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Re:アルケオン〜守護者として生まれた私は世界を旅する〜  作者: れんP
アジアの章 日本編

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第三十四話 眠る災厄への決意


 香川県さぬき市。


 さぬき市平和公園。


 爆撃機型想霊――トドマリが消滅した後も、彩葉とマミは校庭に立っていた。


 風が吹く。


 焼け焦げた校舎の壁が微かに軋む。


 遠くでは鳥が鳴いている。


 平和な景色だった。


 だが彩葉の心は落ち着かなかった。


 讃岐山脈。


 そこに封じられた巨大な想霊。


 祟面。


 その存在を知ってしまったからだ。


「再封印した方がいいんじゃ......」


 彩葉は率直にそう言った。


 マミは少しだけ困ったような顔をする。


「それは無理......」


「どうして?」


「......あれは戦争で生まれた想霊を取り込んで強くなってる......」


 マミは空を見上げた。


「人間も、守護者も、神も再封印しようとしてるけど、代償が怖くてできてない」


「代償?」


「うん」


 マミは静かに頷いた。


「もう誰かがいなくなるのは嫌なんだろうね......」


 彩葉は黙った。


 その言葉は重かった。


 きっと過去に何かあったのだろう。


 大勢が傷つき。


 大勢が失われた。


 だから今も誰も動けない。


 彩葉は焼けた校舎を見る。


 黒い幽霊たちを見る。


 そしてマミを見る。


 この場所には失われたものが多すぎた。


 だからこそ。


「......私、放っておけません!」


 彩葉は強く言った。


 マミが目を見開く。


「......行く気?」


「はい!」


「やめておいた方がいいよ......」


 マミは首を横に振った。


「あいつは強い......」


「でも!」


 彩葉は拳を握る。


「それをやらないと行けない気がするから!」


 その言葉に。


 マミは少しだけ目を細めた。


 どこか懐かしいものを見るような表情だった。


「......変わってないなぁ」


「え?」


「昔にもいた」


 マミは微笑む。


「そういうことを言う守護者」


 彩葉は首を傾げた。


「知り合いですか?」


「ううん」


 マミは首を横に振る。


「でも昔はそういう守護者がたくさんいた」


 そして空を見上げる。


「誰かを守るために飛び出して」


「無茶して」


「怒られて」


「それでもまた飛び出して」


 少し笑った。


「そんな守護者」


 彩葉は少し照れた。


「私、そんな立派じゃないですよ?」


「そうかな」


 マミは言う。


「少なくとも放っておけないと思えるのは立派だよ」


 その時だった。


 ふわり。


 体育館から黒い幽霊の子供たちが出てきた。


 十人。


 二十人。


 三十人。


 たくさんの子供たち。


 皆、焦げた姿のまま。


 だが不思議と恐ろしさはなかった。


 彩葉は少し驚く。


「みんな......」


 子供たちはマミの周囲に集まる。


 そして。


 その中の一人がマミの服を引っ張った。


 マミはしゃがみ込む。


「どうしたの?」


 当然返事はない。


 幽霊は喋れないらしい。


 だが。


 小さな手が山の方を指差した。


 讃岐山脈。


「......」


 マミの表情が少し変わる。


 他の子供たちも同じ方向を見る。


 不安そうな顔。


 怯えている顔。


 悲しそうな顔。


 それを見て。


 彩葉は胸が締め付けられた。


「怖いんですね」


 マミは小さく頷く。


「うん」


「みんな知ってるから」


「知ってる?」


「昔、あれが暴れた時代を」


 風が吹く。


 空気が少し重くなる。


 マミは静かに語った。


「祟面はね」


「最初はただの想霊だった」


「人々の恐怖から生まれた小さな存在」


「でも消されなかった」


「誰も気付かなかった」


「そして少しずつ成長した」


 彩葉は真剣に聞く。


「戦が起きるたびに強くなった」


「災害が起きるたびに強くなった」


「飢饉が起きるたびに強くなった」


「そうして何百年もかけて怪物になった」


「......」


「気付いた時には手遅れだった」


 マミの瞳が揺れる。


「神も負けた」


「妖怪も負けた」


「守護者もたくさん消えた」


 彩葉は息を呑む。


「そんなに......」


「うん」


 マミは頷いた。


「だから封印しかできなかった」


 沈黙。


 重い空気。


 だが。


 彩葉の気持ちは変わらなかった。


「それでも」


 マミが見る。


 彩葉は山を見る。


「見てみたいです」


「え?」


「祟面を」


 マミは驚いた顔をした。


 彩葉は続ける。


「倒せるかはわかりません」


「再封印できるかもわかりません」


「でも」


 拳を握る。


「知らないまま旅を続けるのは嫌です」


 風が吹く。


 長い髪が揺れる。


「私は世界を知るために旅をしてるんです」


「良いことも」


「悪いことも」


「全部」


「だから見てみたい」


 その言葉に。


 マミはしばらく黙っていた。


 やがて。


 小さく笑う。


「......なるほど」


「?」


「確かに守護者らしい」


 彩葉は首を傾げる。


「そうですか?」


「うん」


 マミは頷いた。


「私たちは世界を見守る存在だから」


 そして。


 少し考え込む。


 何かを決めるように。


 そして立ち上がった。


「じゃあ案内する」


「え?」


 彩葉が目を丸くする。


「本当ですか!?」


「うん」


「でも封印の場所までは行かない」


「近くまで」


「危険だから」


 彩葉の顔が明るくなった。


「ありがとうございます!」


 マミは苦笑する。


「お礼を言うのは早いよ」


「?」


「讃岐山脈は広い」


「普通に歩いたら何日もかかる」


「それに想霊も多い」


「えぇ......」


 彩葉が少し青ざめる。


 マミはそんな様子を見て久しぶりに笑った。


 年相応の。


 本当に年相応の少女の笑顔だった。


「明日の朝」


「出発しよう」


「今日は準備」


「準備?」


「うん」


 マミは体育館を見る。


「私も久しぶりに外へ出るから」


 その言葉に。


 彩葉は驚いた。


「一緒に来てくれるんですか?」


「......少しだけ」


 マミは照れくさそうに視線を逸らした。


「封印の状態を確認するだけ」


「それ以上は行かないから」


 だが彩葉は嬉しかった。


 一人旅を続けてきた。


 出会いはあった。


 だが共に歩く者はいなかった。


 今だけでも。


 少しだけでも。


 一緒に歩いてくれる人がいる。


 それが嬉しかった。


 夕陽が傾き始める。


 平和公園を橙色が包み込む。


 そして遠く。


 讃岐山脈の奥深くで。


 誰にも聞こえないほど小さく。


 何かが笑ったような気がした。


 まるで。


 封印の奥に眠る災厄が。


 近付いてくる気配に気付いたかのように。

ここまで読んでくれてありがとうございます。

次回もお楽しみに

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