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Re:アルケオン〜守護者としての目的を探して〜  作者: れんP
アジアの章 東南アジア編

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第百三十二話 揺れるタイの影と守護の名


 タイの街は、昼と夜の境界が曖昧だった。


 光が強いはずの時間でも、どこか薄い影が地面に沈んでいるように見える。


 彩葉(いろは)はその違和感を、歩きながら確かめていた。


「……やっぱり、……なんかへん、空気が重い……」


 その言葉は独り言に近かったが、確かに現実の重さを持っていた。


 人通りの多い通りなのに、どこか一箇所だけ音が抜け落ちているような感覚がある。


 次の瞬間だった。


 空間が裂けるように、黒い気配が跳ね上がる。


「アァァァァァァ!!」


 耳の奥に直接響くような叫び。


 人々が一斉に振り返るよりも早く、彩葉はその存在を“見てしまっていた”。


「想霊!?」


 反射的に声が出る。


 影のようなものが地面から立ち上がり、形を崩しながら街路へ侵食しようとしていた。


 逃げるより先に、圧が来る。


 動けない。


 そう思った瞬間だった。


「しゃがんで!!」


 鋭い声が空気を切った。


「え?わ――」


 彩葉の身体が引かれるように沈む。


 その瞬間、頭上を何かが通過した。


 衝撃とともに、想霊の叫びが一瞬だけ途切れる。


「ァァァァァァァァ!?!?」


 次の瞬間、地面に強い衝撃が走った。


 そこに立っていたのは、異様な武器を構えた少女だった。


 軽やかな動きとは裏腹に、その目には戦い慣れた静けさがある。


「……ふぅ、怪我はない?」


 彩葉は驚きながらも頷く。


「あ、はい、お強いんですね」


 少女は武器を肩に乗せるようにして軽く笑った。


「まだまだだよ」


 その言葉とは裏腹に、周囲に残る圧は明らかに常人のものではなかった。


「200年は生きてるけど、この「クラビー・クラボーン」をうまく扱えないし……」


 そう言いながら、少女は軽く肩をすくめる。


「あ、あたしはタイの守護者「ラーチャプルック」だよ♪」


 彩葉はすぐに姿勢を正す。


「あ、バッグの守護者「彩葉」です!」


「彩葉ちゃんか~♪よろしくね♪♪」


 空気は一気に柔らかくなった。


 だが、先ほどの想霊の残滓だけはまだ消えていない。


 少し離れた場所に移動したあと、ラーチャプルックは周囲を見渡しながら話し始めた。


「へぇ~♪それで寄り道としてここに来たんだ~良いね~」


「はい、ここで過ごしたあとはベトナムに」


「ベトナムか~あそこも自然がいっぱいで素晴らしいとこだよ~」


「行ったことあるんですか?」


「もちろん♪ここいらの国の守護者とは知り合いだし行ったこともあるよ」


 その言葉には軽さと同時に、広い時間を生きてきた重みが混ざっていた。


「楽しみになって来ました」


 彩葉の声は少しだけ明るくなる。


「あはは♪良いよ良いよ、ここの良いところ、いっぱい紹介するよ♪にひっ♪」


 その笑いの中に、ほんの一瞬だけ警戒が混じる。


 彩葉はそれに気づいたが、あえて触れなかった。


「そういえば、ここにも想霊はいるんですね」


「ん?そりゃもちろんいるよ、感情から生まれるもの」


「ですよね」


 当たり前のように交わされる会話の中で、さきほどの襲撃だけが異質だった。


 ラーチャプルックの声が少しだけ低くなる。


「でも、最近、増えてるんだ」


 彩葉の足が止まる。


「変なオーラをまとったやつが、そういうやつは決まって暴れる」


「そして中心辺りにある核と思われるものを破壊すると宿主もろとも消えるんだ」


 一拍。


「いや、死ぬ、と言った方がいいかな」


 彩葉の表情がわずかに変わる。


「……ペナンガランと同じだ」


 思わず口に出る。


「マレーシアでも、似たようなのが」


「えぇー!?そっちでも!?」


「はい、断界同盟の仕業かもって」


「あいつらか」


 空気が一瞬だけ冷える。


 名前だけで、何かが繋がってしまう。


 ラーチャプルックは舌打ちではなく、深い息を吐いた。


「日本の守護者「サクラ」さんって、どんな方なんでしょうか」


 彩葉は話題を変えるように聞いた。


 ラーチャプルックは少しだけ目を細める。


「サクラちゃん?」


「あの子はね~優しすぎて本気をだせないらしいよ」


「優しすぎて?」


「うん、あの戦争“第一次共生世界大戦”で、アメリカの守護者「ローズ」と戦ったときも殺すのをためらって本気を出さなかったって聞いたよ」


 彩葉は静かにその言葉を受け取る。


「そうなんですね。ありがとうございます」


「そうだ、ここを案内したいんだった!行こう!」


 ラーチャプルックが勢いよく手を振る。


 彩葉は少しだけ笑って、頷いた。


「……はい!」


 その返事とともに、タイの街は再び“日常”を取り戻したように見えた。


 しかし、その奥に潜む影だけは、まだ完全には消えていなかった。

ここまで読んでくれてありがとうございます。

次回もお楽しみに

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