29 着せ替えしてくれる兄妹
雑貨屋に一度寄って用事を済ませると、今となっては洋服を見ることに。
インナーに靴下はあとで買ってもらえる、ということなので、一度歩奈の服も見たいがため、未波と歩奈、綾人と彩乃で分かれてお店を回ることになっていた。
そよいはどちらについていくべきか。
考える間もなく、綾人が付いてくるよう言っては、彩乃によって手を引かれていた。
「そよいさん、春と夏、どっちが持ってないですか?」
肩に触れそうな距離にいる彩乃が、少し上目遣いを見せて訊いている。
「一応、着る分にはあるけど」
「じゃあ夏服見ましょうよ」
「夏服売ってるのか? 時期的にもう少し先だろ」
「でも、店舗によるんじゃない? それに夏に回すことができそうなやつ選ぼうよ。半袖が売ってないわけじゃないだろうし」
と、早速目に映るお店に三人して入っていた。
見たことあるブランドだ。そよいは店名を目にしながら思うも、このショッピングモールにあるアパレルはほとんど知っている。
好きで買い物には行かないそよいが知っているのは、歩くだけでアパレルの店舗名がいくつも目に映ってしまう街中に住んでいるから。
そこからネットサーフィンでもすれば、次々と興味が湧いてくる。その時には時間も忘れて没頭してしまうことも。
「これ、どうですか?」
「うん、可愛いね」
ハンガーラックに掛けられたトップスを見て行けば、彩乃が手に取り見せてくる。
思ったことを口にはしていたのだが、返答としては間違っていたよう。
「可愛いね、じゃなくて、そよいさんはどういった服が着たいんですか? 今そよいさんの見てるんですよ」
そよいは思考停止に陥り、反射的に口にする。
「私の買うの?」
「はい、そういう話だったと思うんですけど」
彩乃は不思議そうな顔を浮かべながら言っていては、そよいは視線を逸らす。
さらに服までも買ってもらうのか、と顔を歪めそうにはなった。ただ、未波の話からして、親がお金を渡しているのかと考えてしまえば、少しは眉を寄せてしまう。
もう、いいのに、と。
「それにお母さんに見てあげてって言われたんで、一緒に来たんですよ。話し戻しますけど、服の好みはありますか?」
少し怒っているような、そんな彩乃にはごめんとは言いたい状況であったが、訊かれた質問を先に答えることに。
「特には……ないかも。ただ、肌が出過ぎるのとか、派手な色は着るの難しいかな」
「なるほど……肌はオフショルダーとかショート丈のトップスとかですか? あ、ミニスカも絶対無理か」
「うん、そういのは無理かも」
「わかりました。じゃあ、この白のワンピースも、厳しいか……」
彩乃が手に取るは長い袖のワンピース。それも色は白、シルエットとしてはAラインのもの。着やすくはあるだろうが、そよいにとって、白のワンピースなんて眩しいものは着ることができない。
それを口にせずとも、彩乃は理解してくれてと助かれば、真剣に探してくれている。
そよいも自分で探さないといけない。任せてばかりだと、否定ばかりする自身が思い浮かんでしまっては、早速と手に取った。
黒のシャツ、それも半袖である。
シンプルなもので着てみたいと思う。今の時期に合ってはいないが、五月辺りには着ることができそうであった。
「そよいさん、このロングスカートはどうです……って、これと組み合わせてみます?」
彩乃がロングスカートを持ってきては、率直な感想を口にする。
「それ、いいかも」
「! じゃあ合わせてみます!?」
眉を寄せていた彩乃の表情が一変、ぱーっと明るくなれば、元気な声音で押し寄せてくる。気圧される形で頷くことになれば、サイズを見に行くことになる。
幸いにも、そよいに合うものがあれば、彩乃が嬉しそうに持ってくれていた。
試着したい一着ができた。
そういえば、綾人はどこに行ったのだろうか。そう周辺へと目を向けると、
「宮代さん、こういうのはどう?」
「うわ、お兄ちゃんいやらしい」
「あほか、可愛いから持って来たんだよ。それに季節的にいいだろ」
ひとり離れていた綾人は、空色のシアーニットとミント色のカーデブラウスを持って来ては見せてくれる。
彼も探してくれていたらしい。シアーニットは良いかもと思う反面、カーデブラウスは少し勇気が要ると口を結んだそよい。
一応、受け取って見ると、鏡の前に移動し合わせてみる。
サイズ感の話は別として、やはり今の見た目。帽子に眼鏡、黒のロングTシャツにデニムのボトムス、少し古い見た目となった白のスニーカー。
お洒落も気にしていない姿には、脳内を邪魔してならない。
そもそもの話、一式組み合わせるとなるとお金もかかる。二着も買うのはもってのほか。だけど、未波に言われたばかりであれば、どうしようかと頭を悩ませる。
そんな時に、綾人に訊かれては、頭の中は答えることに意識を持っていかれる。
「宮代さん、スカートじゃないボトムスは買わないの? 向こうに結構良いの揃ってるけど。そもそも生地はデニムが好きな感じ?」
「そういうわけじゃない。纏めて買ってもらうときに、デニムだけでいいやってなっちゃって。ほかは特に買わないようにしてた」
「だったら、そっちも見たいですね。んー、一旦、試着しましょうか」
彩乃がそう切り出せば、試着室へと連れていかれる。
試しで着る服は二着。自分で手に取った黒シャツと、彩乃に手渡された黒のロングスカート。綾人が持っていた空色のシアーニットに、追加で白のティアードスカートを彩乃が持って来ていた。
(スカートが二点……)
試着室に取り付けられたフックにハンガーを吊るせば、二点のスカートを見つめる。
ロングスカートは黒のデニム生地。ティアードスカートは白色。
極端となる色合いは、合わせる服にはあっているので、まずは黒シャツから試着することに。
「お兄ちゃん見て、このスカート。カーディガン合わせるのダメかな?」
「丈短いのか?」
「そう」
綾人と彩乃の話す声を耳にしながら着ることができると、締め切ったカーテンをゆっくりと開けた。
話し合っていたふたりの視線がそよいへと注がれ、突き刺さる。
あまり似合ってないだろうか。鏡で見た限りは良かったが、不安な気持ちになってしまう。
ふたりが選んでいるのは、どちらかというと背伸びをしているような服装。高校一年生となる自身が着るものかと言われたら、ちょっと……、とそよいが躊躇うものではあった。
「ちょっと失礼」
居心地が悪いと、そよいは視線を彷徨わせていると、目の前に綾人がいる。
思わず心臓が跳ね上がる距離まで近づかれていては、手を前にして縮こまってしまう。何をされるのかと思っていると、被っていた帽子は取られ、眼鏡を外されては、手渡された。
「うん。そよいさん、可愛いです……!」
「帽子とかもいいけど、そっちも可愛いよ」
好感触。彩乃は周囲の迷惑にならないような声音で褒めてくれては、綾人は一度頷いてと口にした。
そんなふたりの姿には、少し気恥ずかしくもなりながら後ろの鏡へと目を向け、改めて自分の姿を確認する。
サイズはちょうどよく、半袖の黒シャツということもあり、こちらは夏でも使いまわせそうである。たしかに、眼鏡は外したほうが良かった。
黒×黒、落ち着いた色は、そよいは大好きだ。ただ、夏となると爽やかさとはかけ離れ、暗いように見えてしまうが……別にいいやと次の服へ。
「じゃあ……って、そよいさん。そっち着れます?」
「うん、大丈夫」
一度カーテンを閉めて、二着目へ。
シアーニットを着用できる、インナーを着ていたので、問題なく試着していく。
シアーニットは、後ろの紐がリボンの形で結ばれているよう。合わせる白のティアードスカートを履けば、サイズは問題なかった。ちょうど踝付近に裾が来ていれば、これは今の時期に適していれば涼しそうな格好と、自身の姿を見回した。
ふたりにも見せると、反応は先ほど同様であった。
「なんでも着こなせそうだな」
「うん。そよいさん、背は平均より上っぽいし、足長くてスタイル良いもんね。──二着とも買っちゃいます?」
「流石にどっちかにしたいかな……」
値段を見ての感想。これぐらいするよね、と思う限りではあった。
そんなことから口にすると、綾人の言葉に乗る形に。
「だったら彩乃が選んだ黒シャツのほうでいいと思うけど。夏にも着まわせるし」
「私も、そうしようと思う」
「でも、もう一着分欲しいでしょ。そよいさん、そんなに服持ってないんだし」
「んー……だったら、ポロシャツはどう? デニム履いてるし、なんなら帽子も持って来てるから似合うと思うけど」
「おー、それいいじゃん」
「わ、わかった、一旦着替える」
「うん、慌てなくていいから」
カーテンを閉め切ろうとした際、綾人の言葉に視線を俯かせ頷いた。
ここからは、そよいは三原兄妹に再度連れられ、彼らが目指すお店へと向かう。
道中、少しだけと彩乃がほかの店舗も覗いていたりもすれば、あまり感じたことのない買い物にむず痒い気持ちになっていた。
「宮代さん、シャツインして帽子被ってみて」
「うん」
目的の店に到着し、似合うポロシャツはと綾人と彩乃が選び、鏡の前で合わせる。
試着室へと言われるがまま入ってしまえば、髪を整え、シャツの裾をズボンに入れては、鏡を見ながら帽子を被る。
そよいにとって、今の服装はかなり気に入っていた。
スカートよりも、ボトムスのほうが、気持ち的には落ち着いていられる。ポロシャツも半袖を選んでいて、涼しい格好でいられそう。
今の時期に着れるかと言われたら、これも黒のシャツと同じく、もう少し気温が上がったぐらいだろう。
夏用としてはいいかもしれない。そう鏡へと視線を移すと、そよいは思わず二度見した。
気のせいだと思う。映る顔は、少しばかり口角が上がったような気がしていた。
「すごい良いです、可愛い!」
「あ、ありがとう」
視線を元に戻すと、彩乃が手を合わせて何度も頷いては、共感してくれる。
そんななか、綾人は考えるように頭を傾げては口にした。
「今も十分だけど、せっかくならワイドパンツのほうもよさそうだけどな」
「だったら持って来ようよ。スキニーだと今時じゃないって話でしょ?」
「まぁ、そっちのほうだとラフな感じでいいなって」
「じゃあ、そっちのシルエットも見ようよ。──そよいさんなら、もっとお洒落になると思いますし!」
「それ、二着になるけど」
「いいよ、二着になっても」
ふたりの言葉には、そよい自身も感じていたこと。だけど、二着も買うのはと思った直後、未波がニコニコで帰ってきていた。
手には荷物はないよう。歩奈の服は見たけれど気に入ったものはなかったのか、こちらの様子を見に来たらしい。
先ほどの言葉が蘇れば、未波の顔がものを言っている気がした。遠慮しないで、と。
そのため、気圧されるようにそよいは、未波から視線を逸らしてしまう。
「わ、わかりました……」
「そよいちゃん、脅してはないからね? いいのが合ったなら、二着買っていいよって話だからね?」
少し苦笑いを見せた未波が視界に映る。
どう言葉にすればよいのか瞬時に頭に思い浮かばなければ、そよいは頷くことしかできないでいた。
「お母さん、ひどーい」
「脅すなよー」
こちらのやり取りを見ていた綾人と彩乃は、わかっているはずなのに、わざと母親を悪者にしてやろうと心にもないことを言っている。
言いつけられた未波は、人差し指でふたりの額を押そうとするも、避けられていた。
「母さん、宮代さんが買いたい服、それともう一着あるから」
「わかった。じゃあ、そのお店に連れて行って。そよいちゃんもそれでいい?」
「はい、お願いします」
多少ぎこちなく言えば、欲しいと思えた服は買っていただける。それは、綾人と彩乃が言っていたワイドパンツも見てと、合うものを購入してもらえた。
諦めたシアーニットにティアードスカート。こっちも良いのにと、未波が三着目の話になるも、そよいは断固として首を縦に振らないのであった。
十分すぎるし、逃すことになったあの服は、またの機会に帰ることはなさそうだが……仕方ない。春はあっという間に過ぎ、制服姿がほとんどだろうと思うことにした。
紙袋に入れてもらった商品を受け取る際には、店員にお礼を言い、未波には目を向け感謝の言葉を送る。
帰ってからでもいいと思ったが、親も絡んでいるだろうと念のため早めに送信する。
感謝の言葉は、メッセージ故に送れていた。




