第二十八話 浄化の守護者と海への道
大阪府大阪市。
夕暮れが近づき始めた街の中。
彩葉は新たに出会った守護者、久里子と並んで歩いていた。
周囲には仕事帰りの人々が増え始めている。
昼間とは違う賑わいが街を包んでいた。
彩葉は少し嬉しそうだった。
また新しい守護者と出会えたからだ。
「久里子さん......あ、私はバッグの守護者『彩葉』です!」
久里子は軽く笑った。
「なるほど、彩葉ちゃん、ね。ここは初めて?みない顔だけど」
「はい!生まれたばかりなので色々みて回ってるんです、今は四国に向かってて」
「なるほど、どうりでみたことないはずだ......四国に行くなら、あっちにまっすぐ行って海を歩いて行くと良い」
「え?行けるんですか?」
「?......あぁ、水上歩行を知らないのかな」
「水上歩行?」
「あぁ、日本で生まれた守護者は水の上を歩けるんだ。これは海外生まれの守護者にはない特徴だね、代わりに海外生まれの守護者は空を飛べるけど日本生まれの守護者は飛ぶことはできないが高い跳躍力がある」
「そうなんですね。初めて知りました」
「まぁ、仕方ないさ」
「でも、飛べた方が楽じゃないですか?」
その時だけ久里子の表情が少し曇った。
「そうだね......でも......"攻め込む"にはもってこいだよ......」
「攻め込む?」
「............いや、なんでもないよ、君が気にすることではない。あれは......"あの国"が悪いのだから......」
「......」
彩葉はそれ以上聞かなかった。
久里子の雰囲気が少しだけ変わったからだ。
何か事情があるのだろう。
旅をしているとそういうこともある。
無理に聞くべきではない。
すると久里子が表情を戻した。
「しんみりしちゃったね、お詫びに海まで案内しよう」
「え、あ!はい!!」
二人は再び歩き始めた。
大阪の街を抜けながら。
彩葉は色々なことが気になっていた。
「そういえば久里子さん」
「ん?」
「大阪ってどんなところなんですか?」
「どんなところかぁ」
久里子は少し考えた。
「簡単に言うと賑やかな街かな」
「賑やか」
「うん。人も多いし、食べ物も多いし、商売人も多い」
「商売人?」
「物を売ったり買ったりする人たちさ」
「なるほど」
彩葉は頷く。
「確かにたくさん見ました」
「昔からそういう土地なんだよ」
「昔から?」
「そう」
久里子は歩きながら説明する。
「大阪は昔から人や物が集まる場所だった」
「へぇ」
「だから色んな文化も集まる」
「文化?」
「食べ物とか言葉とか考え方とかね」
彩葉は感心した。
確かに大阪へ来てから聞く言葉は京都や東京とは少し違う。
同じ日本なのに不思議だった。
「みんな少し話し方が違いますよね」
「あぁ」
久里子は笑った。
「大阪弁ってやつだね」
「おおさかべん」
「方言の一つさ」
「なるほど!」
彩葉は嬉しそうに頷いた。
また一つ知識が増えた。
旅とはこういうものなのかもしれない。
一歩進むたびに知らないことを知る。
だから面白い。
二人は大通りを歩く。
途中で大きな公園を通る。
木々が風に揺れている。
「久里子さんは大阪生まれなんですか?」
彩葉が聞いた。
「うん」
「じゃあ長いんですか?」
「それなりにね」
「どれくらい?」
久里子は少し考えた。
「百年ちょっとかな」
「ひゃっ!?」
彩葉が思わず変な声を出した。
「百年!?」
「守護者としてはそこまで長くないよ」
「そうなんですか!?」
「陽菜とかもっと凄いでしょ?」
「戦国時代からいるって言ってました」
「なら数百歳だね」
「守護者ってすごい......」
彩葉は改めて思った。
自分はまだ生まれたばかり。
知らないことだらけだ。
でも目の前の守護者たちは何十年も何百年も世界を見ている。
だから知識も多い。
経験も多い。
少し羨ましかった。
「私も色々知れるかな」
「知れるよ」
久里子は即答した。
「旅を続けるならね」
「本当ですか?」
「うん」
久里子は空を見上げる。
「守護者は長生きだ」
「はい」
「だから急ぐ必要もない」
「......」
「ゆっくり見ればいい」
彩葉は少し嬉しくなった。
旅を始めてから出会った守護者たちはみんなそう言う。
急がなくていい。
ゆっくりでいい。
世界は逃げない。
だから焦る必要はない。
その言葉が彩葉は好きだった。
やがて街並みが少し変わり始めた。
ビルが減る。
空が広くなる。
風も強くなってきた。
「ん?」
彩葉が顔を上げる。
どこか潮の匂いがした。
「海ですか?」
「近いよ」
久里子が笑う。
「もうすぐ」
二人はさらに進む。
すると。
ついに視界が開けた。
「わぁ......!」
彩葉の目が輝く。
その先には広大な海が広がっていた。
夕陽に照らされる海面。
無数の光。
水平線。
遠くを飛ぶ鳥たち。
風が吹く。
波が打ち寄せる。
大阪湾だった。
「綺麗......」
彩葉は思わず立ち止まる。
伊勢の海も綺麗だった。
だがまた違う。
大都市のすぐそばに広がる海。
それは不思議な景色だった。
久里子はそんな彩葉を見て少し笑う。
「気に入った?」
「はい!」
彩葉は即答した。
「すごく綺麗です!」
「そう」
久里子は満足そうだった。
そして海の向こうを見る。
「この先に四国がある」
彩葉も海を見つめる。
まだ見えない。
だが確かにその先にある。
次の目的地。
新しい土地。
新しい出会い。
新しい冒険。
胸が少し高鳴る。
「四国......」
彩葉は小さく呟いた。
すると久里子が笑う。
「明日には行けるさ」
「はい!」
彩葉は元気よく返事をした。
夕陽が海を赤く染めていく。
風が吹く。
旅はまだ続く。
世界はまだ広い。
そして彩葉はまだ何も知らない。
だからこそ。
これから先が楽しみだった。
ここまで読んでくれてありがとうございます。
次回もお楽しみに




