第二十二話 守るための力
三重県伊勢市。
伊勢神宮地下祭壇。
轟音が響いていた。
黒い光。
紫色の拘束。
黄金の神光。
三つの力が激しくぶつかり合っている。
「ぐぅぅぅぅっ!!」
彩葉は両手を前へ突き出したまま叫んでいた。
全身が熱い。
血液が沸騰しそうだった。
心臓が激しく脈打つ。
ドクン。
ドクン。
ドクン。
身体の中を流れる魔力が今までにない勢いで循環していた。
だが止められない。
止めてはいけない。
目の前では黒い光線が伊勢大結界へ向かって放たれている。
それを止めるために。
彩葉の拘束魔法が必死に食らいついていた。
「まだ......!」
紫色の帯がさらに増える。
鎖。
拘束布。
魔力の縄。
それらが黒い光へ巻き付く。
男が舌打ちした。
「小娘が......!」
呪核がさらに脈動する。
ドクン。
黒い呪力が噴き出した。
拘束帯が弾け飛ぶ。
「きゃあっ!」
彩葉が吹き飛ばされる。
地面を転がる。
背中を岩へぶつけた。
「彩葉!」
八咫鏡が駆け寄る。
「大丈夫!?」
「はい......!」
立ち上がろうとする。
だが足が震える。
力を使い過ぎていた。
それでも。
彩葉は前を見る。
まだ終わっていない。
まだ戦いは続いている。
その時だった。
八咫鏡が前へ出る。
「少し休んで」
「でも!」
「今は私がやる」
そう言った瞬間。
八咫鏡の背後に巨大な鏡が出現した。
地下空間を埋め尽くすほど巨大な黄金の鏡。
神々しい光が広がる。
男の顔が歪んだ。
「神器風情が!」
「風情で結構」
八咫鏡は静かに答える。
次の瞬間。
鏡面が輝いた。
「反射」
黒い光線が鏡へ直撃する。
轟音。
爆発。
だが。
鏡は砕けない。
そして。
放たれた黒い光が跳ね返った。
「なっ!?」
男が驚愕する。
黒い光は祭壇へ直撃した。
複数の陰陽師が吹き飛ぶ。
「ぐああああっ!」
「術式が!」
「維持できません!」
祭壇が揺れる。
術式の一部が崩壊する。
彩葉は目を見開いた。
「すごい......」
「鏡だからね」
八咫鏡は微笑む。
しかし。
その顔には余裕がなかった。
額から汗が流れている。
彩葉は気付いた。
八咫鏡も無理をしている。
伊勢大結界。
神器の力。
そして戦闘。
全部を同時に行っているのだ。
「......私も」
彩葉は立ち上がる。
「私も戦います!」
八咫鏡が振り返る。
「彩葉」
「私......分かったんです」
彩葉は拳を握る。
心臓の鼓動。
魔力の流れ。
血液と共に循環する力。
その感覚が少しずつ理解できてきていた。
「拘束は縛るだけじゃない」
「?」
「止めるための力なんです」
守るための力。
暴走を止める力。
危険を止める力。
誰かを守る力。
彩葉はそう思った。
その瞬間だった。
男が笑う。
「実に愚かだ」
黒いローブが揺れる。
男の身体から黒い霧が溢れ始めた。
「守るだと?」
霧が渦巻く。
「この世界は争いで出来ている」
さらに増える。
「神と人」
「妖怪と人」
「天使と悪魔」
「全ては争いだ」
地下空間が揺れる。
黒い霧が巨大な人型を形成していく。
彩葉は息を呑んだ。
「なに......あれ......」
異形だった。
巨大な黒い巨人。
顔がない。
目もない。
だが。
無数の怨嗟の声だけが響いている。
アアアアアア。
オオオオオオ。
ウラメシイ。
ニクイ。
タスケテ。
様々な感情が混ざり合っていた。
「想霊......!?」
彩葉が叫ぶ。
男は笑う。
「その通り」
「なっ!?」
「長年集め続けた負の感情」
巨人が動く。
地面が揺れる。
「断界同盟が育てた特級想霊だ」
彩葉の顔が青ざめる。
今まで見た想霊とは比較にならない。
圧倒的な質量。
圧倒的な呪力。
まるで災害だった。
「さぁ」
男が腕を振る。
「神域ごと消えろ」
特級想霊が拳を振り上げる。
狙いは八咫鏡。
そして伊勢大結界。
「まずい!」
八咫鏡が叫ぶ。
だが距離が近すぎる。
回避できない。
その瞬間だった。
彩葉が飛び出した。
「彩葉!?」
八咫鏡が驚く。
だが彩葉は止まらない。
怖い。
足が震える。
巨大な想霊は恐ろしい。
それでも。
身体が勝手に動いた。
「守る......!」
ドクン。
心臓が鳴る。
魔力が巡る。
拘束。
拘束。
拘束。
彩葉の中にある唯一の力。
「私は......!」
紫色の光が爆発した。
地下空間全体を照らす。
何百。
何千。
無数の拘束帯が現れる。
男の顔が変わった。
「馬鹿な!」
帯が特級想霊へ飛ぶ。
腕へ。
足へ。
胴体へ。
首へ。
全身へ巻き付く。
ギギギギギギ!!
特級想霊が暴れる。
しかし。
拘束帯は切れない。
「止まれぇぇぇぇぇぇ!!」
彩葉が叫ぶ。
紫色の光がさらに強くなる。
その光は。
まるで夜空に咲く巨大な花のようだった。
八咫鏡が目を見開く。
「これは......」
男も驚愕していた。
「ありえん......」
特級想霊の動きが止まる。
本当に。
完全に。
止まった。
彩葉の力によって。
その場に縫い付けられたのだ。
静寂。
地下空間から音が消える。
誰もが目の前の光景を信じられなかった。
彩葉自身でさえも。
「......あれ?」
拘束できた。
本当に。
特級想霊を。
すると八咫鏡が微笑んだ。
「やっぱり」
「え?」
「君は逸材だよ」
その言葉と共に。
空の彼方では。
亀裂だらけだった伊勢大結界が。
わずかに光を取り戻し始めていた。
ここまで読んでくれてありがとうございます。
次回もお楽しみに




