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マンドラゴラは指定野菜になりたい 〜カリフラワーにできたんだから俺にもできるはず。なお、ライバルは高麗人参です。〜  作者: ボルシチ食いたい
第四章

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41/41

第41話 市場休場日と、マンドラゴラの優雅なる(?)休日はディ・ス・コ⭐️ 休めると思った根菜(オレ)が甘かったマンボ♪

 市場休場日。


 その言葉には、甘美な響きがある。


 客が来ない。

 札を書かなくていい。

 説明カードを配らなくていい。

 急に抜かれない。

 カレーにも沈まない。

 肉にも絡まない。

 プリン様の儚さについて考えなくていい。

 パイナップルの葉っぱを頭に載せられない。


 つまり、休日。


 俺は朝から木箱の中で、優雅に葉を伸ばしていた。


 日差しはやわらかい。


 市場は静か。


 ミラーボールも、さすがに今日は止まって――


 回っていた。


 俺は筆談板を握った。


『なぜ』


 白い売り場の上で、カリフラワー先輩のミラーボールが静かに回転している。


 客はいない。


 市場も休み。


 なのに光はある。


 むしろ、人がいないぶん、光がよく見える。


 床に反射する白い粒。


 天井を泳ぐ銀の点。


 木箱をかすめる光。


 そして、俺の濃い顔を劇的に照らす照明。


『休場日です』


 俺は筆談板を掲げた。


 返事はなかった。


 カリフラワー先輩は白く鎮座していた。


 完全に、休みの日ほど本気を出すタイプの師匠だった。


      ◇


 俺の休日計画は、完璧だった。


 一、何もしない。

 二、葉を整える。

 三、何もしない。

 四、説明プリントを読み返す。

 五、何もしない。

 六、夕方に少しだけ指定野菜への道について考える。

 七、考えすぎたら寝る。


 優雅。


 かなり優雅。


 俺は木箱の中で、筆談板に小さく書いた。


『本日は休業中』


 その下に、さらに書き足す。


『急用以外は明日お願いします』


 完璧。


 すると、倉庫の奥から声がした。


「一番根ー!」


 ウリ坊だった。


 急用だった。


 俺は筆談板を裏返した。


『本日は休業中』


「読めない!」


 そうだった。


 終わった。


      ◇


 ウリ坊は休場日でも元気だった。


 手には小さな袋。


 中には、紙の星飾りと、なぜか鈴。


 その後ろから、オーク農家がのっそり現れる。


「悪いな。市場の点検があってな。ついでにウリ坊が来たがった」


 ついで。


 そのついでが、俺の休日を破壊する。


 ウリ坊は目をきらきらさせて言った。


「今日は市場、お休み!」


『はい』


「だから、遊べる!」


『違います』


 俺は即座に書いた。


 休みとは、働かないための日であって、遊ばれるための日ではない。


 しかしウリ坊は、白い売り場の方を見て叫んだ。


「ミラーボール!」


 終わった。


 子どもに見つかったミラーボールは、もう照明ではない。


 イベントである。


      ◇


「今日の課題は決まったね」


 ブロッコリーがいた。


 休場日なのに。


 健康そうに。


 俺は筆談板を握りしめた。


『なぜいる』


「点検」


『本当に?』


「ついでに休場日の棚改善」


『それは業務です』


「休みの日にしかできない業務もある」


 最悪の言葉だった。


 休みの日にしかできない業務。


 働く者を滅ぼす呪文である。


 ブロッコリーは、俺の休日計画表を見た。


「何もしないが多いね」


『休日なので』


「でも、何もしないをするためにも、環境づくりが必要だ」


 嫌な予感。


「本日の課題は、休場日の市場を使って、売り場の動線と親しみやすさを確認すること」


『業務です』


「そして、せっかくミラーボールがある」


『片付けてください』


「親しみやすさ確認を兼ねて、軽く踊ろう」


 踊る。


 市場で。


 休場日に。


 俺は筆談板に書いた。


『なぜ指定野菜への道で踊りが発生するのですか』


 ブロッコリーは爽やかに言った。


「野菜にもリズムが必要だから」


 嘘だ。


      ◇


 最初に乗ったのは、豆苗だった。


「二回目がありますからね!」


 意味が分からない。


 しかし豆苗は、ぴょん、ぴょんと軽快に跳ねた。


 一回目のステップ。


 二回目のステップ。


 再生するたびにノリが増えている気がする。


 次にパイナップル卿。


 葉を扇のように広げ、ゆっくりと揺れる。


 完全に南国のステージ。


 ウリ坊が拍手した。


「葉っぱダンス!」


 パイナップル卿は誇らしげだった。


 次にくわい先輩。


 芽を立てたまま、静かに一歩。


 また一歩。


 地味。


 だが、芽だけが妙に目立つ。


「芽は上に出るものです」


 そう言っている顔だった。


 踊りでも芽に帰る。


 強い。


 高麗人参は社交ダンスだった。


 赤い布をひるがえし、金縁の札を胸に、静かに回る。


 格式。


 謎の格式。


 ロマネスコ先輩は、ただ回転していた。


 螺旋なので。


『先輩、それは踊りですか』


「回転とは宇宙の呼吸」


『聞いた俺が悪かったです』


      ◇


 そして問題のカリフラワー先輩。


 白い師匠は動かない。


 まったく動かない。


 ただ、ミラーボールの下で白く光を受けている。


 それだけ。


 だが、圧倒的にステージ中央だった。


 俺は筆談板に書いた。


『踊っていない』


 エシャロットちゃんが言った。


「場を支配していますわ」


『ずるい』


「白は受け止める色ですから」


 また出た。


 白万能理論。


 俺が同じことをやったら、ただの濃い根菜の置物である。


      ◇


 ウリ坊が俺を見た。


「一番根も!」


『俺は休日です』


「ディ・ス・コ!」


 言い方が古い。


 誰が教えた。


 オーク農家が目をそらした。


 犯人がいた。


 ウリ坊は両手を上げて言った。


「ディ・ス・コ⭐️」


 市場に星飾りが舞った。


 ミラーボールが光る。


 豆苗が跳ねる。


 パイナップル卿が葉を広げる。


 くわい先輩の芽が光を受ける。


 パクチー汁が光った。


『お前は光るな』


 俺は反射で筆談板を掲げた。


 休場日でも、これは言う。


      ◇


 こうして、休場日の市場は、なぜかディスコになった。


 ただし、青果市場なので音楽はない。


 しいたけ部長が低い声で、


「もわ、もわ、もわ……」


 とリズムを刻む。


 やめてほしい。


 湿度が上がる。


 ブロッコリーが木箱を叩く。


 野蒜ちゃんが包丁でまな板を鳴らす。


 やめてほしい。


 音がプロすぎて怖い。


 エシャロットちゃんが紙の星を吊るす。


 カリフラワー先輩のミラーボールが、さらに回る。


 そしてウリ坊は、俺の前に立った。


「一番根、いっしょ!」


 反則。


 踊りたくない。


 休みたい。


 木箱で優雅に何もしないをしたい。


 だが、ウリ坊が手を差し出している。


 俺は根菜。


 手はない。


 でも、葉はある。


 俺はしぶしぶ葉を少しだけ揺らした。


 ウリ坊が満面の笑みになった。


「踊った!」


『揺れただけです』


「踊った!」


 判定が甘い。


 子どもの判定は、時に救いであり、時に罠である。


      ◇


 しかし、踊ってみると分かったことがある。


 売り場の床は、意外と段差がある。


 木箱の角は、子どもの膝に当たりやすい。


 ミラーボールの光が、説明札に反射して読みにくい。


 パイナップルの葉は写真映えするが、通路にはみ出す。


 豆苗が跳ねると、近くの札が倒れる。


 ロマネスコ先輩が回転すると、視界が混乱する。


 パクチー汁が光ると、全員そっちを見る。


『だから光るな』


 俺は二度目の注意を書いた。


 ブロッコリーが頷く。


「ほら、休場日にしか分からないことがある」


 悔しい。


 正しい。


 踊っている場合ではないと思っていたが、踊ったことで売り場の問題が見えた。


 動線。


 安全。


 見やすさ。


 触れやすさ。


 親しみやすさ。


 指定野菜への道は、売っている日だけでは進まない。


 休みの日にも、少しだけ進む。


 腹立つ。


 ブロッコリーが正しいと腹立つ。


      ◇


 問題は、俺にもあった。


 俺の木箱は、子どもが近づくと少し高い。


 説明札は読みにくい。


 筆談板を置く位置も、角度によって見えない。


 そして、ミラーボールの光が俺の顔に当たると、かなり劇的になる。


 ウリ坊が真剣に言った。


「一番根、こわい顔の時間がある」


『時間制ですか』


「光がここに来ると、こわい」


 ウリ坊は床を指した。


 確かに、銀の点が俺の目元に入る。


 濃い顔に影。


 これは怖い。


 俺は筆談板に書いた。


『照明事故です』


 カリフラワー先輩は白く微笑む。


『師匠の照明です』


 俺は書き直した。


『師匠の照明事故です』


 カリフラワー先輩は、少しだけ白さを強めた。


 怒っているのかもしれない。


      ◇


 そこで、休場日改善会議が始まった。


 議題。


一番根を怖く見せないための売り場角度


 嫌な議題である。


 野蒜ちゃんが木箱を少しずらす。


「正面だと濃い」


『仕様です』


 エシャロットちゃんが札を斜めにする。


「説明札を先に見せた方がいいですわ」


 高麗人参が頷く。


「顔より情報。格式ある順序です」


『顔を後回しにするな』


 くわい先輩が芽を揺らす。


「上に何かあると安心します」


 そう言って、自分の芽を見せる。


『俺にはその芽がないです』


 パイナップル卿が葉を一枚差し出した。


『載せません』


 ウリ坊が即座に言った。


「似合うよ!」


『載せません』


 反則の力技を、今日は断った。


 休日だから。


      ◇


 最終的に、木箱は少し低くなった。


 説明札は前。


 筆談板は横。


 俺の顔には、カリフラワー先輩のミラーボール光が直撃しない角度。


 そして、子ども用に小さな札が追加された。


一番根は休憩中のことがあります。

声をかけてから見てね。


 まとも。


 かなりまとも。


 ただ、その横にウリ坊が勝手に書き足した。


ちょっとおどる。


『踊りません』


「おどった!」


『揺れただけです』


「ちょっとおどる!」


 消せなかった。


      ◇


 昼過ぎ。


 市場ディスコは、いつの間にか本格化していた。


 しいたけ部長の「もわもわ」がベース。


 野蒜ちゃんのまな板がビート。


 豆苗の再生ステップ。


 パイナップル卿の葉っぱショー。


 くわい先輩の芽スポット。


 ロマネスコ先輩の螺旋回転。


 高麗人参の格式ターン。


 カリフラワー先輩の白き中心。


 そして俺。


 木箱で、葉を少しだけ揺らす係。


 地味。


 だが、ウリ坊は嬉しそうだった。


「一番根、ディ・ス・コ⭐️」


 俺は筆談板に書いた。


『ディスコとは何ですか』


 オーク農家が咳払いした。


「昔の、踊るやつだ」


『なぜ知っているのですか』


「若い頃に少しな」


 市場が止まった。


 オーク農家。


 ディスコ経験者。


 ウリ坊が目を輝かせる。


「父ちゃんも!」


「いや、もう腰が」


「父ちゃんも!」


 反則。


 親子反則。


 オーク農家はしばらく抵抗した。


 だが、ミラーボールの下に立った。


 そして、ゆっくりと肩を動かした。


 市場が湧いた。


 農家のディスコ。


 予想外に様になっている。


 野蒜ちゃんが腹を抱えた。


「なにそのステップ!」


 エシャロットちゃんが拍手した。


「意外とキレがありますわ」


 ウリ坊は大喜び。


 俺は筆談板に書いた。


『本日の主役が決まりました』


 オーク農家は真っ赤になった。


      ◇


 夕方。


 市場は、休場日とは思えないほど散らかっていた。


 星飾り。


 直した札。


 低くなった木箱。


 角度変更された棚。


 なぜか増えた「ディ・ス・コ⭐️」の紙。


 そして、まだ回っているミラーボール。


『止めてください』


 俺は筆談板を掲げた。


 カリフラワー先輩は白く微笑んだ。


 聞く気がない。


 ブロッコリーが記録帳を閉じた。


「休場日改善、成功だね」


『休日は失敗です』


「優雅だった?」


『疑問符つきなら』


 確かに、優雅ではなかった。


 静かでもなかった。


 何もしない計画は、完全に破壊された。


 だが、少しだけ市場が見やすくなった。


 少しだけ安全になった。


 少しだけ俺は、怖く見えにくくなった。


 そしてウリ坊は、今日ずっと笑っていた。


 なら、完全な失敗とも言いきれない。


      ◇


 その日の記録には、こう書かれた。


市場休場日。点検および売り場改善実施。

カリフラワー先輩のミラーボール、休場日も稼働。

市場ディスコ発生。原因はウリ坊の「ディ・ス・コ⭐️」。

一番根、葉を揺らす。本人は踊りではないと主張。

木箱位置、説明札角度、照明反射を改善。恐怖印象を軽減。

オーク農家、ディスコ経験あり。要聞き取り。

パクチー汁、休場日でも発光。理由不明。


 最後二つ。


 どちらも掘るな。


      ◇


 夜。


 W.H.O.ポスターの横に、新しい札が貼られた。


休む日にも、売り場は育つ。

何もしないためには、何もしないで済む場所を整える。

ディ・ス・コ⭐️は、ほどほどに。


 その下に、ウリ坊が小さく書き足した。


一番根、ちょっとおどった。

父ちゃん、すごくおどった。

カリフラワーししょう、ぴかぴか。


 俺は筆談板を持ち上げた。


 抗議しようと思った。


 でも、やめた。


 市場は静かだった。


 ミラーボールは、まだゆっくり回っていた。


 光が床を流れる。


 俺の木箱には、もう怖い影は落ちていない。


 休場日の優雅なる休日は、優雅ではなかった。


 だが、少しだけ休みらしい疲れがあった。


 遊んだあとみたいな疲れ。


 働いたあとみたいな疲れ。


 その中間。


 俺は葉を少しだけ揺らした。


 誰も見ていない。


 だから、踊りではない。


 根菜だけど、そう思った。


 なお、ウリ坊はそれを見ていた。


「一番根、やっぱりおどった!」


『見ていないことにしてください』


 休場日にも、反則は休まない。

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