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Re:アルケオン〜守護者として生まれた私は世界を旅する〜  作者: れんP
アジアの章 日本編

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第十六話 海風と白き鏡



 三重県伊勢市。


 夕暮れが近づき始めた頃。


 彩葉(いろは)は海辺で見た不思議な人影のことが気になりながらも、再び街へ戻っていた。


「気のせい......ではなかった気がするんですけど......」


 歩きながら空を見上げる。


 柔らかな雲が流れている。


 どこか穏やかな時間だった。


 だが旅人である彩葉にとって、気になることがあっても立ち止まる理由にはならない。


 世界は広い。


 知らないものだらけだ。


 だからこそ見て回りたい。


「せっかくですし、もっと観光しましょう!」


 彩葉は元気よく歩き出した。


 街には昔ながらの建物が並んでいる。


 木造の店。


 石畳の道。


 観光客たちの笑い声。


 どこか懐かしい空気が漂っていた。


「京都とも少し違いますね」


 京都には歴史の重みがあった。


 だが伊勢には神域の静けさがある。


 同じ日本でも場所によってこんなに違うのかと彩葉は感心した。


 しばらく歩くと、職人が木工品を作っている店を見つけた。


「おぉ......」


 木の香りが漂う。


 店先には小さな置物や装飾品が並んでいた。


 彩葉は興味津々で眺める。


「綺麗......」


 守護者として生まれた彩葉は、物に宿る想いを感じ取ることができる。


 そのため職人が丁寧に作った品には温かな気配を感じた。


「大事に作られているんですね」


 そう呟きながら微笑む。


 さらに歩く。


 今度は神楽の演奏をしている広場を見つけた。


 笛の音。


 太鼓の音。


 穏やかな旋律が響く。


「わぁ......」


 彩葉はしばらく聞き入った。


 音楽は不思議だ。


 言葉がなくても感情が伝わってくる。


 嬉しい。


 楽しい。


 神聖。


 そんな様々な感情が流れ込んでくるようだった。


「世界って面白いです」


 自然とそんな言葉が零れる。


 旅を始めたばかりの頃は何も知らなかった。


 だが今は違う。


 少しずつ知識が増えている。


 出会いも増えている。


 そして何より――。


「もっと知りたいです」


 彩葉はそう呟いた。


 陽菜からもらった知識。


 小紅から教わった世界の構造。


 だがまだまだ足りない。


 知らないことの方が圧倒的に多い。


 だから旅は続くのだ。


 その後も彩葉は街を巡った。


 神域の森。


 川辺。


 古い橋。


 歴史ある建物。


 どれも新鮮だった。


 そして気付けば夕暮れ。


 空が橙色へ染まり始めていた。


「そうだ」


 彩葉は思い出す。


「もう一度海を見に行きましょう」


 足を海岸へ向ける。


 しばらく歩く。


 やがて波の音が聞こえてきた。


 ざぁん。


 ざぁん。


 心地よい音。


 潮風が頬を撫でる。


 そして視界が開けた。


「わぁ......」


 夕日に染まる海。


 黄金色の波。


 空と海が溶け合うような景色。


 彩葉は思わず足を止めた。


「綺麗です......」


 自然と笑顔になる。


 しばらく景色を眺めていると、胸の奥が少しだけ温かくなった。


 旅に出て良かった。


 本当にそう思えた。


 すると。


 不意に。


 あの感覚が戻ってくる。


 ドクン。


 胸の鼓動。


 力が反応する。


「......?」


 彩葉は周囲を見回した。


 誰かがいる。


 近い。


 かなり近い。


 しかも敵意はない。


 むしろ穏やかな気配だった。


「もしかして......」


 彩葉は振り返る。


 しかし誰もいない。


 波が打ち寄せるだけだ。


「気のせい......?」


 そう思った瞬間。


 背後から優しい声が聞こえた。


「伊勢の街は、お気に召しましたか?」


「ひゃっ!?」


 彩葉は飛び上がるように振り向いた。


 そこには。


 白く輝く少女が立っていた。


 長い白銀の髪。


 月光のような白い衣。


 そしてどこか神秘的な微笑み。


 まるで人ではない。


 そう感じさせる存在感があった。


「い、いつの間に......!?」


 彩葉は目を丸くする。


 まったく気付かなかった。


 近付かれた気配すらなかった。


「ふふ」


 少女は静かに笑う。


「驚かせてしまいましたか」


「はい!かなり!」


 彩葉が慌てて答える。


 少女は楽しそうだった。


 そして彩葉は気付く。


 この気配。


 海辺で感じたものだ。


 伊勢に来てから何度も感じていたものだ。


「......あっ」


「?」


「もしかして、私を見ていた人ですか?」


 少女は少しだけ目を細めた。


「ふふふ」


 その反応が答えだった。


「やはり気付いていましたか」


「やっぱり!」


 彩葉は思わず声を上げる。


「名古屋でも感じましたし、海辺でも感じました!」


「素晴らしい感覚ですね」


 少女は穏やかに言った。


「守護者としてはまだ若いにもかかわらず」


「え?」


 彩葉は首を傾げる。


 すると少女は優雅に一礼した。


「では、改めまして」


 海風が吹く。


 白い髪が揺れる。


 夕陽がその姿を照らした。


 まるで神話の一場面のようだった。


「私だけがあなたを知っているのは不公平ですね」


 少女は微笑む。


「自己紹介をいたしましょう」


 彩葉は思わず姿勢を正した。


 なぜか分からない。


 だが目の前の存在は特別だと本能が告げていた。


 少女は静かに名乗る。


「私は――」


 その瞬間。


 夕陽が海面へ反射し、周囲が金色に輝いた。


「『天照ノ大御霊・鏡』」


 風が吹く。


「八咫鏡」


 白き少女は柔らかく微笑んだ。


「そう呼ばれております」


 彩葉の目が大きく見開かれる。


 胸の奥で鼓動が鳴った。


 目の前の存在から感じる圧倒的な神秘。


 それは今まで出会った誰とも違っていた。


 そして彩葉は思わず呟く。


「八咫鏡......?」

ここまで読んでくれてありがとうございます。

次回もお楽しみに

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