。
それがなんだか嬉しかった。
平和公園を後にした彩葉は地図を取り出した。
「えっと......直島......」
指で場所を確認する。
「こっちかな?」
陽菜から受け取った知識。
旅で学んだ経験。
それらを頼りに道を考える。
直島は瀨戸内海に浮かぶ島。
香川県側からも行くことができる。
「よし!」
彩葉は歩き始めた。
さぬき市の街を抜ける。
朝の商店街。
学校へ向かう子供たち。
通勤する大人たち。
その様子を眺めながら歩く。
「おはようございます!」
彩葉が挨拶すると。
「おはよう!」
元気よく返事が返ってくる。
彩葉は嬉しくなった。
京都では何も知らなかった。
東京では驚くことばかりだった。
三重では神々と出会った。
大阪では新しい守護者と知り合った。
そして四国では友達もできた。
旅をするたびに世界が広がっていく。
「世界って面白いなぁ」
彩葉は空を見上げた。
青空が広がっている。
しばらく歩くと海が見えてきた。
「わぁ!」
思わず声が出る。
瀨戸内海だ。
穏やかな海面が朝日に照らされ輝いている。
波も静かだった。
遠くには島々が見える。
「きれい......」
彩葉はしばらく見入った。
同じ海でも大阪で見た海とは違う。
場所が変われば景色も変わる。
それが面白かった。
海辺を歩いていると。
小さな港が見えてきた。
漁船や小型船が並んでいる。
人々が忙しそうに働いていた。
彩葉は興味津々で見回す。
「すごい......」
魚を運ぶ人。
網を整備する人。
荷物を積む人。
みんな一生懸命だった。
すると。
「おや?」
漁師の男性が彩葉に気付いた。
「守護者様じゃないか」
「こんにちは!」
「こんにちは!」
彩葉は元気よく挨拶する。
男性は笑った。
「元気だなぁ」
「はい!」
「どこまで行くんだい?」
「直島!」
「おお、芸術祭か!」
「芸術祭?」
「祭りのことさ」
「そうなんですね!」
彩葉は目を輝かせた。
知らなかった。
だが祭りと聞くだけで楽しみになる。
桜菊祭のことを思い出した。
あの時も色々な出会いがあった。
「楽しみです!」
「ははは!」
漁師は豪快に笑った。
「気をつけて行くんだぞ!」
「うん!」
彩葉は手を振りながら再び歩き出す。
海風が心地よい。
潮の香りがする。
鳥たちが空を飛んでいる。
しばらく進む。
そして。
高台へ登った時だった。
「わぁ......!」
彩葉は思わず立ち止まった。
目の前に広がる瀨戸内海。
大小様々な島々。
輝く海面。
どこまでも続く青。
まるで絵画のような景色だった。
「綺麗......」
自然と笑みがこぼれる。
旅に出てよかった。
本当にそう思えた。
彩葉は風を受けながら目を閉じる。
世界は広い。
知らないものだらけだ。
だから楽しい。
だから知りたい。
だから旅を続けたい。
彩葉は再び目を開いた。
「よーし!」
元気よく拳を握る。
「次は直島!」
新たな目的地。
新たな出会い。
新たな景色。
バッグの守護者・彩葉の旅はまだまだ続く。
彼女は瀨戸内海を見つめながら。
芸術の島へ向かって歩き出した。
ここまで読んでくれてありがとうございます。
次回もお楽しみに




