表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
マンドラゴラは指定野菜になりたい 〜カリフラワーにできたんだから俺にもできるはず。なお、ライバルは高麗人参です。〜  作者: ボルシチ食いたい
第四章

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
38/41

第37話 指定野菜への道を説く師弟の話だけど、白き師匠はミラーボールを片付けねえ

 朝。


 カリフラワー先輩の売り場に、畳が敷かれていた。


 いや、正確には畳っぽい緑のござである。


 青果市場なので、本物の畳を敷くと湿気で大変なことになるらしい。


 それは分かる。


 分かるが。


 その上に、カリフラワー先輩が鎮座していた。


 白い。


 静か。


 背後には、まだミラーボール。


 俺は筆談板を握った。


『なぜ道場になっているのですか』


「指定野菜への道を説くためですわ」


 エシャロットちゃんが言った。


『なぜミラーボールが残っているのですか』


「照明ですわ」


『道場に照明が過剰』


 カリフラワー先輩は白く微笑んでいた。


 完全に片付ける気がない。


      ◇


「今日の課題は決まったね」


 ブロッコリーが言った。


 出た。


 道場でも健康そうである。


「今日は、カリフラワー先輩から指定野菜への道を学ぶ」


 指定野菜への道。


 俺がずっと目指してきた道。


 カリフラワーにできたんだから、俺にもできるはず。


 そう思った道。


 その白い先輩が、いま道場で師匠面をしている。


 いや、実際に師匠なのかもしれない。


 俺は筆談板に書いた。


『弟子入りですか』


 カリフラワー先輩が、白い札を差し出した。


 濃いまま座りなさい。


 俺は座った。


 根菜だけど。


      ◇


 白き師匠の第一の教え。


 棚にいて、邪魔にならないこと。


 地味。


 だが、重い。


 カリフラワー先輩の横に、木箱が置かれた。


 俺はそこに入れられる。


 隣には、ジャガイモ先輩。


 反対側には、ピーマン勇者。


 その横には、くわい先輩。


 さらに高麗人参。


 密度が高い。


 俺は筆談板に書いた。


『邪魔です』


「誰が?」


 ピーマン勇者が聞いた。


『全体的に』


 棚とは、ただ置かれる場所ではない。


 手に取りやすいこと。


 見やすいこと。


 怖くないこと。


 隣の野菜を圧迫しないこと。


 説明札が読めること。


 急に抜かれないこと。


 ミラーボールの反射で顔が劇みたいにならないこと。


 俺は最後の一点を強く主張した。


 カリフラワー先輩は白く微笑むだけだった。


 却下らしい。


      ◇


 第二の教え。


 調理で消えず、食卓で暴れないこと。


 白き師匠は、茹でても白い。


 焼いても白い。


 シチューに入っても上品。


 カレーに添えても余白。


 すごい。


 だが、俺はどうだ。


 カレーに沈む。

 チーズに飲まれる。

 肉に負ける。

 パクチー汁には巻き込まれる。

 顔は濃い。


 俺は筆談板に書いた。


『不利では』


 カリフラワー先輩は札を出した。


 消えない工夫をしなさい。暴れない工夫も。


 正論。


 白いくせに、言うことが重い。


 エッセントゥーナ夫人が銀の匙を鳴らした。


「余韻ですわね」


 高麗人参が赤い布の上で頷く。


「品格です」


 パクチー汁が椀の中で揺れた。


『お前は黙って半滴管理』


 市場が笑った。


      ◇


 第三の教え。


 子どもに説明できること。


 ここでウリ坊が呼ばれた。


 反則の気配。


 カリフラワー先輩が白く問いかける。


「指定野菜とは?」


 そう言っている顔だった。


 ウリ坊は胸を張った。


「よく見るやつ!」


 市場が静まった。


 めちゃくちゃ本質だった。


 ブロッコリーが頷く。


「そう。難しい制度の話より先に、食卓でよく見る、買いやすい、使いやすい、知っている。それが大事だね」


 俺は筆談板を握った。


『俺、よく見るやつではないです』


「だから、道の途中だね」


 ブロッコリーが言った。


 カリフラワー先輩は白く札を出した。


 まず、怖くないやつになりなさい。


 重い。


 でも、分かる。


      ◇


 修行は続いた。


 まず、棚修行。


 俺は木箱の中で、怖くない角度を探した。


 正面。


 濃い。


 斜め。


 まだ濃い。


 花冠あり。


 少しやさしい。


 ミラーボールあり。


 ラスボス。


『照明を止めてください』


 カリフラワー先輩は聞かなかった。


 次に、説明修行。


 ウリ坊が質問する。


「一番根、なに?」


『マンドラゴラです』


「どうするの?」


『急に抜かない。声をかける。怖がっていたら待つ』


「食べるの?」


『下処理すれば食べられます』


「おいしい?」


 ここで止まった。


 難しい。


 俺はおいしいのか。


 料理次第だ。


 カレーに沈む時もある。


 肉の記憶に入り込む時もある。


 ソースになる時もある。


 俺は筆談板に書いた。


『工夫すると、いけます』


 ウリ坊が笑った。


「じゃあ、工夫する!」


 反則。


 師匠の教えより効く。


      ◇


 最後の修行は、師弟問答だった。


 カリフラワー先輩が白い札を置く。


 なぜ指定野菜になりたいのですか。


 急に核心。


 俺は筆談板を握った。


 最初は、単純だった。


 カリフラワーにできたんだから、俺にもできるはず。


 見返したかった。


 食卓に立ちたかった。


 怖がられず、残されず、名前を呼ばれたかった。


 でも今は、少し違う。


 俺は筆談板にゆっくり書いた。


『ちゃんと扱われたいからです』


 市場が静かになった。


『怖がられず、雑にされず、説明されて、選ばれたいです』


 カリフラワー先輩は白く読んだ。


『食べられるなら、理由を知っていてほしいです』


 ウリ坊が、じっと見ている。


『それで、また食べたいと言われたら、たぶん嬉しいです』


 書いてから、少し恥ずかしくなった。


 濃い顔で真面目なことを書くと、妙に照れる。


 カリフラワー先輩は、しばらく黙っていた。


 そして、白い札を出した。


 それなら、道は続いています。


 短い。


 でも、刺さった。


      ◇


 そこで終われば、いい話だった。


 だが、道場の奥からロマネスコ先輩が出てきた。


 螺旋を震わせている。


「師は白。弟子は濃。棚は舞台。道は売価の先にある」


『最後だけ急に現実』


 俺は筆談板を出した。


 さらに高麗人参が立ち上がる。


「指定されるには、格式も必要です」


 くわい先輩も芽を揺らす。


「芽が出ていることも大切です」


 アボカド博士が黒板を出す。


「普及率の推移を」


『今日は道場です。講義を増やすな』


 パクチー汁が光った。


『お前は光るな』


 市場中が笑った。


 白き師弟問答は、一瞬でいつもの混沌に戻った。


      ◇


 カリフラワー先輩は、最後に卒業試験を出した。


 白い皿。


 その上に、カリフラワーライス。


 横に、小さなマンドラゴラの香味そぼろ。


 肉はない。


 タレも強くない。


 パクチー汁もない。


 ただ、白い余白と、濃い根の味。


 俺は驚いた。


『今日は肉もカレーも使わないのですか』


 カリフラワー先輩は白く微笑む。


 逃げずに立ちなさい。


 重い。


 ウリ坊が試食した。


 まず、カリフラワーライス。


「白い。軽い」


 次に、マンドラゴラの香味そぼろ。


「一番根、いる」


 沈黙。


 もう一口。


「白いところと一緒だと、ちょうどいい」


 カリフラワー先輩が、少しだけ白さをやわらげた。


 俺は筆談板に書いた。


『師匠』


 自分で書いて、少し驚いた。


 カリフラワー先輩は白くこちらを見る。


『ありがとうございました』


 白き師匠は、札を出した。


 濃い弟子よ、精進なさい。


 弟子認定された。


 濃い弟子。


 嫌なような。


 少し嬉しいような。


      ◇


 夕方。


 道場は片付けられた。


 ござは巻かれた。


 白い皿も洗われた。


 ただし、ミラーボールだけは残った。


『なぜ』


 俺は筆談板を掲げた。


 カリフラワー先輩は白く微笑んだ。


 師の背中です。


『背中が回転している』


 ウリ坊が笑った。


「一番根、弟子!」


『濃い弟子です』


「カリフラワー先輩、師匠!」


 カリフラワー先輩が白く頷いた。


 ブロッコリーが健康そうに笑う。


「よかったね。指定野菜への道に、師匠ができた」


 俺は、白い先輩を見た。


 遠い。


 でも、前より少しだけ近い。


 追いかける相手ではなく、道を聞ける相手になった気がした。


      ◇


 その日の記録には、こう書かれた。


 カリフラワー道場、開設。

 マンドラゴラ一番根、棚・説明・食卓での立ち方を学ぶ。

 指定野菜への動機を再確認。

 カリフラワー先輩、白き師匠として機能。

 マンドラゴラ一番根、濃い弟子に認定。

 パクチー汁、また光る。理由不明。


 最後。


 いい加減にしろ。


 夜。


 W.H.O.ポスターの横に、新しい札が貼られた。


 指定野菜への道。

 よく見られ、よく使われ、ちゃんと説明できること。

 白き師匠、濃き弟子。


 その下に、ウリ坊が小さく書き足した。


 一番根、弟子になった。

 カリフラワー先輩、ししょう。

 ミラーボール、まだある。


 最後。


 本当に、まだある。


 俺は筆談板を掲げた。


『師匠、片付けを』


 カリフラワー先輩は、ミラーボールの下で白く微笑んだ。


 聞く気がない。


 指定野菜への道は遠い。


 師匠は白く、弟子は濃い。


 そして照明は過剰。


 根菜だけど、そう思った。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ