31 窮地?に追われてしまい
突如として、そよいに腕を引っ張られた綾人は、何も抵抗出来ずに連れていかれる。
あくまで走ることはなく、人の行き交いも邪魔していない。
それでも、焦る気持ちが彼女からひしひしと伝わってきては、どうしたのかと困惑してしまう。
「み、宮代さん?」
名前を呼ぶも、止まってはくれない。一度エレベーターに乗ってしまえば、一階へのボタンを彼女は押した。
他の人も乗っていたので、話しかけることはできないでいる。そのため、エレベーターから降りては訊こうとした綾人。
しかし、今度は綾人自身が、そよいの腕を引いていた。
(いやいや、ここ近場のショッピングモールじゃないぞ……!)
一つの集団、男子のグループを目にした綾人は、強張った顔を見せては、すかさず彼女を連れて遠へと離れていく。
同じ中学だった同級生。特に知り合いといった程度ではあるものの、反射的に見られるわけにはと思ってしまえば、迷わずそよいの腕を引いていた。
「三原君、ちょっと止まって」
まだ人の行き交いが少ない場所にて、彼女が足を止め、何事かと綾人は振り返る。
彼女との距離が近かった。見上げる綺麗な顔を見入ってしまう。
一歩踏み出せば触れてしまうほどの距離。心臓が勢いよく跳ねるも、何も気にしていない彼女は遠慮なく背伸びをしては、さらに寄ってくる。
我に返った綾人は、近い、と視線を逸らした。
何をされるのかと、彼女へと目も向けられずにいると──ポスッと頭に乗せられる。
(ん?)
距離を取ったそよいを見ると、頭に乗ったものを確認。
それは、彼女が被っていた黒の帽子であった。
どうして腕を引っ張られたのか、状況を察していたらしい。深くかぶるよう仕草で伝えられると、綾人は彼女に倣った。
(頭小っさ)
彼女の被る帽子は深く被ることができるも、少し窮屈だ。
セットしていた髪は帽子に収まってしまい、髪型は崩れてしまう。
そんなことよりも、自分に被らせていいのかと、複雑な気持ちが湧いてくる。異性の帽子を被っている綾人の表情は、どぎまぎしている状態であった。
再び彼女に腕を引っ張られた綾人は、少し隠れることができそうな、お手洗いの通路へと連れていかれると、一度端によっては一息つけることに。
「ごめん、急に腕掴んで」
小さく息を吐いていたそよいに謝れば、彼女も同じであった。
「私もごめん。……ここ、そういう場所? 知り合い多いの?」
「いや、全くの偶然。近くだったら買い物に付いてきてないから」
そう綾人が言い切る理由。それは、このショッピングモールが通っていた中学校や同級生たちの家の近くに、建っているわけではないから。
交通機関を利用すれば来ることは可能だが、一時間前後は掛かるだろう。
だけど、大型ショッピングモール。お店の数が二百を優に超えているこの場所は、そよいの買い物にぴったりであると同時、知り合いに出会う確率も、他と比べて上がっているのかもしれない。
しかし、普通その日が被るかと、綾人は思う次第であった。
「宮代さんも知り合いいたの?」
逃げることになった発端は、そよいに連れていかれたため。
彼女も知り合いがいたから逃げたのかと思うも、首を横に振っていた。
「私じゃない、三原君の知り合いがいた」
「俺の? だ、誰?」
「あの……長髪気味な人。ちょっと怖そうというか、近寄りがたいというか」
そよいの言葉から、綾人は幼馴染である内山元孝の姿を思い浮かべた。
「元のこと? いや、そもそもなんで知ってるの」
「合否の発表日、三原君と話しているの見てたから」
どうしてと、聞くことができると納得はする。
ただし、見られていたのかと気まずさを覚えた。そよいが合格と知った時、心の底から喜んでいたような……。
そのことはさておきと、綾人はスマホを取り出した。
「彩乃にメッセージだけ送っとく、あいつなら察してくれるから」
「お、お願いします」
頷くそよいを見れば端的に伝えておく。元孝がいるから、ふたりして離れたと。
すると、やはり察しのいい妹であり『だろうと思った』と、あっという間に返信が来ては礼を言う。
アイス奢れ。それは結果次第であるが……内山家も家族で来ていると彩乃から知れた。
同じ高校に通うとはいえ、身内に知られることはできたら避けたい気持ち。親戚程度で話すことはできるも、相談した内容を知られているので、余計な視線を受けることになってしまう。
それは、自身で罠を張ったようなもの。先を考えなかった綾人の失態であれば、相談しないほうが良かったのかと、今になって後悔が押し寄せる。
「ご、ごめんなさい」
「すいません」
一度後ろを振り返り、知り合いがいないかと警戒すると、女性とぶつかってしまう。
相手側が先に謝れば、綾人もよそ見をしていたので軽く会釈した。
こういうとき、互いに謝り、トラブルまで発展しないのは助かること。
よかった、そう安心したのも束の間、ぶつかった女性と互いに顔を見合わせれば、綾人は悟ったような表情へと変わっていた。
「あっ、綾人」
「あれ、三原だ。やっ──ほー?」
ぶつかった女性は、もうひとりの幼馴染ゆえに名前で呼ばれていた。
何年ぶりだと思う反面、目の前の女子ふたりを見れば、こう思う。
(お前らかよ……)
それはそよいにも伝えていた人物。
同じ中学であった同級生──日暮結望と秋原瑞季を見ての感想であった。




