第27話 持続的可能青果部門 豆苗とパイナップル 自己再生できるやつら、だいたい自己主張が強い
市場に、新しい部署ができた。
名前は、
持続的可能青果部門
である。
俺は筆談板を握った。
『持続可能では?』
「正式名称が、持続的可能青果部門ですわ」
エシャロットちゃんが言った。
『言葉として少し気持ち悪いです』
「そこも含めて役所っぽいわね」
野蒜ちゃんが言った。
役所っぽい。
それは、かなり分かる。
掲示板には、やたら真面目な札が貼られていた。
捨てない。
育て直す。
食べきる。
できれば説明する。
無理なら反省する。
最後だけ急に人間味がある。
そして、その札の前で胸を張っていたのが、豆苗だった。
おかわり棚の主。
一度切られても、また伸びる者。
再生野菜勢の筆頭。
「ついに、私の時代ですね」
そう言っている顔だった。
俺は筆談板に書いた。
『確かに豆苗は持続的可能っぽいですね』
豆苗が、さわさわ揺れた。
「二回目がありますので」
強い。
二回目がある野菜は、言葉に余裕がある。
そこへ、南国みたいな匂いがした。
甘い。
明るい。
やたら陽気。
市場の入口から、葉っぱの冠をかぶった黄色い大物がやってきた。
パイナップルだった。
堂々としている。
刺々しい皮。
派手な王冠。
甘そうな胴体。
南の島から来た王族みたいな存在感。
そして胸には札。
パイナップル卿
卿。
高麗人参が、遠くで少し反応した。
ハイソ枠を脅かされた顔である。
「クラウンを挿せば、また育つ可能性があるのだよ」
パイナップル卿が言った。
声は聞こえない。
でも、絶対そう言っている顔だった。
俺は筆談板に書いた。
『あなた、青果部門では果物側では?』
「青果ですから」
エシャロットちゃんが言った。
便利だな、青果。
◇
「今日の課題は決まったね」
ブロッコリーが現れた。
健康そう。
そして、いつもより少し環境意識が高そうな顔をしている。
「今日は、持続的可能青果部門の実演だ」
『具体的には』
「廃棄を減らし、再利用を考え、子どもにも分かる形で伝える」
まとも。
かなりまとも。
ただし、豆苗とパイナップルが並んでいる時点で、まともに終わる気がしない。
「条件は三つ」
来た。
「豆苗の再生力を活かすこと」
はい。
「パイナップルのクラウンを捨てずに使うこと」
はい。
「マンドラゴラ君が、ただ見ているだけにならないこと」
俺に流れ弾が来た。
俺は筆談板に書いた。
『今日は俺、何枠ですか』
「説明される側であり、説明する側だね」
また社会科だ。
最近、指定野菜への道が完全に家庭科と社会科を往復している。
◇
まず豆苗が実演した。
切る。
使う。
根元を残す。
水を替える。
日当たりを考える。
伸びる。
「これが、おかわりです」
豆苗が誇らしげに揺れた。
子どもたちが目を輝かせる。
「もう一回出るの?」
「すごい!」
「豆苗、二回目ある!」
ウリ坊も感心している。
「おれも二回目ほしい」
何の二回目だ。
おやつか。
昼寝か。
豆苗は完全に得意げだった。
だが、ブロッコリーが言う。
「ただし、水は替えよう。ずっと置けばいいわけではない。様子を見て、早めに食べること」
豆苗が少ししゅんとした。
いいことだけではない。
管理が必要。
持続的可能青果部門、意外と厳しい。
次に、パイナップル卿。
切る。
果肉は食べる。
皮は香りづけや堆肥へ。
クラウンは水につけるか、土に挿す。
かなり時間はかかる。
すぐには実らない。
むしろ、観葉植物として楽しむ方が現実的。
子どもたちが、少し首を傾げた。
「豆苗より遅い」
「すぐ食べられない」
「でも葉っぱかっこいい」
パイナップル卿のクラウンが、誇らしげにそよいだ。
「王冠とは、時間をかけて育つもの」
そう言っている顔だった。
高麗人参が、さらに悔しそうにしている。
ハイソ勝負になっている。
◇
問題は、俺だった。
豆苗は二回目がある。
パイナップルは王冠を育てられる。
俺は?
マンドラゴラ。
急に抜くと危ない。
怖がらせるとまずい。
可食部はある。
葉っぱもある。
濃い顔もある。
だが、再生と言われると微妙だ。
俺は筆談板に書いた。
『俺は持続的可能ですか』
市場が静かになった。
いや、そんな深刻な空気になるな。
野蒜ちゃんが言った。
「一番根は、再生っていうより、扱い方を継ぐ側じゃない?」
扱い方を継ぐ。
エシャロットちゃんも頷いた。
「急に抜かない。怖がらせない。声をかける。食べきる。説明を読む。そういう知識が続いていくことも、持続的可能ですわ」
なるほど。
豆苗はもう一度伸びる。
パイナップルは王冠を育てる。
俺は、扱い方が育つ。
ちょっといい話みたいで悔しい。
ブロッコリーが頷いた。
「資源だけではなく、知識も循環する。これが今日の要点だね」
やっぱり社会科だ。
◇
その時、事件が起きた。
子どもの一人が、パイナップルのクラウンを持ち上げて言った。
「これ、マンドラゴラに似てる!」
市場が止まった。
俺はパイナップル卿を見た。
葉っぱの王冠。
刺々しい外見。
濃い存在感。
確かに、少し似ている。
パイナップル卿も俺を見た。
「君も、王冠持ちか」
そう言っている顔だった。
俺は筆談板に書いた。
『俺のは葉です』
「クラウンでは?」
『葉です』
「王冠では?」
『葉です』
ウリ坊が楽しそうに言った。
「一番根も王様?」
『違います』
パイナップル卿が、堂々とした顔で続ける。
「では、君は根の王子だ」
『違います』
高麗人参が、赤い布の上でむっとした。
高級根菜として、王族設定を奪われた気配を感じたらしい。
面倒くさい。
ハイソと南国王族と濃い顔根菜を同じ売り場に並べるな。
◇
結局、持続的可能青果部門の本日の展示は、三つになった。
豆苗のおかわり実験
水を替えて、もう一度伸びるところを見る。
パイナップル卿のクラウン栽培
すぐには食べられないけど、葉を育てて楽しむ。
マンドラゴラとの約束継承
急に抜かない。声をかける。怖がらせない。読んでから扱う。
地味。
だが、悪くない。
子どもたちはカードを集めた。
豆苗カード。
パイナップルクラウンカード。
マンドラゴラ約束カード。
一番人気は、なぜかパイナップルクラウンカードだった。
絵面が強い。
南国はずるい。
俺は筆談板に書いた。
『豆苗さん、負けていますよ』
豆苗が震えた。
「速さでは勝っています」
確かに。
豆苗はすぐ伸びる。
パイナップルは気長。
どちらも持続的可能。
速度が違うだけだ。
パイナップル卿が言った。
「続くとは、早いことではない。長いことだ」
そう言っている顔だった。
豆苗が言った。
「続くとは、また食べられることです」
そう言っている顔だった。
俺は筆談板に書いた。
『続くとは、忘れずに扱ってもらえることです』
市場が少し静かになった。
ウリ坊が、俺の札を見て笑った。
「一番根、いいこと言った!」
反則。
本日最大。
◇
夕方。
持続的可能青果部門の掲示板に、新しい標語が貼られた。
すぐ伸びるもの。
ゆっくり育つもの。
約束として残るもの。
青果の続き方は、一つじゃない。
まとも。
かなりまとも。
豆苗は誇らしげに揺れた。
パイナップル卿は王冠を光らせた。
高麗人参は、対抗して自分のしおりに金の紐をつけ始めた。
やめろ。
持続的可能性の話をしている時に、装飾を増やすな。
ブロッコリーが言った。
「今日の課題は合格だね」
俺は筆談板に書いた。
『俺は結局、売れましたか』
「売上は普通だね」
普通。
現実。
「でも、扱い方カードはよく持ち帰られた。次につながるよ」
次。
持続的可能とは、そういうことかもしれない。
今日すぐ売れる。
明日また伸びる。
一年後に王冠が育つ。
いつか、子どもが俺を急に抜かないでいてくれる。
全部、続いている。
その夜。
ホネ丸の記録には、こう書かれた。
持続的可能青果部門、初日終了。
豆苗、再生性高。
パイナップル、王冠性高。
マンドラゴラ、約束継承性高。
高麗人参、対抗して装飾性上昇。
最後。
高麗人参が静かに目を逸らした。
俺は筆談板に書いた。
『ハイソも持続しますね』
高麗人参は、すました顔で根を揺らした。
「格式は、一日にしてならず」
そう言っている顔だった。
腹立つ。
でも、少しだけ納得した。
豆苗は伸びる。
パイナップルは育つ。
高麗人参はハイソを続ける。
そして俺は、濃い顔のまま約束を残す。
持続的可能青果部門。
名前からして怪しかったが、案外悪くない一日だった。
根菜だけど、そう思えた。




