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マンドラゴラは指定野菜になりたい 〜カリフラワーにできたんだから俺にもできるはず。なお、ライバルは高麗人参です。〜  作者: ボルシチ食いたい
第二章

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14/41

第14話 連休明けのGW最終日曜は、突発カレーイベント! ゴーヤとマンドラゴラとトマトのカレーを振る舞います。タケノコもいるよ! 〜濃い顔が見てるW・H・O!〜

 連休明けの市場は、妙にけだるい。


 収穫祭の熱気はもうない。

 試験流通の緊張感も、少しだけ落ち着いた。

 客足も、なんとなく鈍い。


 そして、売り場の端には売れ残った野菜たちがいた。


 ゴーヤ。


 濃い緑。

 ぼこぼこ。

 見るからに苦い。

 顔はないのに、なぜか不機嫌そうに見える。


「苦味なら、こちらの領分だが?」


 声は聞こえない。


 でも、絶対そう言っている顔だった。


 俺は筆談板に書いた。


『苦味で張り合う気ですか』


 ゴーヤの山が、ざわついた。


 読まれた?


 いや、まさか。


 野菜だぞ。


 俺も野菜だけど。


「というわけで、突発カレーイベントよ」


 野蒜ちゃんが言った。


 説明が短い。


 いつも短い。


 俺は筆談板に書いた。


『どういうわけですか』


「連休明けで客足が鈍い。ゴーヤが残ってる。トマトは熟しすぎ寸前。タケノコも今日中に使いたい。あんたは試験流通の宣伝が必要」


 なるほど。


 全部まとめて鍋に放り込むわけだ。


 カレーという名の問題解決。


「本日のメニューは、ゴーヤとマンドラゴラとトマトのカレーですわ」


 エシャロットちゃんが、白いエプロン姿で優雅に宣言した。


「タケノコもいるよ!」


 ウリ坊が両手を挙げる。


 かわいい。


 だが情報量が多い。


 ゴーヤ。

 マンドラゴラ。

 トマト。

 タケノコ。

 カレー。


 もう食材会議である。


 トマトは堂々としていた。

 赤く、つやつやで、旨味に満ちている。


「カレーに入れば、大体勝てる」


 そう言っている顔だった。


 強い。


 赤い王者。


 タケノコは木箱の中から穂先を出している。


「若さは食感」


 そう言っている顔だった。


 腹立つな。


 若いからって調子に乗るな。


 俺もまだ指定野菜候補としては若いぞ。


「一番根は何担当?」


 ウリ坊が聞いた。


 俺は少し期待した。


 滋味。

 深み。

 薬効。

 まとめ役。


 そのあたりだろう。


「濃い顔担当」


 野蒜ちゃんが即答した。


 違う。


 食材としての役割を聞いている。


「滋味担当ですわ」


 エシャロットちゃんが言い直してくれた。


 ありがとう。


 でも、滋味はだいたい「美味い」と断言しにくい時の言葉である。


 俺はもう知っている。


      ◇


 イベント会場は、市場中央の空きスペースになった。


 大鍋。

 薪。

 長机。

 試食用の小椀。

 昼咲月見草の小さな花箱。


 そして、俺。


 花冠つきである。


 なぜだ。


 カレーイベントに花冠は必要ないだろう。


「写真映えですわ」


 エシャロットちゃんが言った。


 根菜に写真映えを求めるな。


 だが、試験流通で学んだ。


 見た目は大事。


 怖さをどう受け取ってもらうか。

 濃い顔をどう包むか。


 昼咲月見草は、俺の濃さをほんの少しだけ和らげる。


 ほんの少しだけ。


 濃い顔は消えない。


 市場入口には看板が立てられた。


 突発カレー振る舞いイベント

 ゴーヤ×マンドラゴラ×トマト

 タケノコもいるよ!

 濃い顔が見てる W.H.O.


 俺は固まった。


『W.H.O.って何ですか』


「Watching Hot O-nabeですわ」


 見るな。


 熱いお鍋を。


「または、Wild Healthful Oishii」


 無理がある。


「あるいは、What? Hot? Oishii!」


 もう何でもありだな。


 看板の横には、俺の似顔絵。


 腕組み。

 花冠。

 濃い顔。

 鍋を見守る姿。


 嫌だ。


 でも少し似ている。


 悔しい。


「一番根、かっこいい!」


 ウリ坊が言った。


 反則。


 今日も反則。


      


 調理が始まった。


 まずはゴーヤ。


 縦に割る。

 ワタを取る。

 薄切り。

 塩もみ。


 ゴーヤは不服そうだった。


「苦味を抜くとは、誇りを削る行為」


 そう言っている顔だった。


「苦すぎると子どもが食べないでしょ」


 野蒜ちゃんが容赦なく言った。


 正論。


 ゴーヤが黙った。


 次にマンドラゴラ。


 温める。

 声をかける。

 柔らかい布で支える。

 怖がらせない。

 刻む。


 間引き根たちは、今日も親指を立てていた。


 カレーになる覚悟。


 重い。


 根菜の覚悟は、毎回重い。


 トマトはざく切り。


 赤い果汁がまな板に広がる。


 酸味。

 旨味。

 明るさ。


 カレーに入ったら大体なんとかしてくれそうな安心感がある。


 タケノコは薄切り。


 しゃきしゃき担当として、妙に得意げだった。


 鍋に油。


 野蒜ちゃんが香味野菜を炒める。

 エシャロットちゃんがスパイスを入れる。


 香りが立った。


 カレー。


 ずるい。


 それだけで客が振り返る。


 ゴーヤの青さ。

 マンドラゴラの土っぽさ。

 トマトの酸味。

 タケノコの若い香り。


 全部まとめて、カレーの匂いになっていく。


 料理ってすごい。


 そして少し怖い。


 俺たちの個性が、鍋の中でいい感じに丸め込まれている。


「試食ですわ」


 エシャロットちゃんが小皿によそった。


 最初に食べるのは、もちろんウリ坊だった。


 ふうふう。


 ぱく。


 沈黙。


 長い。


 長すぎる。


 俺は筆談板を握りしめた。


「……にがい」


 終わった。


 いや、まだ。


「でも、おいしい!」


 戻った。


「トマトがいる! タケノコしゃきしゃき! マンドラゴラも……いる!」


 いる。


 味の評価として、いる。


 だが、悪くない。


 主役ではない。

 でも、いないと足りない。


 ゴーヤの苦味を受け止める。

 トマトの酸味を軽くしすぎない。

 タケノコの食感だけを浮かせない。

 底に土の深みを足す。


 俺は筆談板に書いた。


『いる根菜』


 野蒜ちゃんが吹き出した。


「いいじゃん、それ」


 エシャロットちゃんが即座に札を書く。


 いる根菜カレー

 ゴーヤ・マンドラゴラ・トマト

 タケノコもいるよ!


 採用された。


 いる根菜。


 少し変だが、悪くない。


      


 振る舞いが始まると、客はすぐに集まった。


「何のカレー?」

「ゴーヤ?」

「マンドラゴラ入り?」

「タケノコもいるの?」

「濃い顔が見てるって何?」


 最後の人、俺を見るな。


 俺は筆談板を掲げた。


『辛さ控えめです』


 続けてもう一枚。


『怖くありません』


 客が笑った。


 最近、分かってきた。


 笑えば、少し近づいてもらえる。


 怖がられる前に、笑ってもらう。


 これがたぶん、食卓への入口だ。


 高麗人参が現れた。


 赤い布に包まれて、やけに高級そうな雰囲気を出している。


「薬膳カレーなら、我々を呼ぶべきでは?」


 そう言っている顔だった。


 俺は筆談板に書いた。


『今日は突発イベントなので』


 高麗人参の根が、ぴくりと震えた。


 突発に弱い高級根菜。


 よし。


 カリフラワー先輩も来た。


 白い。


 カレーの湯気の中でも白い。


「攻めるわね」


 白い先輩が笑った。


 攻めている自覚はある。


 ブロッコリーも当然いた。


 健康そうな顔で、看板のW.H.O.を眺めている。


「食材の欠点を、企画として前面に出している。悪くないね」


 褒めるな。


 怖い。


「苦味、滋味、酸味、食感。連休明けにちょうどいい刺激だ。家庭向きかもしれない」


 家庭向き。


 その言葉に、俺の根が震えた。


 客も言い始めた。


「これ、家でもできるかも」

「ゴーヤ余ったらカレーにすればいいのか」

「トマト多めなら子どももいける」

「マンドラゴラ、意外と隠し味になるね」

「いる根菜ってそういうことか」


 家でもできる。


 隠し味。


 いる根菜。


 強い。


 指定野菜になるには、主役だけでは足りない。


 日常の料理に、なんとなく入ること。

 冷蔵庫の半端野菜と一緒に使えること。

 家で再現されること。


 それが大事なのかもしれない。


 俺は主役じゃなくてもいい。


 鍋の底にいて、全体をまとめる根菜でもいい。


 ……いや、カリフラワーに成り代わる夢は捨てていないけど。


 そこは別腹である。


      ◇


 大鍋は夕方前に空になった。


 完売ではない。


 振る舞いだから、完配。


 いや、完鍋。


 どちらでもいい。


 鍋は空だった。


 子どもたちは「苦かった」と言いながら、少し誇らしげだった。


 大人たちは「家でもやるか」と言った。


 ゴーヤは不服そうだったが、売れ残りの山はだいぶ減った。


 トマトは王者の顔。

 タケノコは得意げ。

 高麗人参は悔しそう。

 ブロッコリーは健康そう。

 カリフラワー先輩は白く微笑んでいる。


 そして俺は、昼咲月見草の花冠をつけたまま、空の鍋の前で腕を組んでいた。


 濃い顔で。


 見守っていた。


 W.H.O.である。


 Watching Hot O-nabe。


 やっぱり意味は分からない。


 その日の片付け中。


 ホネ丸が、からん、からんと骨みたいな音を立てて現れた。


「市場評議会から通達だ」


 通達。


 嫌な予感がした。


 ホネ丸は一枚の紙を読み上げた。


「本日の突発イベントにおいて、マンドラゴラは家庭料理への応用性、苦味野菜との相性、客寄せ効果、濃い顔による鍋監視性能を示した」


 待て。


 最後。


 鍋監視性能とは。


「よって、試験流通広報用の見守り役に任命する」


 俺は固まった。


 ウリ坊が跳ねた。


「一番根、すごい!」


 すごいのか。


 これはすごいのか。


 エシャロットちゃんが、すでに新しい紙を広げていた。


 嫌な予感しかしない。


 翌朝。


 市場中に、俺の濃い顔のポスターが貼られた。


 花冠つき。


 腕組み。


 鍋を見ている。


 文字はこうだ。


 W.H.O.認定

 マンドラゴラが見ています

 野菜を残さず、おいしく食べましょう


 違う。


 俺は指定野菜になりたいのであって、食育ポスターになりたいわけではない。


 だが、子どもたちは笑った。


 客は足を止めた。


 ゴーヤは昨日より売れた。


 トマトも売れた。


 タケノコも売れた。


 そしてマンドラゴラも、少し売れた。


 高麗人参が、今週一番悔しそうにこちらを見ている。


 俺は筆談板に、今日の結論を書いた。


『指定野菜への道、たまに職種が増える』


 ウリ坊がポスターの前で胸を張った。


「一番根、見守り根菜!」


 やめろ。


 でも、少しだけ笑ってしまった。


 根菜だけど。

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