第百十四話 南国の風と茜色の空
翌朝。
インドネシアのジャングルには爽やかな風が吹いていた。
木々の隙間から差し込む朝日。
鳥たちのさえずり。
そして。
「おはよぉ~」
のんびりとした声と共に、巨大な葉っぱを日傘代わりにしているマツリカが現れた。
その隣には、相変わらず雲のようなものを手首や首元にまとわせたサンパギータの姿もある。
「おはようございます!」
元気よく頭を下げる彩葉。
マツリカはにこにこと笑った。
「今日はぁ~」
「いっぱい観光するよぉ~」
「はい!」
「楽しみです!」
すると。
「その前に……」
サンパギータが小さくため息をつく。
「リーダー」
「変な発明は持ってきてないよね?」
「大丈夫だよぉ~」
「今日は観光用だからぁ~」
そう言うと。
どこからか小さな乗り物を取り出した。
竹と木材で作られたような不思議な形。
しかも羽が付いている。
「空飛ぶ自転車ぁ~」
「昨日完成したんだぁ~」
サンパギータの目が細くなる。
「……昨日?」
「爆発してなかった?」
「二十回くらい失敗したけどぉ~」
「成功したよぉ~」
彩葉の目が輝いた。
「すごいです!」
「えへへ~」
こうして三人は観光へ出発した。
最初に訪れたのは大きな市場だった。
「わぁ!」
「人がいっぱい!」
色鮮やかな果物。
香辛料。
南国特有の甘い香り。
見たことのない料理。
彩葉は興味津々だった。
「すごい!」
「全部初めて見ます!」
マツリカは嬉しそうに笑う。
「ここは好きなんだぁ~」
「人間さんたちの笑顔がいっぱいだからぁ~」
すると。
「マツリカ様!」
「おはようございます!」
市場の人々が次々と頭を下げた。
「おはよぉ~」
「今日も元気ぃ~?」
「はい!」
彩葉は目を丸くした。
「すごい……」
「みんな知ってるんですね」
サンパギータが頷く。
「当然」
「リーダーは昔からこの国を見守ってる」
「だからみんな尊敬してる」
「えへへ~」
「照れるなぁ~」
次に向かったのは美しい棚田だった。
緑の階段がどこまでも続いている。
「わぁ~!」
「綺麗!」
風が吹き抜ける。
稲が揺れる。
太陽の光が反射し、まるで緑色の海のようだった。
「ここも好きぃ~」
「旦那様とよく来るんだぁ~」
「ガルーダ様と?」
「うん~」
「たまに一緒にお昼寝するのぉ~」
彩葉は思わず微笑んだ。
「仲良しなんですね」
「大好きだからぁ~」
サンパギータも小さく笑う。
「リーダーは昔から変わらない」
「何百年経っても」
「えへへ~」
その後も。
三人は美しい寺院を巡り。
大きな滝を眺め。
珍しい動物たちと出会い。
甘い果物を食べ。
市場の人々と話し。
穏やかな一日を過ごした。
気がつけば。
空はオレンジ色に染まり始めていた。
「そろそろだねぇ~」
マツリカが微笑む。
「?」
「なにがですか?」
「一番好きな景色ぃ~」
三人は高い丘へとやって来た。
そして。
彩葉は息を呑んだ。
「わぁ……」
水平線の彼方。
空いっぱいに広がる夕焼け。
赤。
橙。
金色。
様々な色が混ざり合い。
雲までもが茜色に染まっている。
海は鏡のように輝き。
風は優しく頬を撫でていく。
「綺麗……」
思わず零れる言葉。
サンパギータも静かに空を見上げていた。
「うん……」
「この時間は好き」
そして。
マツリカもまた。
穏やかな笑顔で夕焼けを見つめていた。
「旦那様もぉ~」
「この景色が好きなんだぁ~」
風が吹く。
遠くで鳥が鳴く。
世界が静かに茜色へ染まっていく。
彩葉はその光景を胸に刻み込むように見つめた。
日本とは違う。
フィリピンとも違う。
けれど。
どこか懐かしくて。
暖かくて。
優しい景色。
「旅って……本当に素敵ですね」
その言葉に。
二人は静かに微笑んだ。
そして三人は。
沈みゆく太陽と。
美しく染まる夕焼けを。
しばらくの間、何も言わずに眺め続けるのだった。
ここまで読んでくれてありがとうございます。
次回もお楽しみに




