表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
Re:アルケオン〜守護者としての目的を探して〜  作者: れんP
アジアの章 東南アジア編

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
141/154

第百四十一話 緑と水の国を歩いて


 海を越えた先に広がっていたのは、ベトナムの明るい朝だった。


 空は高く、雲は薄く流れ、街にはバイクの音と人々の活気が満ちている。


 彩葉は海面を歩く感触から、ようやく陸へと足を下ろした。


「……着いた」


 息を吐くと、潮の匂いに混じって、雨上がりの土と植物の香りがほんのりと鼻をくすぐる。


 マレーシアやタイとも違う、やわらかくて軽やかな空気だった。


 街の並木は背が高く、道の両側には細長い建物が続いている。色は淡く、ところどころに花が飾られていて、どこか穏やかな印象を与えていた。


「ここがベトナム……」


 彩葉は目を輝かせながら周囲を見回した。


 海を渡る前は、ただ“次の国”という認識だったのに、こうして立ってみると、その土地ごとの空気がはっきりと違って感じられる。


 通りを歩く人々は忙しそうなのに、笑顔を忘れていない。


 屋台からは、温かなスープの匂いが立ちのぼり、果物の並ぶ市場では鮮やかな色彩が目を引く。


「すごいな……」


 彩葉は思わず呟いた。


 この国もまた、守られてきた場所なのだろう。


 そしてどこかに、ここを支える守護者がいる。


 でも、今はまだ会わない。


 その前に、まずはこの国を見て回ることにした。


 彩葉は電子地図をひらく。


「えっと……海岸から少し行けば、市場があるみたい」


 地図の示す通りに歩き出す。


 やがて道は賑やかな市場へとつながっていった。


 そこにはたくさんの人が集まっていた。


 新鮮な野菜。


 山のように積まれた果物。


 揚げ物を作る音。


 布を売る声。


 全てが生き生きとしている。


「わぁ……!」


 彩葉の目が輝く。


「美味しそうなものがいっぱい」


 市場を見て回るだけでも楽しい。


 見たことのない果物を手に取っては、匂いをかぎ、色を確かめる。


 小さな子どもがこちらを見て、少しだけ笑った。


 彩葉も小さく手を振る。


 すると、子どもは嬉しそうに母親の元へ走っていった。


「ふふっ」


 自然と笑みがこぼれる。


 少し歩くと、道の先に川が見えた。


 川は街の中を静かに流れていて、その上を小舟がすべるように進んでいる。


 水面には朝の光が反射し、きらきらと揺れていた。


「綺麗……」


 思わず足を止める。


 川沿いでは人々が洗濯をしていたり、小さな舟で荷物を運んでいたりする。


 暮らしの一部として水が溶け込んでいた。


 旅をしていると、そうした“生活の風景”に心を動かされる。


 ただ美しいだけではなく、その土地に住む人々の息づかいが見えるからだ。


 彩葉は橋の上で立ち止まり、川を見下ろした。


「ここも、ちゃんと守られてるんだなぁ」


 誰に言うでもなく呟く。


 やがて、風が川面を走り抜けた。


 その風には、少し湿った土の香りが混じっている。


 彩葉は街を抜け、少し郊外の方へ歩いていった。


 そこには木々が増え、空気も少しだけ静かになる。


 小鳥の声。


 木の葉の擦れる音。


 そして時折聞こえる、遠くの街のざわめき。


 都市と自然の境目が、ゆっくりと曖昧になっていくようだった。


「いいところだな……」


 彩葉は木陰に立ち、深く息を吸った。


 ここまで来ると、これまでの国の記憶が少しずつ重なってくる。


 屋久島の森。


 フィリピンの海。


 インドネシアの密林。


 マレーシアの市場。


 タイの街並み。


 それぞれが違うのに、どこか一つの旅として繋がっている。


 その中で出会った守護者たちも、みなそれぞれの国を大切にしていた。


 彩葉は立ち止まったまま、少しだけ考える。


「……ここの守護者さん、どんな人なんだろう」


 まだ会っていない。


 でも、きっとここにも、守るべきものを抱えている人がいる。


 そんな予感がしていた。


 夕方が近づくころ、彩葉は再び街へ戻った。


 市場は昼よりも少し静かになり、それでもなお活気は失われていない。


 その中を歩きながら、彩葉はゆっくりと次の手がかりを探す。


 守護者の気配を感じるかもしれない。


 でも、急がなくていい。


 この国の空気を感じながら、少しずつ進めばいい。


 そんなふうに思えるのは、これまでの旅で少しだけ自信がついたからだろう。


 夜になれば、また違う顔を見せるはずの街。


 昼の喧騒が静まり、川の水面に灯りが映るころ。


 彩葉はベトナムという国の中を、守護者を探しながら、ゆっくりと歩き続けるのだった。

ここまで読んでくれてありがとうございます。

次回もお楽しみに

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ