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Re:アルケオン〜守護者として生まれた私は世界を旅する〜  作者: れんP
アジアの章 日本編

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第三十八話 封印の地に集う者たち



 讃岐山脈の奥地。


 彩葉(いろは)とマミはさらに山を登り続けていた。


 進めば進むほど空気は重くなっていく。


 肌にまとわりつくような不快感。


 胸の奥を押し潰されるような圧迫感。


 それは祟面の漏れ出した力だった。


 普通の人間なら近づくだけで体調を崩すかもしれない。


 だが守護者である彩葉は足を止めなかった。


 やがて二人は巨大な崖の前へと辿り着く。


 崖の中腹にはぽっかりと大きな洞窟が口を開けていた。


 その周囲には古い鳥居。


 巨大な注連縄。


 石柱。


 そして数え切れないほどの札。


 封印のための施設であることは一目で分かった。


 空気そのものが震えている。


 洞窟の奥から脈動のような音が響いていた。


 ドクン。


 ドクン。


 ドクン。


 まるで巨大な心臓だ。


 彩葉は息を呑む。


「ここが……」


 マミが頷いた。


「祟面の封印場所」


 彩葉は洞窟を見つめた。


 ここに。


 何百年も前に四国を恐怖に陥れた想霊が眠っている。


 そう考えるだけで緊張した。


 するとマミが立ち止まった。


「私はここまで」


 彩葉が振り返る。


「え?」


「約束」


 マミは静かに言う。


「私は封印の近くへ行かない」


「でも……」


「大丈夫」


 マミは首を横に振った。


「私はここで待つ」


「もし何かあったら助ける」


「でも封印の近くには行けない」


 彩葉は思い出す。


 マミは長い間この場所に縛られていた。


 祟面。


 戦争。


 失った友達。


 失った日常。


 それらの記憶は今でも彼女を苦しめている。


 無理に連れて行くべきではない。


 彩葉はゆっくり頷いた。


「わかりました」


 マミも頷く。


「うん」


 少しだけ沈黙が流れた。


 そして。


「彩葉」


「はい?」


「無茶しないで」


 彩葉は少し笑った。


「できるだけ」


「それ無茶する人の返事」


 珍しくマミが即答した。


 彩葉は思わず苦笑する。


「気をつけます」


「うん」


 マミは小さく頷いた。


 彩葉は深呼吸する。


 そして一歩踏み出した。


 洞窟へ向かって。


 一人で。


 ゆっくりと。


 慎重に。


 足音が響く。


 周囲には誰もいない。


 風もない。


 ただ不気味な脈動だけが響いていた。


 ドクン。


 ドクン。


 ドクン。


 彩葉は胸の前で手を握る。


 少し怖い。


 でも行かなければならない。


 そんな気がしていた。


 洞窟へ近付く。


 すると。


「……?」


 彩葉は足を止めた。


 何か聞こえる。


 人の声だ。


 それも複数。


「誰かいる……?」


 彩葉は岩陰へ隠れた。


 そしてそっと様子を覗く。


 その瞬間。


 彩葉の瞳が大きく見開かれた。


「え……」


 そこには十数人ほどの人影がいた。


 黒い装束。


 長い袴。


 護符。


 数珠。


 そして独特の気配。


 彩葉には見覚えがあった。


「陰陽師……」


 思わず呟く。


 京都で出会った。


 伊勢でも見かけた。


 そして八咫鏡と共に止めた者たち。


 間違いない。


 陰陽師だった。


 しかも数が多い。


 以前の三人とは比較にならない。


 中央には年老いた男が立っていた。


 白髪。


 鋭い目。


 長い杖。


 周囲の陰陽師たちが従っている。


 かなり上位の存在なのだろう。


 老人が口を開いた。


「封印まであと少しだ」


 周囲の陰陽師たちが頷く。


「はっ」


「必ず成功させましょう」


「ここまで長かった」


 老人は洞窟を見つめる。


「祟面が目覚めれば世界は変わる」


 彩葉は眉をひそめた。


 何を言っているのだろう。


 封印を守るためではないのか。


 だが次の言葉で理解する。


「我ら陰陽師の時代が来る」


 彩葉は目を見開いた。


「……!」


 老人の顔には狂気にも似た笑みが浮かんでいた。


「神も守護者も妖怪も不要」


「人間こそが支配者であるべきだ」


「そのために必要なのだ」


「この災厄は」


 周囲の陰陽師たちが歓喜する。


「おお!」


「ついに!」


「長年の悲願!」


 彩葉の表情が険しくなる。


 理解した。


 この人たちは封印を守るために来たのではない。


 壊すために来たのだ。


 老人が杖を掲げる。


「準備しろ」


「封印柱を破壊する」


 その言葉と共に陰陽師たちが動き出した。


 巨大な札。


 奇妙な陣。


 大量の霊力。


 封印を破るための準備だ。


 彩葉は拳を握る。


 止めなければ。


 今すぐ。


 だが数が多い。


 一人で突っ込むのは危険だ。


 彩葉は冷静になろうとした。


 陽菜から受け継いだ知識。


 八咫鏡から学んだこと。


 旅の中で出会った人たち。


 その全てを思い出す。


 焦ってはいけない。


 状況を見極める。


 その時だった。


 胸元のバッグが微かに光る。


「え……?」


 彩葉は驚く。


 そして気付いた。


 ニーミから貰った要石だ。


 バッグの中に入れていたそれが淡く輝いている。


 まるで何かを知らせるように。


 彩葉は要石を取り出した。


 すると石は洞窟の奥を指し示すように震えていた。


「どういうこと……?」


 その瞬間。


 洞窟のさらに奥から。


 今までとは比較にならない脈動が響いた。


 ドゴォォォン!!


 地面が揺れる。


 木々が震える。


 陰陽師たちも動きを止めた。


「なっ!?」


「今のは!」


 老人の顔色が変わる。


 そして。


 洞窟の奥から。


 ゆっくりと。


 ゆっくりと。


 黒い霧が流れ始めた。


 まるで何かが目覚めようとしているかのように。


 彩葉は息を呑む。


 陰陽師たちも言葉を失う。


 そして洞窟の奥から。


 低く。


 重く。


 禍々しい声が響いた。


「……誰だ」


 その声だけで空気が震える。


「我の眠りを……妨げる者は……」


 彩葉の背筋に冷たいものが走った。


 封印の奥で。


 祟面が。


 目を覚まし始めていた。

ここまで読んでくれてありがとうございます。

次回もお楽しみに

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