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Re:アルケオン〜守護者としての目的を探して〜  作者: れんP
アジアの章 東南アジア編

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第百五話 再び動き出す観光と南の風



 フィリピンの朝は、戦闘の残響を洗い流すように静かだった。


 海は穏やかに揺れ、空には薄い雲が流れている。


 さっきまでの激戦が嘘のように、港には日常の気配が戻りつつあった。


「終わったんですね……」


 彩葉は海を見つめながら呟いた。


 サンパギータは少しだけ肩の雲飾りを揺らす。


「うん。あれは沈めた」


 その言葉は淡々としていたが、確かな重みがあった。


 港の人々は少しずつ動き始めている。


 壊れた柵を直す者、倒れた荷物を運ぶ者。


 想霊の気配はもう感じられない。


 しかし彩葉の胸の中には、まだあの海の深さが残っていた。


「……観光、再開しようか」


 サンパギータが静かに言った。


「え?」


 彩葉は少し驚いて振り返る。


「観光……できるんですか?」


「できる」


 短い返事だった。


 だがその一言には“日常に戻す力”があった。


 港の通りに出ると、そこはすでに活気を取り戻しつつあった。


 市場のような通りでは果物が並び、地元の人々が声を掛け合っている。


 彩葉は思わず目を輝かせた。


「すごい……さっきまで戦ってたのに……」


 サンパギータは少しだけ歩調を緩める。


「ここはそういう場所」


「海と共に生きてる」


 彩葉は頷きながら周囲を見回した。


 色とりどりの果物、香辛料の匂い、遠くで鳴る音楽。


 戦いの後とは思えないほどの明るさだった。


 通りの一角で、小さな屋台が目に入る。


 そこでは焼き魚のようなものが並び、湯気が立っている。


「おいしそう……」


 彩葉が思わず足を止めると、サンパギータも少しだけ視線を向けた。


「食べる?」


「いいんですか?」


「観光だから」


 その言葉に、彩葉は少し笑った。


 屋台の人に軽く会釈しながら、二人は料理を受け取る。


 香ばしい匂いが一気に広がった。


「いただきます!」


 一口食べると、彩葉の表情が一気に緩む。


「おいしい……!」


 サンパギータは隣で静かに食べている。


 表情はほとんど変わらないが、少しだけ目が柔らかい。


「こういうの、久しぶり?」


 彩葉が尋ねると、サンパギータは少しだけ間を置いた。


「……戦いの後は、いつもこう」


「戻る時間がある」


 彩葉はその言葉を聞いて、少しだけ考え込む。


「戻る時間……」


 海の深層想霊との戦い。


 あの圧倒的な力。


 それを倒した直後に、こうして普通の食事があることが不思議だった。


 通りを進むと、今度は音楽が聞こえてきた。


 小さな広場で地元の人々が踊っている。


 子供たちも混ざって笑っていた。


 彩葉はその光景を見て足を止める。


「すごい……こんなにすぐ笑ってる」


 サンパギータはその様子を静かに見ていた。


「フィリピンはそういう国」


「沈んでも、すぐ浮かぶ」


 彩葉はその言葉に少しだけ感動する。


「いいですね……」


 広場の端では、楽器を持った人々が演奏していた。


 軽やかなリズムが空気を揺らす。


 彩葉は自然とその音に引き寄せられていく。


「ちょっと見てきてもいいですか?」


「いい」


 サンパギータは短く答えた。


 彩葉は広場へ駆け出した。


 音楽の中心で、地元の人々が彼女に気づく。


「おいでおいで!」と笑顔で手を振る者もいる。


 彩葉は少し戸惑いながらも輪の中に入った。


 手拍子に合わせて軽く足を動かす。


 不思議と戦いの緊張が抜けていく。


(……こういうの、いいな)


 彩葉は心の中でそう思った。


 少し離れた場所で、サンパギータがその様子を見ていた。


 静かに、しかし確かに見守っている。


 風が吹く。


 海からの風ではなく、街を巡る柔らかな風だった。


 戦いの余韻はもう薄れている。


 今はただ、旅の一部として時間が流れていた。


 彩葉は広場の中で笑っている。


 その姿を見て、サンパギータは小さく呟いた。


「……これでいい」


 誰に向けたでもない言葉だった。


 だがその言葉は、確かにこの街の空気に溶けていった。

ここまで読んでくれてありがとうございます。

次回もお楽しみに

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