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34 制服に身を包み




 皺ひとつない白のスクールシャツに身を包み、チェック柄のスカートはファスナーを閉めてはフックで留め、赤の蝶リボンを身に着ける。紺色のクルーソックスを慎重に履けば、ぎこちなくもブレザーに腕を通す。少し緊張しながらも、鏡に映る自身を見回すことになる。


 宮代そよい、十五歳。初めて、高校生となる制服に身を包んでと、落ち着かない様子で佇んでいた。


 制服を受け取りに行った昨日、部屋にて体操服やジャージなどと確認していれば、ハンガーで立てかけたブレザーにスカートを遠くから眺めてしまう。目にしていた制服が自身の手元に届いている実感に浸れば、少しそわそわしながら就寝していた。


 逃げることができたなら、どこでもよかった。


 そう選択することになった公立校の制服を今のような気持ちで、その時見ることはなかった。今のように身を包んでも、視線を俯かせたまま、どうでもいいと興味を示さなかったかもしれない。


 だけど、少しの感情の変化が前向きでいられている。鏡で見ようとも、浮かれているような自身の姿に、嫌悪感を抱くことは少しで収まっていた。


 本日、通う公立校の制服を着ているということは、入学式が間近であるということ。花びら舞う桜は満開となっていれば写真の納め時。まるで自分のことのようにウキウキする未波の姿に口角が上がりそうになれば、家の前で写真を撮ることになっていた。


 制服は大丈夫。髪も問題ない。そう玄関に訪れると、二階へと上がる階段から綾人が顔を出す。

 同じく通う高校の制服に身を包んでいれば、少しネクタイを緩めていた。寒がりらしい彼は、手にはグレーのセーターを持っている。


「……」


 互いの制服を見合う形となれば、彼から視線を逸らしてしまう。


 どこか新鮮に感じてしまうのは、なぜだろうか。少しの間、見続けてしまいそうだったそよいは、彼の言葉にぎこちない反応をしてしまう。


「なんかそわそわしない?」

「う、うん……」

「制服、似合ってますよ」

「……どうして平気で言えるの」

「いや、平気で言ってるつもりないんだけど」


 そう言いながら、綾人は苦笑する姿を見せている。


 嘘つき、そう思いながらも、そよいは今の気持ちを紛らわすように、彼の緩めたネクタイへと視線を移す。


「ネクタイ、緩めてる」

「首元閉まってきつい」

「写真撮るときぐらいちゃんとしないと。上のボタン、閉めて」

「は、はい……」


 半ば呆れるかのようにそよいは綾人の前へと歩み寄ると、緩めたネクタイを手に取り慣れた手つきで調節していく。


 一気に締め付けるようなことはない。昔を思い出すかのように整えることができれば、手を離し、一歩引いて問題ないかと確認する。


「はい、大丈夫」

「……なんか、やりなれてない?」

「小さいころ、お父さんのしてあげてたから」

「俺、お父さんではないんだけど」

「ちゃんとしてないのが悪い」

「じゃあ、おかんか」

「……怒るよ……?」

「ご、ごめんなさい」


 目を細めることになったそよいは、誰がおかんかと思い、遠慮なく口にしていた。


 まだまだ十代で、ようやく高校生なる年齢。そう思われてしまうのは嫌である。


 即座に謝り、目も口も棒線を引いたように反省する彼の表情を見れば、肩を落としては許すことに。ちょっと睨みすぎたかと思いもした。


 少しすれば、彩乃や歩奈も階段から降りてくれば、彩乃に関してはなぜか制服姿で表れていた。紺色のセーラー服に身を包む彼女は髪も整え、薄く化粧を施しているよう。


 中学でも指摘されない程度にお洒落や匂いに気を遣うのは、どこも同じなのかなと振り返る。彩乃からは石鹸の良い香りが漂っていた。


「そよいさん、超かわいいです……!」

「ありがとう。彩乃ちゃんも香水? 石鹸の香りもいいよ」

「ほんとですか? これ、今日初めてつけてみたんですよ。そよいさんもつけてみます?」

「お願いしようかな」


 頼んでみると、彩乃は香水を手に持っていたので手首につけてもらうことに。


 すると、末っ子の歩奈は羨ましく思ったのか、声を上げる。


「そよいお姉ちゃんだけずるい! 歩奈もやって!」

「わかったわかった。……お兄ちゃんには貸さないから」

「何も言ってないだろうが」


 こちらのやり取りを見ていた綾人に、彩乃は冷たく当たる。

 クスッと笑ってしまいそうになった。


「はいはい、四人とも靴履いて。お祖父ちゃんとお祖母ちゃん、外で待たせてるから」


 先ほどまで洗面所に居た未波が、玄関へと顔を出せば、みんなで外に出ることに。


 靴ずれを危惧したローファーは、念のためにと踵用の保護パッドを付けている。

 革靴は馴染むまで少し辛くなる、そう茅島の叔父さんによる計らいによって買ってもらっていては、綾人も同様に付けることになっていた。


 外へと出れば、春風が頬撫でる。見慣れたはずの景色は、いつもより色鮮やかに見えていては眩しくて、雲一つない青空に目を奪われる。

 晴れているような気持ちを胸に抱えていれば、綾人に声を掛けられ、家の前に立つことに。


 写真撮影は少し落ち着かなかった。


 まずはひとりでと、そよいは立っていれば、茅島家に三原家と視線を集めることになってしまう。自身の撮影が終われば綾人も似たようなもの。少し顔が硬い彼を見れば面白くはあったが、自身もそのような表情だったのかと、居たたまれない気持ちにもなる。


 彼も終えると、今度は人を入れ替えて写真を撮ることに。多少は疲れを感じることになれば、綾人はいつ終わるのかと表情に出ていた。


「そよいちゃん、もっと笑顔になれる?」


 スマホで撮影する未波から言われてしまう。

 どうしようか、そう心臓が締め付けられる。


 頑張ってみようとするも、少し引きつってしまい、不自然な表情が作られそうになる。それが今までの話であれば、今見せようとも顔が強張る感覚を味わい、気持ち悪いと暗い気持ちになってしまう。そうなれば、二度と作れないだろう。


 しかし、気にすることはないと言わんばかりに、隣に立っている綾人が口にした。


「笑ってなくてもいいだろうが」

「あんたはその怖い顔つきやめなさい」


 母親に向かって悪態吐くその姿は本心でもあるだろう。そよいから見ても少し怖い顔つきで、声音からも毛嫌いするようなものであった。


 そんな彼には、ありがとう、と口には出せない状況であった。

 それでも、そよいは一度、心の中で伝えることに。


「彩乃も歩奈も並びなさい。ほら、未波も」


 一通り撮り終えることになると、最後は家族でといったところ。茅島の叔母さんが声を掛ければ、三原家が集まるのでそよいは外から見守ることにする。


「宮代さん、ここに居なよ」


 綾人が、どうして離れるの?と目でも言っていれば、寂しそうに思えた声音にそよいは振り返る。


 邪魔するわけにはいかないし。そう口にしようとするも、


「はい、並んで並んでー」


 未波に背中を押されてしまい。混ざる形となってしまう。


 元の位置に戻ってしまえば離れることはできず、その場の空気に呑まれてしまう。


 視線が合った綾人は、柔らかい笑みを見せていた。


「ふたりがそっち行ったらバランス悪いだろ」

「そんなことしらないし」

「歩奈、お兄ちゃんのほうに来てくれるか?」

「いやだ」

「お母さんが隣ですよ~」

「くんな──たっ!?」


 そよいにとって大人数となって写真を撮ることになれば、なぜか並びから中央に立つことに。

 三原家の会話を他所に、逃げることができなくなってしまえば、囲まれるような立場に身を竦めてしまう。


「みんな、お祖父ちゃんのほうを見て」


 茅島の叔母さんが明るい声音で言うと、茅島の叔父さんが手に持つデジタルカメラによって、シャッターを切っていく。


 少しの間、息を止めるようなことになってしまえば、終わり際には大きく息を吐いていた。


 見せてもらった写真は、ガチガチに緊張していた自身の表情。

 だけど、綾人も似たようなものであれば、人が集まった写真はいい絵だと遠い目をしていた。


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