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Re:アルケオン〜守護者として生まれた私は世界を旅する〜  作者: れんP
アジアの章 日本編

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第二話 月下の山道



「......はい............」


 月明かりに照らされた山道を、彩葉(いろは)陽菜(ひな)はゆっくり歩いていた。


 夜の森は静かだった。


 風が木々を揺らし、葉擦れの音が耳に届く。


 時折、どこか遠くで鳥の鳴き声が聞こえた。


 彩葉は辺りをきょろきょろと見回しながら歩く。


 見るもの全てが初めてだった。


 木。

 草。

 土。

 風。


 それら一つ一つが不思議で仕方がない。


 彩葉はそっと木の幹へ触れた。


「......硬い」


「あはは、木だからね」


「木......」


 彩葉は小さく呟く。


 名前は知っている。


 だが、知識として理解しているだけで、実際に見るのは初めてだった。


 世界は知らないものだらけだった。


 少し歩いたところで、山道が急な坂になっている場所へ差しかかる。


 岩肌が剥き出しになっており、足場も悪い。


 彩葉は慎重に歩きながら小さく呟いた。


「険しいですね......」


「そうだね。まぁ、守護者なら慣れれば問題ないよ」


 陽菜は軽やかに岩を飛び越えていく。


 その動きは人間離れしていた。


 まるで重力を感じていないような軽さだ。


 彩葉も真似をしようとして、小さく飛ぶ。


 しかし着地に失敗し、少しよろめいた。


「わっ......!」


「おっと、大丈夫?」


「は、はい......」


 陽菜が手を差し出す。


 彩葉は少し迷いながらその手を取った。


 温かかった。


 守護者なのに、人のような温もりがある。


 彩葉は不思議そうにその手を見つめる。


「......陽菜さん」


「ん?」


「守護者って......みんな同じなんですか?」


「同じ?」


「はい......私みたいに、物から生まれるんですよね?」


「そうだね。(コア)が何に宿るかで、守護者は変わる」


 陽菜は夜空を見上げながら続ける。


「刀に宿る子もいれば、楽器に宿る子もいる。車や時計、絵画、建物なんかから生まれる守護者もいるよ」


「建物から......」


「うん。長い年月を経て、強い想いを持った物には、時々核が宿るんだ」


 彩葉は自分の胸に手を当てる。


 そこには確かに何かがあった。


 鼓動のようで、違うもの。


 暖かな光。


「じゃあ......私はバッグだから、バッグの守護者......」


「そういうこと」


「でも......どうしてバッグだったんでしょう」


 陽菜は少しだけ考えるように歩みを止めた。


「さぁね。でも、意味のない誕生なんてないと思うよ」


「意味......」


「核はね、想いに惹かれるんだ」


 風が吹く。


 木々がざわめく。


「誰かが大切にしていた物。長い時間を過ごした物。強い感情が残った物。そういうものに宿りやすい」


「大切......」


 彩葉はぼんやりと考える。


 自分は、誰かに大切にされていたのだろうか。


 あのバッグは、どんな人が使っていたのだろう。


 すると陽菜がこちらを振り返った。


「気になる?」


「はい......少し」


「それを探すのも旅の楽しさだよ」


「旅......」


 彩葉はその言葉を繰り返す。


 旅。


 まだ意味はよく分からない。


 けれど、不思議と胸が温かくなった。


 二人は再び歩き始める。


 しばらく進むと、森の奥から低い唸り声が聞こえてきた。


「......!」


 彩葉の肩がびくりと震える。


 陽菜はすぐに火縄銃を構えた。


「安心して。小さい想霊だ」


 暗闇の中から現れたのは、人影のような黒い靄だった。


 だが先ほどのものより小さい。


 揺らめきながらこちらを見ている。


「ゥゥゥゥ......」


「人間の負の感情が薄く集まった程度だね」


 陽菜は火縄銃を肩へ担ぐ。


「彩葉、感じてみな」


「え?」


「守護者なら分かるはずだ。想霊の気配」


 彩葉は静かに目を閉じた。


 すると、不思議な感覚が広がる。


 冷たい。

 重たい。

 苦しい。


 胸の奥がざわつく。


「......嫌な感じです」


「うん。それが想霊」


 陽菜は静かに引き金を引いた。


 ――パァンッ!!


 銃声が山へ響く。


 想霊は霧のように弾け、そのまま消えていった。


 彩葉は目を丸くする。


「すごい......」


「守護者は想霊を祓える。まぁ、得意不得意はあるけどね」


「私にも......できますか?」


「もちろん」


 陽菜は笑う。


「守護者なんだから」


 その言葉に、彩葉は少しだけ安心した。


 自分にも何かができる。


 それが嬉しかった。


 山道をさらに下っていく。


 やがて木々の隙間から、遠くの景色が見え始めた。


 彩葉は足を止める。


「......?」


 暗闇の先。


 そこには無数の光が広がっていた。


 まるで星が地上へ降りたような景色。


 赤。

 白。

 青。

 黄色。


 様々な灯りが夜の街を照らしている。


 車の音。

 人々の声。

 遠くの電車の音。


 山の静寂とは全く違う世界だった。


 彩葉は思わず息を呑む。


 その瞳に、無数の光が映り込む。


 陽菜はそんな彩葉の様子を見て、小さく笑った。


「見えたよ」


「......ッ!......わぁ~!綺麗です!光がキラキラと......!」


「あはは!まぁ、驚くのは無理もないよ。さ、行こう」


 陽菜は街へ続く道を歩き出す。


 彩葉はもう一度だけ夜景を見つめた。


 知らない世界。


 知らない人々。


 でも――。


 今は少しだけ、そこへ行ってみたいと思えた。


「......はい!」

ここまで読んでくれてありがとうございます。

次回もお楽しみに

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