表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
Re:アルケオン〜守護者としての目的を探して〜  作者: れんP
アジアの章 東南アジア編

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
140/154

第百四十話 海を越えて追うもの



 タイの森に、ようやく静けさが戻っていた。


 焼け焦げた木々の間を、夜風がそっと抜けていく。


 先ほどまで暴れていたラクシャーサの気配は完全に消え、残っているのは戦いの熱と、かすかな土と煙の匂いだけだった。


 彩葉はゆっくりと息を吐く。


「……終わったんですね」


 その言葉に、ラーチャプルックがクラビー・クラボーンを肩に担いだまま、軽く笑った。


「うん。やっとね。」


 ユミは弓を下ろし、少しだけ空を見上げる。


「今回は人数が少なければ危なかった。」


「えへへ~」


 パダウがサウン・ガウを抱え直しながら、のんびりと笑う。


「でも、勝てたからいいよね~。」


 彩葉はその場にしゃがみ込み、地面に手をつくようにして小さく肩を落とした。


「すごかったです……みなさん、本当に……」


「彩葉ちゃんもだよ。」


 ラーチャプルックは笑って、彩葉の頭を軽く撫でる。


「最後の封印、あれがなかったらかなり危なかった。」


「え……」


「ほんとほんと。」


 パダウも頷く。


「みんなの力が合わさったから勝てたんだよ。」


 彩葉は少しだけ照れたように笑う。


 そのとき、ユミが静かに口を開いた。


「ところで、彩葉。」


「はい?」


「お前はこのあとどうするつもりだ。」


 その問いに、彩葉は少しだけ考えた。


 今までの旅路。


 日本の海を越え、フィリピン、インドネシア、マレーシア、そしてタイ。


 たくさんの守護者に会った。


 妖怪にも、精霊にも、神にも。


 そのひとつひとつが、確かに彩葉の中に積み重なっている。


「……私は」


 彩葉はゆっくりと立ち上がる。


「断界同盟を追いたいです。」


 その言葉は、夜の森にまっすぐ落ちた。


 ラーチャプルックの表情が少しだけ引き締まる。


「断界同盟……やっぱり、そこに行き着くか。」


 彩葉は頷いた。


「はい。」


「日本でも、フィリピンでも、インドネシアでも、マレーシアでも、タイでも……変なものを見ました。」


「アスワングも、想霊も、呪いの樹も……全部、あの組織とつながっている気がして。」


 パダウが静かに目を細める。


「それは……たぶん正しいと思うよ。」


 ユミも低く頷いた。


「ラクシャーサもそうだったな。あの歪みは自然発生ではない。」


 ラーチャプルックは腕を組んで、少しだけ夜空を見上げる。


「じゃあ、目標が見つかったんだね。」


「……はい。」


「断界同盟を追う。」


 その言葉を口にした瞬間、彩葉の中にあった迷いが少しだけ形をなくした気がした。


 自分はただ旅をしているだけではない。


 この世界のどこかで歪みを広げている存在を追う。


 それが今の自分の道なのだと、はっきりと感じられた。


「そっか。」


 ラーチャプルックは小さく笑った。


「なら、ここでじっとしてる暇はないね。」


「はい!」


 するとユミが、少しだけ真剣な顔で彩葉を見る。


「追うなら、気をつけろ。」


「断界同盟は一枚岩じゃない。国ごとに違う形で動いてる可能性もある。」


「はい。」


「そして、奴らの裏にはもっと大きな何かがいるかもしれない。」


 彩葉はその言葉を噛みしめるように聞いた。


「……わかりました。」


 パダウがくすっと笑う。


「でも、そんなこと言われても彩葉ちゃんは止まらなそうだね~。」


「えへへ……」


 ラーチャプルックも笑う。


「そういう顔してる。」


「どこへ向かうの?」


「次……中国に行きたいのベトナムですね」


「ベトナムか。」


 彩葉の目が少しだけ輝く。


「はい……!」


「そこから先、もっと色んな情報が集まるかも。」


「海を越えればすぐだよ。」


 ユミも頷いた。


「ベトナム側でも異変が出始めていると聞く。」


「なら、そこへ向かうのが自然だ。」


 彩葉は大きく頷く。


「はい!」


「行きます!」


 その返事を聞いて、ラーチャプルックは満足そうに笑った。


 夜が明けきらない森を抜け、街へ戻る道を少し歩いたあと、四人は海岸までやってきた。


 遠くには静かな海。


 その向こうに、まだ見ぬ国の影が薄く揺れている。


「ここからは海か。」


 ユミが呟く。


「うん。」


 ラーチャプルックも頷く。


「タイからベトナムへは、海を渡るのが早い。」


 彩葉は足元の波を見つめた。


 深い青。


 どこまでも広がる海。


 あの先に、次の国がある。


 次の出会いがある。


 次の異変があるかもしれない。


「……行ってきます。」


 小さな声だったが、はっきりしていた。


 ラーチャプルックはにっこり笑って手を振る。


「いってらっしゃい。」


「断界同盟、ちゃんと追いかけてね。」


「はい!」


 パダウもサウン・ガウを軽く鳴らした。


「またどこかで会えたら、今度はゆっくりお茶でもしようね~。」


「はい!」


 ユミは弓を背に戻し、静かに一礼する。


「気をつけろ。」


「ありがとうございます。」


 彩葉は深く頭を下げたあと、ゆっくりと海へ向き直った。


 足元の水面が、彼女の一歩ごとに静かに揺れる。


 やがて、海の向こうにベトナムの方角が見えてきた。


 まだ遠い。


 だが、確かにその先へ向かって進んでいる。


 彩葉は胸の奥で、改めて誓った。


 断界同盟を追う。


 世界を歪めるものを止める。


 そして、自分の旅の意味を見つける。


 そうして彼女は、夜明け前の海を越えて、ベトナムへ向かって歩き続けるのだった。

ここまで読んでくれてありがとうございます。

次回もお楽しみに

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ