第百十話 響く爆音、境界を越えて
夕焼けが沈み、夜の気配が少しずつ海を包み始めていた。
吸血鬼マナナンガルとの激闘を終えた砂浜。
波の音だけが静かに響いていたその時。
「ドォォォォォォォォォン!!!」
突然。
空気を震わせるような巨大な爆発音が響いた。
「えっ!?」
彩葉が思わず振り向く。
サンパギータもすぐに表情を変えた。
「……この音……」
「普通じゃない」
「向こう……インドネシア側」
遠く。
夕闇の中。
水平線の向こうがわずかに赤く光っていた。
「火事?」
「いや……違う」
「もっと大きい……」
彩葉は不安そうに呟いた。
「サンパギータさん……」
「うん」
「行こう」
「放っておけない」
「はい!」
二人はすぐに走り出した。
砂浜を抜け。
街道を駆け。
やがてフィリピン最南端に近い海岸へとたどり着く。
目の前には広大な海。
その向こうには、ぼんやりと島影が見えていた。
「すごい……」
「あれがインドネシア……」
彩葉は目を輝かせた。
すると。
サンパギータが静かに海へと歩き出す。
そして。
ふわり。
その身体が宙へ浮かび上がった。
「わぁ!?」
「飛んだ!?」
驚く彩葉。
サンパギータは振り返る。
「海外生まれの守護者だから」
「私は空中浮遊できる」
「日本生まれの守護者は水上歩行」
「国によって違うんだ」
「へぇ〜!」
「面白いですね!」
彩葉は目を輝かせた。
「私も飛べたらなぁ」
「きっと便利なのに」
「便利だけど」
「疲れる」
「だから普段は歩く」
少しだけ口元を緩めるサンパギータ。
「え?」
「疲れるんですか?」
「うん」
「空を飛ぶのも体力を使う」
「だから鳥ってすごい」
「あはは!」
「確かに!」
二人は笑い合った。
そして。
彩葉は海面に立った。
守護者特有の水上歩行。
まるで地面の上を歩くように波の上に立つ。
「よし!」
「行きましょう!」
「うん」
ザァァァ……
夜の海。
月明かり。
星空。
二人は海を進み始めた。
静かな時間。
波の音。
心地よい潮風。
「そういえば」
彩葉がふと思い出した。
「ISMPPのリーダーさんってどんな人なんですか?」
サンパギータは少し考える。
「優しい」
「強い」
「怒ると怖い」
「みんなのお姉さんみたいな人」
「へぇ〜」
「会ってみたいです!」
「たぶん」
「いつか会える」
「みんな旅人は好きだから」
「旅人?」
「うん」
「世界を見て回る人」
「色々な人を知ろうとする人」
「そういう人は歓迎される」
彩葉は嬉しそうに笑った。
「私、まだまだ知らないことばかりです!」
「日本にもたくさん守護者がいたし」
「精霊さんも妖精さんも守護霊さんもいて」
「神様もいて」
「吸血鬼もいて」
「世界ってすごいですね!」
「うん」
「広い」
「だから面白い」
サンパギータも珍しく柔らかい表情を見せる。
「彩葉」
「はい?」
「君は」
「旅をしてよかった?」
突然の質問。
彩葉は立ち止まり。
満天の星空を見上げた。
「うん!」
「すっごく!」
「色んな人に会えて!」
「色んな景色を見て!」
「いっぱい笑って!」
「いっぱい驚いて!」
「まだ生まれた意味は分からないけど……」
「きっと」
「いつか見つかる気がするんです!」
サンパギータは静かに聞いていた。
「……そう」
「いい目をしてる」
「え?」
「ううん」
「なんでもない」
そして。
二人はさらに進む。
数時間。
月は高く昇り。
やがて。
前方に大きな島が見えてきた。
「あ!」
「見えてきました!」
彩葉が指差す。
「インドネシア!」
「うん」
「着くよ」
そして。
ついに。
二人は海を渡りきり。
砂浜へと足を下ろした。
ザザッ……
「わぁ……!」
「ここがインドネシア!」
初めて踏む異国の大地。
その瞬間。
「ドォォォォォォォォォォン!!!」
再び。
あの爆発音が響いた。
しかも今度は近い。
空が赤く染まり。
木々が揺れ。
鳥たちが一斉に飛び立つ。
彩葉とサンパギータは同時に顔を上げた。
「また!?」
「近い……!」
サンパギータの表情が険しくなる。
「何かいる」
「しかも……」
「とても大きな力」
夜のジャングルの奥。
赤く光る空。
そして。
得体の知れない巨大な気配。
彩葉はごくりと息を呑んだ。
「インドネシアで……」
「いったい何が起きてるの……?」
ここまで読んでくれてありがとうございます。
次回もお楽しみに




