第百二話 南国を守る白き花
フィリピンの街。
人気のない路地。
そこでは無数の想霊たちが呻き声を上げながら彩葉を取り囲んでいた。
半透明の身体。
虚ろな瞳。
そして人間だった頃の苦しみを引きずるような悲鳴。
数十体にも及ぶ想霊の群れを見て、彩葉は冷や汗を流していた。
「さすがに多いよ......」
その時だった。
背後から静かな声が聞こえる。
「......はぁ............さがってて」
「え?」
振り返った彩葉の目に映ったのは、一人の少女。
白い花を思わせる美しい服。
そして手首、足首、首元には雲のような不思議なものがまとわりついていた。
その少女は気怠そうに小さく息を吐く。
しかしその瞳だけは鋭く、目の前の想霊たちをまっすぐ見据えていた。
想霊たちは一斉に咆哮する。
「ァァァァァ......」
すると少女はゆっくりと片手を前に出した。
「......ドゥウェンデ・ブハル............!」
その瞬間。
足元に巨大な陣が現れる。
ゴゴゴゴゴ……
大地が震えた。
そして。
地面そのものが盛り上がり。
土が形を変えていく。
やがてそれは。
巨大な銃器へと姿を変えた。
「えっ!?」
「あれは......精霊の力?」
驚く彩葉。
少女は静かに武器を握る。
「フィリピンの守護者『サンパギータ』......出陣する」
「フィリピンの守護者!?」
彩葉が驚く間にも。
想霊たちは襲い掛かってきた。
『オオオオオ!!』
『クルシイ!!』
『ウアアアア!!』
しかし。
サンパギータの表情は変わらない。
「......騒がしい」
バァン!!
轟音。
一発の弾丸。
それだけで先頭の想霊三体が浄化され、光の粒となって消えていった。
「すごい!」
だが数が多い。
左右から十数体が一斉に飛びかかる。
「収納拘束!」
彩葉のショルダーストラップが伸びる。
数体を拘束。
「今です!」
「......ありがとう」
サンパギータは銃口を向ける。
「ルンバス・アラパープ」
ドドドドドドドド!!
連射。
光の弾丸が雨のように降り注ぎ、拘束された想霊たちは次々と浄化されていく。
『アアアアア!!』
『ギャアアア!!』
光の粒となって消滅。
しかし。
奥からさらに巨大な想霊が現れた。
「!?」
それは二階建ての建物ほどの大きさ。
無数の顔が身体中から浮かび上がり、怨念の声を響かせていた。
『オオオオオオオ!!』
彩葉は思わず息を呑む。
「大きい!」
「まずい!」
巨大想霊が腕を振り下ろす。
しかし。
サンパギータは微動だにしない。
「......大きいだけ」
少女の周囲の雲が揺れる。
「......ドゥウェンデ・バギョ」
ゴォォォ!!
風が集まる。
そして。
地面からさらに巨大な狙撃銃が出現した。
「わぁ!?」
彩葉が目を丸くする。
サンパギータは静かに照準を合わせる。
「......消えて」
ドォォォォン!!
一撃。
放たれた光弾は巨大想霊の胸を貫いた。
『ガアアアアア!!』
さらに。
身体中に亀裂が走る。
そして。
パリン。
巨大な身体は無数の光となり、空へと消えていった。
「倒した......!」
しかし。
まだ終わりではない。
建物の影。
路地裏。
屋上。
あらゆる場所から想霊たちが姿を現す。
『ウウウウ......』
『アアアア......』
『タスケテ......』
「まだいるの!?」
彩葉は慌てる。
しかし。
サンパギータは小さくため息をついた。
「......まとめて」
すると。
雲のようなものが大きく広がる。
地面に無数の陣が浮かび上がった。
ゴゴゴゴゴゴ……
大地が隆起する。
そして。
数え切れないほどの銃器が地面から現れた。
「ええええ!?」
「すごい!」
彩葉は目を丸くする。
サンパギータは静かに手を掲げた。
「......サンパギータ・ブロッサム」
その瞬間。
数十もの銃口が一斉に輝く。
ドドドドドドドドドドドドドドドドド!!
轟音。
光。
そして浄化。
想霊たちは悲鳴を上げる間もなく、次々と光へ変わっていった。
『アアアアア……』
『アリガトウ……』
『……』
最後の一体が消える。
そして。
路地に静寂が戻った。
風が吹く。
先ほどまでの禍々しい気配は完全に消え去っていた。
彩葉は呆然と立ち尽くくす。
「すごい......」
「全部倒しちゃった......」
サンパギータは巨大な銃器を消しながら、小さく息を吐いた。
「......終わった」
こうして。
フィリピンの街を脅かしていた想霊たちは。
一体残らず浄化されたのだった。
ここまで読んでくれてありがとうございます。
次回もお楽しみに




