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Re:アルケオン〜守護者として生まれた私は世界を旅する〜  作者: れんP
アジアの章 日本編

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第三十五話 讃岐山脈への道


 香川県さぬき市。


 さぬき市平和公園。


 夕暮れは過ぎ、夜が訪れていた。


 体育館の中では静かな時間が流れている。


 焦げた姿の幽霊たちは思い思いの場所に座り、かつての日常の続きを過ごしているかのようだった。


 彩葉は体育館の隅に腰を下ろしていた。


 守護者に睡眠は必要ない。


 食事も必須ではない。


 それでも旅を始めてから、人間たちと同じような時間の過ごし方をすることが増えていた。


「準備かぁ.................」


 彩葉はぽつりと呟く。


 讃岐山脈へ向かう。


 祟面の封印を見に行く。


 そう決めたものの、何を準備すれば良いのか分からなかった。


 バッグの守護者である彩葉は、自身の能力で収納空間を持っている。


 だが旅の途中で集めた物といえば地図や冊子くらいだった。


「何か必要かな......」


 そう考えていると。


 コツ。


 コツ。


 足音が近付いてくる。


 振り向くとマミだった。


 バスケットボール柄のワンピース姿。


 相変わらず表情は薄い。


 だが昨日より少し柔らかく見える。


「何してるの?」


「準備です!」


「......何もしてない」


「うっ」


 図星だった。


 マミは小さくため息を吐く。


「守護者だから荷物は少なくていい」


「そうなんですか?」


「うん」


 マミは頷いた。


「人間みたいに水も食料も必要ない」


「確かに......」


「でも武器とか知識は必要」


「知識」


 彩葉は繰り返した。


「うん」


 マミは窓の外を見る。


「讃岐山脈は昔から想霊が多い」


「どうしてですか?」


「人の想いが集まる場所だから」


 彩葉は首を傾げた。


 マミは続ける。


「山には昔から信仰がある」


「神様?」


「うん」


「それに畏れもある」


「畏れ?」


「山は人を守る」


「でも人を殺すこともある」


 彩葉は黙って聞く。


「遭難」


「崖崩れ」


「獣」


「病」


「昔の人は色々なものを山に感じた」


「だから想いも集まる」


「その結果、想霊も生まれやすい」


 なるほど、と彩葉は思った。


 想霊は人の感情から生まれる。


 ならば人々の恐れや願いが集まる場所ほど生まれやすいのだろう。


「じゃあ強い想霊も?」


「いる」


 即答だった。


 彩葉は少し緊張する。


「大丈夫かな......」


「たぶん」


「たぶん!?」


 マミは少しだけ口元を緩めた。


 冗談だったらしい。


 その様子を見て彩葉も少し笑った。


 やがて夜は更けていく。


 体育館に月明かりが差し込む。


 幽霊たちは静かに眠るように消えていった。


 そして朝。


 東の空から太陽が顔を出す。


 金色の光が平和公園を照らしていた。


「いい朝......」


 彩葉は伸びをする。


 鳥たちが鳴いている。


 空は青い。


 風は穏やかだ。


 だが今日は観光の日ではない。


 旅の日だった。


「行こう」


 マミが言った。


「はい!」


 二人は公園を後にする。


 朝のさぬき市を歩く。


 まだ人は少ない。


 通学中の学生。


 犬の散歩をする老人。


 畑へ向かう農家の人。


 平和な光景だった。


 彩葉は歩きながら周囲を見回す。


「平和ですね」


「うん」


 マミは小さく頷いた。


「だから守りたい」


「......」


 その言葉には重みがあった。


 戦争を知る守護者。


 失われた友達を知る守護者。


 だからこそ守りたいのだろう。


 二人は町を抜ける。


 やがて建物が減り始める。


 田んぼが増える。


 畑が増える。


 遠くには山々が見えてきた。


 讃岐山脈。


 巨大な山の連なり。


 その姿はまるで大地に横たわる龍のようだった。


「大きい......」


 彩葉は思わず呟く。


「うん」


 マミも山を見る。


「昔から四国を見守ってきた山」


 風が吹く。


 木々が揺れる。


 その時だった。


 ぞわり。


 彩葉の背筋に何かが走った。


「!」


「感じた?」


 マミが聞く。


「はい」


 彩葉は山を見る。


 確かに感じた。


 何か。


 巨大なもの。


 遥か遠く。


 山の奥深く。


 そこから漏れ出している気配。


 それは神力でも魔力でもない。


 もっと不気味な。


 もっと禍々しいもの。


「これが......」


「祟面」


 マミが答える。


 彩葉は息を呑んだ。


 封印されている。


 まだ遠い。


 それなのに感じる。


 まるで巨大な怪物が眠りながら呼吸しているような感覚。


「すごい......」


「怖い?」


 マミが聞いた。


 彩葉は少し考える。


 そして答える。


「少し」


 正直な気持ちだった。


 怖い。


 だが。


「でも気になります」


「そう」


 マミは少しだけ笑った。


 二人はさらに歩く。


 山へ向かって。


 森へ向かって。


 祟面の眠る場所へ向かって。


 その頃。


 四国のどこか。


 人里離れた山中。


 そこには古びた鳥居が立っていた。


 誰もいないはずの場所。


 だが一人の少女がいた。


 黒髪。


 赤い瞳。


 そして腕の中には日本人形。


 少女は静かに目を閉じていた。


 やがて。


 ゆっくりと瞳を開く。


「......囚われ娘が外へ出るとは」


 少女は小さく呟く。


 腕の中の日本人形もどこか笑ったように見えた。


 少女の視線は讃岐山脈へ向けられている。


 まるで全てを見通しているかのように。


「今日は転機かも知れんな......」

ここまで読んでくれてありがとうございます。

次回もお楽しみに

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