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Re:アルケオン〜守護者としての目的を探して〜  作者: れんP
アジアの章 東南アジア編

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第百九話 夜空を裂く吸血鬼


夕焼けが終わり、空はゆっくりと夜の色へと染まり始めていた。


砂浜には波の音が静かに響き、遠くにはインドネシアの島影がぼんやりと見えている。


しかし、その穏やかな景色とは正反対に、空中には禍々しい気配が漂っていた。


上半身だけの女性。


コウモリのような翼。


長く伸びた舌。


血のように赤い瞳。


フィリピンに伝わる吸血鬼。


アスワング。


その一種――マナナンガル。


怒りに満ちた瞳で二人を見下ろしていた。


「なんだと!!……まぁ良い、貴様らから!殺してやる!!」


「来るよ!」


サンパギータが前へ出る。


彩葉(いろは)もバッグを握り締めた。


「うん!」


次の瞬間。


バサァッ!!


マナナンガルが急降下した。


その速度は想像以上。


「速い!?」


鋭い爪が彩葉の首を狙う。


だが。


「ドゥウェンデ・ブハル!」


地面に魔法陣が現れる。


隆起した土が一瞬で銃へと姿を変えた。


バン!


バン!


バン!


銃弾がマナナンガルへ向かう。


「チッ!」


吸血鬼は翼を動かし、空中で急旋回した。


「うざったいねぇ!」


無数の血の刃が放たれる。


収納障壁(しゅうのうしょうへき)!」


彩葉の前に光の壁が現れた。


ガガガガガッ!!


血の刃が弾かれる。


「すごい……!」


「彩葉、後ろ!」


「え?」


いつの間にかマナナンガルが背後にいた。


「しまっ――」


ガキィィィン!!


突然。


雲のようなものがサンパギータの手首から伸び、巨大な盾となって爪を受け止めた。


「……させない」


「その雲!」


「私の元の力……精霊だった頃の名残」


「へぇ……!」


マナナンガルが舌打ちした。


「相変わらず邪魔なんだよ!」


空高く舞い上がる。


そして。


血槍(けっそう)!!」


無数の血の槍が降り注いだ。


収納拘束(しゅうのうこうそく)!」


彩葉が光の鎖を放つ。


しかし。


「甘い!」


ブチィ!!


血の槍で鎖が切断された。


「きゃっ!」


「彩葉!」


ドォン!!


爆発。


砂煙が舞い上がる。


「ハハハハハ!!」


「弱いねぇ!」


「そんな力で正義を語るのかい!」


「……!」


砂煙の中。


彩葉は無事だった。


サンパギータが前に立っていたからだ。


「大丈夫?」


「う、うん!」


「ならよかった……」


しかし。


サンパギータの腕から血が流れていた。


「怪我!」


「平気……これくらい」


「でも!」


「大丈夫」


そう言う彼女の表情は静かだった。


怒りも焦りもない。


ただ。


決意だけがあった。


「私はね……」


「精霊だった頃、たくさんの人を守れなかった」


「だから守護者になった」


「もう、誰にも悲しい思いをしてほしくない」


「だから……」


彼女の足元に巨大な魔法陣が広がった。


「私は負けない」


雲のようなものが激しく輝き始める。


「ドゥウェンデ・ブハル……!」


ゴゴゴゴゴ……


大地が震えた。


彩葉は目を丸くする。


「えっ!?」


周囲の土。


砂。


岩。


それら全てが浮かび上がる。


そして。


一つ。


二つ。


十。


百。


数え切れないほどの銃器へと姿を変えた。


ライフル。


機関銃。


散弾銃。


対戦車砲。


巨大な迫撃砲。


まるで兵器の森。


「なっ……!?」


マナナンガルの顔色が変わる。


「嘘だろ!?」


「これ全部!?」


「私の武器」


サンパギータが静かに言った。


「人を守るための力」


「撃て」


ドドドドドドドドドドドッ!!


轟音。


数百の銃器が一斉に火を噴いた。


「ギャアアアアアア!!」


空中を逃げ回るマナナンガル。


だが。


「まだ」


バン!


バン!


バン!


「うわぁぁぁ!?」


「なんなんだよぉ!!」


「全部避けられるわけないだろ!!」


翼が撃ち抜かれる。


左腕が吹き飛ぶ。


体勢を崩し、砂浜へ落下した。


ドォォォン!!


「ぐっ……!」


マナナンガルは血まみれになりながら立ち上がる。


「ふざけるな……」


「私はアスワングだぞ!」


「人間の頂点!」


「夜の支配者!」


「そんな私が……!」


彩葉が前へ出た。


「違うよ」


「え?」


「命を奪うことしか考えない人が、頂点なんかじゃない」


「生まれる前の赤ちゃんを狙うなんて……」


「そんなの間違ってる!」


「守る人の方が、ずっとすごい!」


「……!」


マナナンガルの顔が歪む。


「黙れええええ!!」


最後の突撃。


「死ねぇぇぇ!!」


「終わり」


サンパギータが静かに呟く。


「ドゥウェンデ・カノン」


ゴォォォォ!!


巨大な砲身が地面から現れた。


「なっ――」


ドォォォォォォォォォン!!!


光の奔流。


凄まじい衝撃。


夜空を貫く一撃。


そして。


「ギャアアアアアアアア!!」


マナナンガルの身体は光に飲み込まれた。


やがて。


キラキラと粒子になって消えていく。


「ば……かな……」


「アスワングが……」


「この私が……」


「消える……?」


「嫌だ……」


「嫌だぁぁぁぁぁぁ!!」


シュゥゥゥ……


完全に消滅した。


夜の砂浜。


波の音だけが響いていた。


「終わった……?」


彩葉が呟く。


サンパギータは静かに頷いた。


「うん……終わった」


「すごいです!」


「サンパギータさん!」


「ありがとう!」


「……別に」


そう言いながらも。


少しだけ。


ほんの少しだけ。


サンパギータは優しく微笑んでいた。


その時だった。


遠くの海の向こう。


インドネシアの方角。


――ズドォォォォォン!!


巨大な爆発音。


夜空の彼方が赤く染まる。


「え?」


彩葉が振り向く。


サンパギータの表情が一変した。


「……!」


「この音……!」


彼女の瞳に。


今までになかった緊張が走った。


静かな夜の海に、不穏な気配が広がっていくのだった。

ここまで読んでくれてありがとうございます。

次回もお楽しみに

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