表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
Re:アルケオン〜守護者として生まれた私は世界を旅する〜  作者: れんP
アジアの章 日本編

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
39/80

第三十九話 四つの面を持つ災厄



 讃岐山脈深部。


 封印洞窟。


 地面が震える。


 空気が震える。


 山そのものが悲鳴を上げているようだった。


 陰陽師たちも動きを止めている。


 彩葉(いろは)も息を呑んでいた。


 洞窟の奥。


 そこから溢れ出る黒い霧がどんどん濃くなっていく。


 まるで夜そのものが流れ出しているようだった。


 ドクン。


 ドクン。


 ドクン。


 巨大な鼓動。


 そのたびに地面が揺れる。


 そして。


 黒い霧が一箇所へ集まり始めた。


 渦を巻く。


 圧縮される。


 凝縮される。


 やがてそれは巨大な人型の輪郭を形作った。


 彩葉は目を見開く。


「......あれが」


 霧が晴れていく。


 そこにいたのは異形だった。


 身体は黒い霧。


 足も腕も曖昧で実体がない。


 だが中心部だけははっきりしている。


 胸の位置。


 そこには巨大な石の面が浮いていた。


 さらに。


 前。


 後ろ。


 右。


 左。


 四方向を守るように巨大な石面が浮遊している。


 どの面も表情が違った。


 一つは怒り。


 一つは悲しみ。


 一つは憎悪。


 一つは狂笑。


 四枚の面が黒い霧の身体を守護するように回転していた。


 その姿は神とも悪魔とも違う。


 ただ純粋な災厄。


 そう呼ぶのが相応しかった。


「我は......」


 低い声が響く。


「祟面」


 空気が震えた。


 山全体が軋む。


 彩葉の背筋を冷たいものが走った。


 強い。


 今まで出会ったどんな存在よりも圧倒的だった。


 太歳星君ですら比較にならない。


 あれは確かに災厄だ。


 老人の陰陽師が興奮したように叫ぶ。


「成功だ!」


「成功したぞ!」


「祟面様!」


 周囲の陰陽師たちも歓喜する。


「ついに!」


「ついに目覚めた!」


「我らの時代だ!」


 だが。


 祟面はゆっくりと視線を向けた。


 四枚の面が一斉に陰陽師たちを見る。


 その瞬間。


 彩葉は嫌な予感がした。


 次の瞬間。


 怒りの面が口を開く。


「愚か」


 ドォンッ!!


 黒い衝撃波が放たれた。


「なっ!?」


「ぎゃああああ!」


「ぐああああ!」


 陰陽師たちが吹き飛ぶ。


 木々がなぎ倒される。


 岩が砕ける。


 彩葉も咄嗟に岩陰へ飛び込んだ。


 轟音。


 土煙。


 悲鳴。


 それらが混ざり合う。


 やがて煙が晴れる。


 そこには。


 十数人いた陰陽師のうち半数以上が倒れていた。


「な......」


「祟面様......?」


 老人が呆然とする。


 祟面は冷たく言った。


「我を利用しようとしたか」


「虫けら風情が」


 狂笑の面が嗤う。


「ククククククク」


「滑稽だ」


 悲しみの面が呟く。


「愚かなり」


 憎悪の面が唸る。


「滅びよ」


 老人は震え始めた。


「ま、待ってください!」


「我々は味方です!」


「あなたを解放したのです!」


 祟面は答えた。


「頼んだ覚えはない」


 その言葉だけで絶望が広がった。


 彩葉は理解する。


 陰陽師たちは祟面を利用しようとした。


 だが祟面は誰の味方でもない。


 災厄そのものなのだ。


 老人は叫ぶ。


「術式展開!」


「封縛陣!」


 生き残った陰陽師たちが一斉に札を投げた。


 大量の光。


 巨大な結界。


 それが祟面を包み込む。


 しかし。


 祟面は動かない。


 ただ見ている。


 そして。


 パリン。


 結界が砕けた。


 まるでガラスのように。


「え......?」


 陰陽師たちの顔が青ざめる。


 次の瞬間。


 祟面の周囲から無数の黒い腕が現れた。


「うわああああ!」


「助けて!」


「いやだ!」


 腕が陰陽師たちを掴む。


 持ち上げる。


 投げ飛ばす。


 圧倒的だった。


 戦いですらない。


 彩葉は拳を握る。


「......っ」


 怖い。


 本当に怖い。


 だが。


 見過ごせない。


 あのままでは全員死ぬ。


 彩葉はバッグを握りしめる。


 胸の奥。


 血管を流れる魔力。


 それを感じる。


 陽菜に教わった力の流れ。


 心臓から送り出される魔力。


 血液と共に全身を巡る力。


 それを意識する。


 ドクン。


 ドクン。


 心臓が脈打つ。


 魔力が流れる。


 両腕へ。


 両脚へ。


 全身へ。


 彩葉は一歩前へ出た。


「やめて!」


 声が響く。


 陰陽師も。


 祟面も。


 全員が彩葉を見る。


 祟面の四つの面が同時に向けられた。


 その圧力だけで普通の人間なら気絶していたかもしれない。


 だが彩葉は立つ。


 震えながらも。


 立ち続ける。


「もうやめて!」


「これ以上傷つけちゃだめ!」


 祟面が彩葉を見る。


 怒りの面。


 悲しみの面。


 憎悪の面。


 狂笑の面。


 四つ全てが彩葉を観察していた。


 やがて。


 祟面が呟く。


「守護者」


 その声に何かが混じった。


 敵意ではない。


 懐かしむような響き。


「何故だ」


 彩葉が首を傾げる。


 祟面は続けた。


「何故お前から......」


 黒い霧が揺らぐ。


 四枚の面も震える。


「奴らと似た気配がする」


 彩葉は意味が分からなかった。


「奴ら?」


 祟面は答えない。


 代わりに。


 その巨体から凄まじい瘴気が噴き出した。


 山全体が揺れる。


 木々が枯れ始める。


 地面が黒く染まる。


 そして。


 封印洞窟のさらに奥。


 そこから眩い光が漏れ出した。


「......?」


 彩葉が振り向く。


 光。


 それは封印の最深部から放たれている。


 すると胸元の要石が激しく震え始めた。


 まるで呼応するように。


 ニーミから貰った要石。


 それが光っている。


「これ......」


 祟面も光を見る。


 そして初めて動揺した。


 四枚の面が同時に歪む。


「まさか......」


 憎悪の面が震える。


「あり得ぬ」


 悲しみの面が呟く。


「まだ残っていたのか」


 怒りの面が唸る。


「奴の力が」


 狂笑の面だけが嗤った。


「ククク......面白い」


 彩葉は困惑する。


 何が起きているのか分からない。


 だが一つだけ確かなことがあった。


 洞窟の最深部に。


 祟面ですら警戒する何かが存在している。


 そして要石は。


 その場所を指し示していた。

ここまで読んでくれてありがとうございます。

次回もお楽しみに

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ