第百三十三話 微笑みあふれるタイの街歩き
「……はい!」
元気よく返事をすると、彩葉はラーチャプルックの後を追いかけた。
タイの街には、どこか日本とは違う穏やかな空気が流れている。
車や人の往来は多い。
露店からは香辛料の香りが漂い、焼きたての料理の匂いが食欲を誘う。
鮮やかな花が並ぶ店先では、観光客と地元の人々が笑顔で言葉を交わしていた。
ラーチャプルックは振り返りながら笑う。
「まずは市場から見ていこっか♪」
「はい!」
二人は賑やかな市場へ足を踏み入れた。
色とりどりの果物。
山積みにされた野菜。
工芸品。
木彫りの置物。
布細工。
市場には様々な品物が並んでいる。
「わぁ……。」
彩葉は目を輝かせながら辺りを見回した。
「すごいですね……。」
「でしょ~?」
「タイは市場がいっぱいあるんだよ♪」
「地元の人も観光客も来るから、いつもこんな感じなの。」
「活気がありますね!」
「うん♪」
露店のおじさんが笑顔で果物を差し出す。
ラーチャプルックは慣れた様子で受け取り、一つを彩葉へ渡した。
「食べてみる?」
「いいんですか?」
「もちろん♪」
彩葉は恐る恐る一口かじる。
「……!」
「甘い!」
「あはは♪」
「美味しいでしょ?」
「はい!」
「こんな果物、日本では見たことありません!」
「南国だからね♪」
「暖かい場所だから育つ果物もいっぱいあるんだ。」
「なるほど……。」
歩きながら彩葉は周囲を見渡す。
子どもたちが走り回り、大人たちは笑いながら買い物をしている。
どこを見ても平和な光景だった。
「こういう景色って……。」
「好きです。」
ラーチャプルックは優しく微笑んだ。
「あたしも。」
「戦いばっかりじゃ疲れちゃうもん。」
「だから守護者はこういう日常を守るんだよ。」
彩葉は静かに頷く。
「はい。」
二人は市場を抜け、大きな通りへ出た。
黄金色に輝く寺院の屋根が遠くに見えている。
「あれは?」
「有名なお寺だよ。」
「タイにはたくさんお寺があるんだ。」
「綺麗……。」
金色の装飾が太陽の光を反射し、幻想的な輝きを放っている。
風が吹くたび、小さな鐘が澄んだ音を響かせた。
彩葉は思わず立ち止まる。
「なんだか落ち着きます。」
「そういう場所だからね。」
「昔から祈りの場所として大切にされてるんだ。」
「守護者さんも来るんですか?」
「もちろん。」
「たまに一人でぼーっとしに来るよ。」
「あはは。」
彩葉もつられて笑った。
二人は再び歩き始める。
通り沿いには小さな屋台が並び、串焼きや甘いお菓子が次々と焼き上がっている。
「美味しそうですね。」
「食べる?」
「え?」
「遠慮しなくていいよ♪」
「じゃ、じゃあ少しだけ……。」
ラーチャプルックは屋台で串焼きを買う。
二人は並んで歩きながら食べ始めた。
「美味しい!」
「ふふっ。」
「彩葉ちゃんって何でも美味しそうに食べるね。」
「そうですか?」
「うん。」
「見てるとこっちまで嬉しくなる。」
「えへへ。」
彩葉は照れ笑いを浮かべた。
食べ終えると、二人は大きな公園へやって来た。
広々とした芝生では子どもたちが遊び、大人たちは木陰で休んでいる。
池には鳥が集まり、魚が静かに泳いでいた。
「平和ですね。」
「うん。」
「だから最近の想霊騒ぎは嫌なんだ。」
「せっかくのみんなの笑顔が消えちゃうから。」
ラーチャプルックは遠くで遊ぶ子どもたちを見つめる。
その瞳はとても優しかった。
「彩葉ちゃん。」
「はい?」
「旅って楽しい?」
「はい!」
「たくさんの守護者さんと出会えて。」
「たくさんの景色を見て。」
「知らない文化を知って。」
「毎日が新鮮です!」
「そっか。」
ラーチャプルックは嬉しそうに頷いた。
「それなら良かった。」
「旅ってね。」
「景色を見るだけじゃなくて、人と出会うことも旅なんだ。」
「はい!」
「だからいっぱい出会って。」
「いっぱい笑って。」
「いっぱい覚えて帰ってね。」
「きっとそれが彩葉ちゃんだけの宝物になるから。」
彩葉は胸に手を当てる。
「……はい!」
その返事は今までで一番力強かった。
二人は穏やかな笑顔のまま、公園を後にする。
タイの街には今日も人々の笑顔があふれていた。
そして彩葉は、その笑顔の一つひとつを心に刻みながら、ラーチャプルックとともに街の散策を続けるのだった。
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次回もお楽しみに




