第百十五話 特別な守護者の話
インドネシア。
夕焼けに染まる丘。
水平線の彼方へ沈みゆく太陽を見ながら、彩葉たちは穏やかな時間を過ごしていた。
吹き抜ける風は暖かく、どこか懐かしい香りを運んでくる。
鳥たちの鳴き声も少しずつ遠ざかり、世界は静かな夜へ向かおうとしていた。
そんな中。
彩葉はふと思い出したように口を開いた。
「……あの、マツリカさん」
「なぁ~にぃ~?」
のんびりとした返事が返ってくる。
彩葉は少しだけ首を傾げた。
「急に気になったんですが、日本の守護者『サクラ』さんって、どんな方なんでしょう」
「私、会ったことなくて」
すると。
マツリカは夕焼けの空を見上げた。
その顔はいつものふわふわした笑顔ではなく、どこか懐かしいものを思い出すような優しい表情だった。
「……そぉ~だねぇ~」
「とっても優しくてぇ~」
「勇気があってぇ~」
「誰よりも愛がある……」
「そんな守護者かなぁ~」
「サクラ様は」
その声には深い尊敬が込められていた。
隣にいたサンパギータも静かに頷く。
「リーダーを『国』シリーズの守護者として招待したことで」
「リーダーは『国』シリーズの守護者になった」
「え?」
彩葉は目を丸くする。
「シリーズ?」
「前に言ってたような……」
マツリカはうんうんと頷いた。
「うぅ~ん」
「その守護者の系統みたいなものかなぁ~」
「守護者はねぇ~」
「みんな『○○シリーズ』ってついてるのぉ~」
サンパギータが説明を続ける。
「最初は学者が言い出したことらしい」
「守護者の誕生や性質を分類するため」
「今では一般的な呼び方になってる」
「へぇ~!」
彩葉は感心した。
「じゃあ」
「私は何シリーズなんだろう?」
すると。
マツリカはすぐに答えた。
「……付喪シリーズだと思うよぉ~」
「だってぇ~」
「バッグだしぃ~」
「なるほどです!」
彩葉は納得したように何度も頷く。
だが。
すぐに何かを思い出した。
「あれ?」
「前に国に選ばれたらなる、みたいなこと言ってなかった?」
サンパギータが小さく頷いた。
「そうだね」
「でも」
「サクラは特別」
「他の守護者とは違う」
「私からは言えないけど」
「そうなんですね」
彩葉は不思議そうな顔になる。
だが。
マツリカは優しく微笑んだ。
「そぉ~だぁ~」
「他の『国』シリーズの守護者たちに会って聞いたらいいよぉ~」
「旅してるんでしょぉ~?」
彩葉は夕焼けを見つめた。
赤く染まる空。
広大な海。
今日出会った人々。
これまで旅してきた道。
そして、これから進む道。
「……それも、良いかもしれません」
すると。
サンパギータは静かに微笑んだ。
「でも」
「君の道は君だけの道だよ」
「好きに行くと良い」
「はい♪」
彩葉は嬉しそうに笑った。
すると。
マツリカが突然何かを思い出したように手を叩く。
「あ!」
「そういえばぁ~」
「国シリーズの守護者のみんなぁ~」
「たまに集まるんだよぉ~」
「え?」
「そうなんですか!?」
「うん~」
「会議したりぃ~」
「遊んだりぃ~」
「お茶したりぃ~」
「発明品を見せたりぃ~」
サンパギータがぼそりと呟いた。
「最後のは迷惑」
「えぇ~?」
「この前の空飛ぶ冷蔵庫も?」
「大爆発した」
「その前の全自動料理鍋も?」
「村一つが泡だらけになった」
「うぅ……」
マツリカはしゅんと肩を落とした。
彩葉は思わず笑ってしまう。
「あはは!」
「仲良しなんですね!」
「うん」
サンパギータも小さく笑った。
「みんな家族みたいなもの」
「リーダーは特に」
「みんなから慕われてる」
「えへへ~」
「照れるなぁ~」
そんな穏やかな会話をしていた時だった。
ヒュゥ……
優しい風が吹き抜ける。
すると。
マツリカが空を見上げた。
「旦那様だぁ~」
「え?」
彩葉も空を見る。
すると。
遥か上空。
夕焼けに染まる雲の向こう。
巨大な鳥のような影が一瞬だけ見えた。
そして。
風が三人を優しく包み込む。
「わぁ……」
彩葉は思わず声を漏らした。
マツリカは幸せそうに笑った。
「ふふ~」
「今日も見守ってくれてるぅ~」
サンパギータも空を見上げる。
「相変わらず」
「仲が良い」
やがて。
空は赤から紫へ。
紫から紺色へと変わり始める。
最初の星が輝き始めていた。
彩葉はその光景を見つめながら、心の中で小さく呟いた。
(サクラさん……か)
(いつか会ってみたいな)
(どんな守護者なんだろう)
日本を守る特別な守護者。
誰よりも優しく。
誰よりも愛に満ちた存在。
まだ見ぬその姿に思いを馳せながら。
彩葉たちは、静かに夜空へ変わりゆくインドネシアの美しい夕景を眺め続けるのだった。
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