第二十一話 結界の亀裂
三重県伊勢市。
伊勢神宮地下。
巨大な地下祭壇。
その上空。
伊勢大結界に巨大な亀裂が走った。
バキィィィィン――!
まるで空そのものが割れたような音が響く。
「っ!?」
彩葉は思わず顔を上げた。
地下にいるはずなのに分かる。
結界が悲鳴を上げている。
神域を守ってきた光が傷付いている。
「そんな......」
彩葉の顔が青ざめる。
八咫鏡も空を見上げていた。
その表情から余裕は消えている。
「想像以上だね......」
男が笑う。
「ハハハハハハハ!」
祭壇の中央。
黒い呪核が脈打っていた。
ドクン。
ドクン。
心臓のような鼓動。
その度に結界へ亀裂が広がっていく。
「見ろ!」
男は両腕を広げる。
「これが人の力だ!」
黒い光が噴き上がる。
「神々に頼らぬ未来!」
「違う!」
彩葉は叫んだ。
「それは違う!」
男が視線を向ける。
「何が違う」
「そんなの誰かを傷付けてるだけです!」
彩葉の拳が震える。
「みんなが住んでる街を壊して!」
「神域を傷付けて!」
「たくさんの人を危険にして!」
彩葉は前へ出る。
「そんな未来は間違ってます!」
一瞬。
地下空間が静まった。
男は彩葉を見つめる。
そして。
「青いな」
冷たく言い放った。
「理想だけで世界は変わらん」
その瞬間。
男の背後から大量の符が飛び出した。
「彩葉!」
「っ!」
彩葉は咄嗟に飛び退く。
符が爆発。
轟音が響く。
岩が砕ける。
煙が舞う。
だが。
彩葉は立っていた。
「はぁ......はぁ......」
すると。
男が少し驚いたような顔をする。
「避けたか」
「彩葉!」
八咫鏡が駆け寄る。
「大丈夫?」
「はい!」
彩葉は頷いた。
胸が激しく鼓動している。
だが不思議だった。
怖い。
なのに逃げたいとは思わない。
それどころか。
身体の奥が熱い。
「......?」
彩葉は胸へ手を当てる。
心臓。
その鼓動に合わせるように。
血管を流れる魔力が強くなっている。
「これ......」
陽菜の言葉が蘇る。
――力は血液と共に流れる。
――感じるんだ。
――自分の中の力を。
ドクン。
鼓動。
ドクン。
魔力。
今までより鮮明に感じる。
「彩葉?」
八咫鏡が不思議そうに見る。
彩葉は自分の手を見る。
紫色の光。
魔力。
拘束の力。
だが。
今までとは違う。
もっと深く。
もっと広く。
流れが見える。
「分かる......」
彩葉が呟く。
「え?」
「魔力の流れが」
血液。
血管。
筋肉。
骨。
身体の全てを巡る魔力。
それが見えるように感じた。
そして。
彩葉は気付く。
敵にも流れている。
陰陽師たちの霊力。
呪核の呪力。
男の中の異様な力。
全部見える。
「これ......!」
男も異変に気付いた。
「ほう」
興味深そうに目を細める。
「覚醒の兆しか」
八咫鏡が振り返る。
「彩葉?」
「分かります」
彩葉は真っ直ぐ前を見る。
「みんなの力の流れが」
その瞬間。
男の目が僅かに変わった。
初めて警戒したような顔だった。
「なるほど」
そして。
「やはり危険だな」
男は静かに言った。
「何がですか」
「お前だ」
彩葉は目を見開く。
男は続ける。
「だから断界同盟がお前を観察していた」
「......!」
「やはり逸材だったか」
彩葉は八咫鏡を見る。
八咫鏡も驚いていた。
「まさか......」
男は笑う。
「ここで始末するべきだったな」
瞬間。
黒い光が爆発する。
男の背後に巨大な術式が展開された。
地下空間全体を覆うほど巨大。
「しまっ!」
八咫鏡が顔色を変える。
だが遅い。
術式が完成する。
「呪核解放」
男が呟いた。
次の瞬間。
黒い柱が膨れ上がる。
ゴォォォォォォォォ!!
空気が悲鳴を上げる。
地面が割れる。
岩盤が崩れる。
そして。
伊勢大結界へ向かって黒い光線が放たれた。
「だめぇぇぇぇ!!」
彩葉が叫ぶ。
その瞬間だった。
身体の中の魔力が暴れる。
ドクン!
心臓が強く脈打つ。
紫色の光が全身から溢れ出した。
「っ!?」
彩葉自身も驚く。
魔力が止まらない。
大量の魔力が身体中を巡る。
そして。
無意識に手を伸ばしていた。
「止まってぇぇぇぇ!!」
紫色の光が放たれる。
それは今までの拘束とは比べ物にならなかった。
巨大な鎖。
巨大な帯。
無数の拘束具。
それらが黒い光線へ絡み付く。
地下空間が震える。
「なにっ!?」
男が初めて叫んだ。
黒い光線が止まる。
完全ではない。
だが。
確かに勢いが弱まった。
八咫鏡が目を見開く。
「彩葉!」
彩葉は必死だった。
全身が悲鳴を上げている。
だが離さない。
絶対に。
結界を壊させない。
「ぐっ......!」
拘束。
それが彩葉の力。
ならば。
止める。
縛る。
守るために。
その力を使う。
紫色の光がさらに強くなる。
男の顔から笑みが消えた。
そして。
空では。
砕けかけていた伊勢大結界が。
ほんのわずかに。
その崩壊を食い止めていた。
ここまで読んでくれてありがとうございます。
次回もお楽しみに




