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Re:アルケオン〜守護者としての目的を探して〜  作者: れんP
アジアの章 東南アジア編

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第百四話 海鳴りの深層と白花の守護


 フィリピンの港。


 海風は強く、波は先ほどよりも荒れていた。


 空はまだ明るいはずなのに、海面だけが異様に暗い。


 そこには“何か”が沈んでいる気配があった。


「来る」


 サンパギータの声は低く、静かだった。


 彩葉(いろは)はその横で息をのむ。


 海面が揺れる。


 ぐにゃり、と世界そのものが歪んだような感覚。


 次の瞬間。


 海から黒い影が浮かび上がった。


 それは人型にも見えるが、人間ではない。


 全身が海水と怨念を混ぜたように揺らぎ、輪郭が定まらない。


 口のような裂け目から、海鳴りのような音が漏れていた。


『……グォォォ……』


「想霊……海のやつ……」


 彩葉は身構える。


 しかしサンパギータは一歩も動かない。


 ただ、海を見ていた。


「さっきのより重い」


「深いところから来てる」


 黒い影はゆっくりと腕を上げる。


 その瞬間、海が盛り上がった。


 まるで海そのものが意志を持ったかのように。


「まずい!」


 彩葉が叫ぶ。


 だがサンパギータは静かに片手を上げた。


「……ドゥウェンデ・バギョ」


 雲のような装飾が一斉に揺れる。


 港の地面に、巨大な陣が浮かび上がった。


 ゴゴゴゴゴ……


 大地が低く唸る。


 すると海岸線に沿って、無数の構造物が形成されていく。


 それは銃でも砲台でもない。


 “海を制御するための装置”のようなものだった。


「これ……全部出てるの!?」


 彩葉が驚く。


 サンパギータは淡々と答える。


「海の想霊は陸と違う」


「一撃じゃ消えない」


 黒い影が叫び声を上げた。


『ォォォォォォォ!!』


 その瞬間、海が爆発するように盛り上がる。


 巨大な水の腕が形成され、サンパギータへと振り下ろされる。


「危ない!」


 彩葉が叫ぶ。


 だがサンパギータは動かない。


 むしろ一歩前に出た。


「……邪魔」


 その瞬間。


 地面の陣が光る。


 海岸線の装置が一斉に起動した。


 ゴォォォォォ!!


 海風が逆流するような衝撃。


 水の腕が途中で崩れ落ちる。


『……ッ!?』


 黒い影が後退する。


 しかしサンパギータは追わない。


 代わりに空を見上げた。


「まだ終わらない」


 その言葉と同時に。


 海が“割れた”。


 ゴゴゴゴゴゴ……


 海面が左右に裂けるように沈んでいく。


 その中心から。


 さらに巨大な影が姿を現した。


 先ほどの個体とは比べものにならない。


 まるで“海そのものの核”が形を持ったようだった。


「うそ……」


 彩葉の声が震える。


 サンパギータは初めて少しだけ目を細めた。


「……深層想霊」


「ここまで来るのは珍しい」


 海鳴りが激しくなる。


 空気が重くなる。


 港全体が軋むような音を立てていた。


 巨大な影はゆっくりと腕を広げる。


『……カエレ……』


『……ココハ……ワレノウミ……』


 その声は人間のものではなかった。


 しかし確かに“意思”があった。


 サンパギータは静かに銃のような構造物に手を添える。


「なら、封じる」


 彩葉が息を呑む。


「封じる……?」


 サンパギータは頷かない。


 ただ淡々と準備を進める。


 雲の装飾が一気に広がる。


 港全体を覆うように。


 地面の陣が何重にも重なり始める。


「これ……全部使うの……?」


 彩葉は圧倒される。


 サンパギータは短く答える。


「うん」


「少し本気」


 その瞬間だった。


 海の深層想霊が咆哮する。


『ォォォォォォォォォ!!』


 海が完全に割れる。


 巨大な水柱が無数に立ち上がる。


 それはまるで世界そのものが崩れるような光景だった。


 しかしサンパギータは動じない。


「……サンパギータ・コア」


 静かな声。


 そして。


 港全体の陣が一斉に発光した。


 空気が震える。


 海が止まる。


 一瞬だけ、すべてが静止した。


 そして次の瞬間。


 光が解放される。


 ドォォォォォォォォン!!


 海全体が光に包まれた。


 巨大な影は叫び声を上げる間もなく、光の中に溶けていく。


『……ァァァァ……』


 最後の声。


 それもすぐに消えた。


 やがて。


 海は元の姿を取り戻していく。


 波は穏やかに戻り、空も明るさを取り戻した。


 港に静寂が訪れる。


 彩葉は呆然とその光景を見ていた。


「……すごい」


 サンパギータは小さく息を吐く。


「終わり」


 その一言だけ。


 しかしその背中には、確かな重みがあった。


 海はもう騒がない。


 港には再び、普通の時間が流れ始めていた。

ここまで読んでくれてありがとうございます。

次回もお楽しみに

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