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Re:アルケオン〜守護者として生まれた私は世界を旅する〜  作者: れんP
アジアの章 日本編

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第四十二話 面の奥に残されたもの


 封印洞窟最深部。


 巨大な要石から放たれる光が空間全体を照らしていた。


 無数の札が揺れている。


 数百年前。


 空海と共に祟面を封印した者たちの祈り。


 その残留思念たちは今も消えていなかった。


 彩葉は要石を胸に抱きながら祟面を見つめる。


 祟面もまた彩葉を見ていた。


 四枚の石面がゆっくりと回転する。


 怒り。


 悲しみ。


 憎悪。


 狂気。


 それらは黒い霧の身体を守るように浮いていた。


「私……少しだけ分かった気がする」


 彩葉は静かに言った。


 祟面が唸る。


「何がだ!」


「あなたのこと」


「知ったような口をきくな!!」


 怒りの面が震える。


 だが彩葉は引かなかった。


「だって」


「あなた、苦しいんでしょう?」


 その瞬間。


 洞窟の空気が変わった。


 祟面の身体から黒い霧が噴き出す。


「黙れェェェェェェェッ!!」


 ドォォォォォン!!


 衝撃波が炸裂した。


 彩葉の身体が吹き飛ばされる。


「きゃぁっ!」


 岩壁へ激突しかけたその時。


 要石が光る。


 金色の結界が生まれた。


 彩葉は何とか着地する。


 祟面は荒々しく呼吸していた。


「苦しい?」


「違う!」


「悲しい?」


「違う!」


「寂しい?」


「違うッ!!」


 怒号が洞窟を揺らす。


 しかし。


 彩葉には分かっていた。


 否定すればするほど。


 祟面の声が震えていることに。


 彩葉は一歩前へ出る。


「なら教えて」


 祟面が睨む。


「何が残ってるの?」


 沈黙。


 数秒。


 いや。


 もっと長く感じられた。


 やがて。


 悲しみの面が僅かに揺れた。


「残っているもの……だと?」


 小さな声。


 初めて聞く穏やかな声だった。


 怒りの面が叫ぶ。


「話すな!」


 憎悪の面が吠える。


「黙れ!」


 狂気の面が笑う。


「ククククククク!!」


 しかし。


 悲しみの面は続けた。


「昔……」


 祟面の動きが止まる。


「我は……人々の願いからも生まれていた」


 彩葉は目を見開く。


「え?」


 悲しみの面が呟く。


「守りたい」


「救いたい」


「生きてほしい」


「平和でいてほしい」


 その言葉に。


 怒りの面が激しく震えた。


「やめろォォォ!!」


 ドォォォォォン!!


 黒い霧が悲しみの面を包む。


 しかし。


 光がそれを弾いた。


 要石だった。


 祭壇だった。


 空海の遺した封印が反応したのだ。


 彩葉は息を呑む。


 すると。


 光の残留思念たちが一斉に祟面へ手を伸ばした。


 祟面が後退する。


「来るな!」


「来るなァァァ!!」


 その姿はまるで怯える子供のようだった。


 彩葉は歩く。


 一歩。


 また一歩。


「祟面」


「近付くな!!」


「あなたの中には善い心もあるんだよね?」


「ない!」


「あるよ」


「ないッ!!」


 怒りの面が飛び出した。


 彩葉へ突撃する。


 黒い炎が吹き荒れる。


 だが。


 彩葉は避けなかった。


 魔力が流れる。


 血管の中を巡る力。


 陽菜から教わった力の使い方。


 心臓から全身へ巡る魔力。


 それを両手へ集中させる。


「拘束!」


 紫色の光帯が飛び出した。


 怒りの面へ絡み付く。


 ギギギギギッ!!


「離せェェ!!」


「離さない!」


 彩葉は踏ん張る。


 怒りの面が暴れる。


 しかし。


 その背後から光の手が伸びた。


 残留思念たちだった。


 何百。


 何千。


 無数の手。


 それが怒りの面を包み込む。


「やめろ!」


「嫌だ!」


「消えたくない!」


 怒りの面が叫ぶ。


 彩葉は悲しそうな顔をした。


「消えるんじゃない」


「え?」


「眠るだけだよ」


 光が強くなる。


 そして。


 パリン。


 怒りの面が砕けた。


 黒い欠片が舞う。


 その中から小さな金色の光が現れた。


 それは穏やかな表情をした面だった。


 怒りではない。


 勇気。


 立ち向かう意志。


 その感情だった。


 祟面が震える。


「やめろ……」


 次は憎悪の面だった。


「貴様ァァァ!!」


 黒い槍が無数に生まれる。


 彩葉へ降り注ぐ。


 しかし。


 祭壇の札が飛び立った。


 無数の札が槍を打ち消していく。


 パァァァァァッ!!


 光が憎悪の面を包み込む。


「違う!」


「私は憎しみだ!」


「私は恨みだ!」


「私は呪いだ!」


 彩葉は首を振る。


「違う」


「あなたは誰かを守りたかったんだ」


 憎悪の面が止まる。


「え……」


「傷付いてほしくなかったんだ」


 光が広がる。


「だから怒ったんでしょう?」


 憎悪の面が震える。


 やがて。


 パリン。


 砕けた。


 現れたのは慈愛の面だった。


 優しい顔だった。


 次に狂気の面。


 狂ったように笑い続ける面。


 だが彩葉は逃げない。


「怖かったんだね」


 笑い声が止まる。


「誰にも理解されなくて」


 狂気の面が震えた。


 そして。


 静かに砕ける。


 その中から現れたのは希望の面だった。


 最後に残ったのは悲しみの面。


 祟面の身体もほとんど消えている。


 黒い霧は僅か。


 悲しみの面だけが残っていた。


 彩葉はゆっくり近付く。


「あなたは?」


 悲しみの面が答える。


「私は……」


 長い沈黙。


「寂しかった」


 その一言だった。


 彩葉は目を細める。


「うん」


「誰も分かってくれなかった」


「うん」


「ずっと一人だった」


「うん」


 悲しみの面から涙のような光が零れる。


「もう……疲れた」


 彩葉はそっと手を伸ばした。


「お疲れさま」


 悲しみの面が目を閉じる。


 そして。


 パリン。


 静かに砕けた。


 光が溢れる。


 洞窟を埋め尽くすほどの光。


 黒い霧は消えた。


 残ったのは。


 一枚の面。


 白く輝く石面だった。


 優しい笑顔。


 温かな光。


 勇気。


 慈愛。


 希望。


 優しさ。


 全てを宿した面。


 それが祭壇の上へ静かに降り立つ。


 彩葉は呆然と見つめていた。


 すると。


 その白い面から声が聞こえた。


「ありがとう」


 とても穏やかな声だった。


「君が思い出させてくれた」


 彩葉は微笑む。


「よかった」


 白い面は静かに光る。


「私はもう祟面ではない」


 光が広がる。


「長い間忘れていた」


 祭壇の札が揺れる。


「本当の私を」


 そして。


 白い面は彩葉へ向けて静かに頭を下げた。


「ありがとう」


 数百年続いた災厄は。


 この瞬間。


 終わりを迎えたのだった。

ここまで読んでくれてありがとうございます。

次回もお楽しみに

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