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28 三原家と買い物へ




「そよいちゃん、服しまえてる?」


 晩ご飯である麻婆茄子を口にし、歩奈は辛くないのかと見ていると、隣に座る未波にそよいは声を掛けられる。


 一旦使いそうな服だけを夏も冬もと持ってきてはいる。

 とはいえ、服を多く持っていなければ、ズボンに関しては使いまわしのものばかり。この家で使わせてもらっている収納ケースだけでも、頻繁に使うものはなんとか収まっていた。


 季節ごとの服は例外ではあるが、段ボールに詰め替えればいい話ではある。


「流石に全部はあれなので、段ボールに入れてます」

「やっぱりそうね。じゃあ、明日にでも収納ケース、買いに行こっか」


 にっこりと笑う未波の突然となる言葉に、食べる手を止めた。


「え、私、三年しかいないですけど」

「いいのよ、気にしないで。それに三年しかじゃなくて、三年も、いるんだったら必要でしょ? ほかにも何かないなら、そのときに言って」

「あの、お金はないんで──」

「大丈夫」

「いえ、流石に出してもらうのは」


 親戚の家に居候させてもらえば、足りない物を買っていただく。申しわけないどころか、親にも迷惑が掛かる未波の行為には、是が非でもそよいは止めたい気持ち。

 新生活のスタートとして準備をするのは必然。それでも、ご厚意によるその提案は避けたくはあった。


 そのような気持ちではあるものの、次の未波の言葉を聞いては流されてしまう。


「そよいちゃん、安心して。ちゃんとやり取りしてのお話だから、気にする必要はないの。彩乃も土曜は部活、昼に帰ってくるでしょ?」

「うん、買い物行きたい」

「わかった。じゃあ歩奈が水泳教室あるから、迎えに行くついでにみんな車に乗ろっか」

「歩奈のお昼はどうすんの?」

「だから、お昼は外で食べよ」

「やったー!」


 彩乃の問いに答える未波。

 外でご飯を食べると聞けば、歩奈が目を輝かせていた。


「綾人も付いてきてよ」

「はいはい、荷物運びします」

「返事は──」

「返事は一回!」

「へいへい」


 母親の言葉を予想しての歩奈の言葉に、綾人は注意を受けてもなお二度口にする。

 家族ならではの会話に持ち込まれてしまえば、そよいも外で食べることに理解を示してと、次の日には出かけることとなっていた。





 土日がお休みの茅島家は、家で寛ぐとのことなので、そよいは三原家と一緒にショッピングモールへと訪れていた。


 食材の買い足しには出かけることがある。それ以外の買い物はいつぶりだろうかと振り返りながら、心には靄が掛かるのではなく、少し落ち着かないような、騒めいている感覚を味わっている。


 予定通り、彩乃が部活から帰ってきては家を出発。歩奈を迎えに行けば、少しだけ彩乃が妹の髪を手入れしてあげ、施設のレストランにて昼食を摂ることに。


 お腹を満たしたのはオムライス。

 それも茄子ときのこが入ったトマトソースのものをそよいは注文していれば、お店のものは格別である。


 特に比較したのは、ふわふわの玉子もそうだが、パラパラのケチャップライスに注目。オムライスを作る際、お米のパラパラ具合を再現してみたいと調べては作ってみるも、今食べるお店のようには上手くはいかない。食感から違っていれば、久しい外食には心も満たされていた。


 昼食を摂り終えれば、前を歩く未波についていきながら、癖になっているのか被る帽子を深くし、ずれてきた眼鏡を元に戻す。

 買うものは服を入れる収納ケースではあったのだが、様々な品物が目に映れば、自ずと訊かれてしまう。


「これは買っときなさい。ゴミ箱とかは百均とかで買うとして……服の手入れは持ってる?」

「も、持ってはないです……」

「じゃあ、これもね」

「お母さん、これ買っていい?」

「え、お菓子? ひとり一個にしてよ」


 半ば強引にとでも言えばいいだろうか。必要なものは綾人が持つ籠へと、未波は入れてく。

 特に大丈夫です、初めはそう答えていたそよいであったが、掃除用品まで買っていれば気まずい気持ちで溢れてしまう。


「買い物に来た時点で負けだから。降参しな」


 隣を歩く綾人が苦笑いを浮かべながら、察したような言葉を送ってくる。


 自身の口元からも、気まずい気持ちが顔にも出ていたのだと感じた。

 むしろ、そういった気持ちを感じたのならと、そよいは彼に言う。


「助けてくれないんだ」

「流石に必要なものは持っときなよ。不便になるし、毎回借りたりするのも気遣うでしょ」


 彼の言葉には、口を閉じざるをえない。借りることに関しては頷けるが、どこかで頑固な自分がいると、そよいは感じている。


 スリッパに折りたたみミラー。カーペットクリーナーに洋服用ブラシ。

 その他にも、購入できたらと思う物として、インナーと靴下、ボールペンやシャーペンと、高校生活に向けて必要なものを揃え切れてはいなかった。


 目まぐるしく回る頭の中は、お金のことで埋め尽くされる。最低限で暮らし、断ってきたそよいにとっては、心身共に疲弊するもの。ただ、入学費や制服代、教科書なども考えた日には、そよいの精神は持ちそうにないだろう。気にするだけ無駄である。


 未波によって会計を済ませてもらえば、収納ケースが邪魔になる。

 この状態で、ほかのお店に行くわけにはいかないので、荷物を置きに車へと一度戻ることになるのだが、


「俺持っていくから、車の鍵だけ貸して」

「お母さんも一緒に行くから」

「いいから。先に飲み物買いに行けばいいだろ」

「私もついていくし、お母さんいいよ。だから、そよいさんも先に行っててください。こっちは気にしなくていいんで」


 会計の待ち時間、歩奈が喉が乾いたと口にしたことが始まり。そのことから、綾人と彩乃だけで荷物を置きに向かうよう。


 綾人が手を出し、車の鍵を要求している。未波は少し困った表情を見せるも、背負う黒のリュックから車の鍵を取り出していた。


「わかった。一階のスーパーにいるから電話かけて。開けるとき気を付けてよ、ほかの車にぶつけないでね」

「「はーい」」

「あ、ありがとう」


 口を揃えた兄妹に言えば、綾人は頷き、彩乃が笑顔を返してくれる。

 そんなふたりの姿を見届ければ、エスカレーターにて一階へと向かうことに。


 自然と歩奈と手を繋いでいる。そよいにとっては、よくわからない状況ではあるものの、彩乃の代わりなのかなと思うだけである。


 自身はどうだったのかと振り返る。

 小学一、二年で手を繋ぐようなことはなかったはず。


 歳の離れた姉がいる関係かと思いはした。


「そよいちゃん。叔母さんのお節介だけどね」


 一階に降りては、飲料水の売り場へと来た際、振り返る未波が言った。

 それも、頭を帽子越しに手を置かれ、柔らかい眼差しを向けられる。


「まだ高校生になるばかりなんだから、お金のことは気にしなくていいの。親御さんも、そよいちゃんのために働いて、不便なく暮らしてほしいから頑張って稼いでるの。だから、ちょっとの我儘ぐらい言いなさい。欲しいものは欲しいって言いなさい。必要なものくらい、子どもが気にしなくていいの」

「……」


 未波の目を見ては、帽子の鍔に隠れるよう顔を俯かせてしまう。


「ただ、ほどほどにね。そよいちゃんのことなら心配はしてないけど」


 顔を見ずとも、未波の声音を聞けば頷くだけで、頭を縦に振っていた。


 そっか、いろいろ話してるんだ。


 複雑な気持ちになるそよいは、少しでも恩返しができるよう、何かできることを探そうとは思った。


「おかあさん、これがいい」

「落とさないでよ。そよいちゃんも選んで」


 歩奈はリンゴジュースのペットボトルを指差し、未波が柔らかい笑みを見せて手渡している。

 そよいもどうしようかと目の前を見ると、不意に未波のスマホから着信音が鳴っては視線を移す。


「どうしたの? ……え、どっちも覚えてないの? 今どこにいるの。……かにエリアじゃないの?」

「かにさん、かにさん」

「今三階にいるの? 階と場所、間違えてない?」


 困った顔をする未波は、その後も通話をしている。

 その間にでも選んでしまおうと、紅茶のペットボトルを手に取れば、未波は通話を切り小さなため息を吐いてと、呆れた顔を見せていた。


「どうしたんですか?」

「どっちも駐車した場所わかってないって。一応違う階に居たらしいけど……本当にもう、わかってないふたりで行ってどうするのよ」


 荷物を持ったふたりは半ば迷子になっていた模様。話からは駐車場内に分けられているエリアを覚えておらず、一個違う階で探していたらしい。

 あとで叱ってやってと未波に言われたが、そよいは頷くことなく目を逸らすことになっていた。


 自身が買ってもらったものを運んでくれてるとはいえ、未波と似たような気持ち。ふたり揃って何をしているんだと、苦笑してしまう出来事であった。


 そんな迷子のふたりは、のちに合流することができている。

 車を見つけることができたようで、無事に荷物を乗せてくるのであった。


「こっちに駐めてなかったっけ?」

「え、私覚えてないけど」



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