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26 決めるはスマッシュ




 モモとの散歩は、前回とは違ったルートであった。

 家を出ると、いつもは緩やかな坂を上っていくのに対し、今回はゆったりとした下り坂を降りていきつつ、交通量の多い場所へと顔を出す。


 方向としては学校側。通う高校方面といったところ。


 見たことのある景色であろうとも、新鮮だと感じるこの場所はあまり外を探検する機会がないためか、目新しく映っている。


 とはいえ、住宅街と店舗が少しだけ。レンタル屋にアイスクリームのお店。ドラッグストアに少し大きめな書店。

 一面にありとあらゆるお店が並んでいるわけではなければ、その点に関してはそよいの住む家が、この地域よりも都会すぎるというだけかもしれなかった。


 外で遊ぶ前準備として散歩をしている手前、歩奈の帰りに合わせ家に帰る必要がある。


 時間にしては二十分ほど。たまに通りかかる、ご年配の方に構ってもらえるモモはうれしそう。時間帯によってはすれ違うのか、見知った人と綾人が世間話でもしていれば、そよいの話にも移ってしまう。


 お姉さんか、もしくは、もうひとり妹さんがいたの? そうご年配の方に尋ねられると、彼は笑顔を浮かべながら柔らかく否定し、遠い親戚だと口にした。


 似ても似つかないでしょう。笑って話すふたりを見ていると、そよいはご年配の方に、お肌が綺麗だねぇ、と褒められてしまえば、ぎこちなくお礼の言葉を伝えていた。


 まだ散歩がしたいと、家に帰ることを知ったモモが抵抗すれば綾人が苦笑いを浮かべ、少しだけ家の周りを歩いていく。

 最終的には、彼がモモを抱えてしまえば抵抗することもできず、帰宅することになっていた。


「ほい!」


 ポンッ、とやさしくシャトルを走らせる音を耳にする。

 そよいの元に向かってくれば、ラケットは上から軽く振っては面に当て、相手が打ちやすい山なりで返してあげる。


 風が吹いている影響もあってか、屋外用のシャトルでも少しだけ不安定に落ちていき、肌寒いと目を細めてしまう。

 それでも、徐々に体が温まっている感覚に、続いていくラリーは楽しいものであった。


 歩奈が帰宅すれば、少ししてから彩乃も帰宅。昼食を済ませた後は、散歩コースにもあった河川敷にて、三原三兄妹と共にバドミントンで遊んでいた。


 周りには同じように、小学生や中学生たちが、サッカーだったり、グローブを持ってキャッチボールをしたりと遊んでいる。

 ぶつかったりと怪我の恐れはないよう隅のほうで遊んでいれば、今は彩乃に借りたラケットを使わせてもらっていた。


 最近巻いたものなのか、グリップテープの表面は毛羽で覆われていなければ新品同然。使っていいのかと口にするも「予備のやつなんで」と彩乃に手渡されていた。


 綾人と歩奈はというと、通常のラケットより面が広くグリップが短い、屋外用のラケットを手に持ち遊んでいる。


 彩乃に使わせてもらっているラケットでは、歩奈は遊べないどころか、シャトルを返すことができずに楽しくないはず。

 今目にする笑顔からは、よかったね、とそよいは親でもないのに思ってしまう。併せて、綾人の表情や声色、続くラリーに感嘆の声を上げながら相手をしてる姿から、兄である姿に視線から外せないでいた。


「あ、ごめん──」

「はい!」


 よそ見をしていると、打ち返すシャトルは彩乃の元にまで届かず、方向も横へと逸れてしまう。

 それでも、カバーする彼女は、声に出しながらそよいが打ち返しやすいようにシャトルを飛ばし、体勢を立て直した。


 流石、部活に入っているだけあって一歩目が早い。まだまだ続くラリーは、彩乃が少しずつ距離を取っていっては、少し強く打ち返すことになっていく。


 早いラリーにそよいは頑張ってついていくのだが、やがて面ではなくヘッド部分に当たってしまっては、シャトルは力なく目の前に落ちてしまうのであった。


「そよいさん、凄い上手!」


 落ちたシャトルを取りに行けば、彩乃が駆け足でやってくる。

 彼女の明るい声音からは、取り繕うこともできないだろう。真っすぐな視線が、自身に注がれていた。


「陸上部って言ったらラケットとか持つことないのに、どうしてそんなに上手なんですか?」

「体育の授業で何回かあったから、かな」


 ちょうど三年生時の授業で、バドミントンをする機会があった。

 一度慣れてしまえば多少は吸収できる。それは何事もそつなくこなせる、才能を持っているからであろう。


「だから持ち方知ってたんですね。お兄ちゃんも授業でやったの?」

「んー? 本当に最近やったな。マラソン終わった後の授業がバドミントンだった」

「へー」

「だから、最後には軽くテストはあったな。ラリーが続く回数とか持ち方とか見られて」


 答える綾人とは、時期なども少し似通っていては、同じような流れだ。


 体育の授業はほどほどに。多少は吸収できるとはいえ、目立つ過ぎるのも嫌なため、彩乃についていくようなラリーほどのことはしていない。

 周りに合わせるような形であった。


「はい、お兄ちゃん。交代」


 彩乃が綾人とラケットを交換している。

 人を入れ替えるらしい。


「面ちっさ」

「当たり前でしょ。そっちは幼稚園児用みたいなもんだよ」

「これで打った後だと感覚バグるな」


 ラケットを入れ替えた彼らは、それぞれの相手へと向かう。

 早く! と歩奈が待っていては、彩乃は「はいはい」と少し駆け足で向かい、ポイント制にしては遊び始める。


「一度ラリーでもする?」


 ラケットを変えたことにより、そよいは綾人に提案してみる。


「それでお願いします。少ししたら、試合形式でやってみよっか」

「いいけど……勝てるの?」

「スマッシュは無しで」

「え、ずる」

「ずるくはないでしょ」


 綾人の提案に率直な気持ちを言葉にすれば、彼は意地悪そうに笑った。

 別に構わない。勝つための方法は存在すると、そよいはその試合形式を受理することに。


 少しの間、ラリーを続けていく。


 運動は苦手だと言っていた。にもかかわらず、シャトルは弧を描くように何度も打ちやす場所へと返ってくる。

 もしかして。その考えは、試合形式に入ってからわかることであった。


「じゃあ、俺から」


 地面の砂を削るように足で線を引いては、適当な大きさでコートを作成。ネットまでは再現できないので、その点は互いの配慮とし、サーブは綾人からとなれば試合開始となった。


 得点は七点取ったほうが勝ちとなっている。

 ルールとしてはスマッシュは禁止。それ以外は基本的なルールに乗っ取り、思いのままに打つことに。


 意外に上手い。そよいが、彼からくるシャトルを打ち返しての感想であった。

 早速と綾人のミスショットで一点取っていたのだが、思ってた以上に打ち返してくるし、頭を使ってか嫌なところに落としてくる。


 このような形式で、彩乃の練習に付き合っていたのだろうか。そう垣間見える動きに対し、実は運動が苦手はお世辞ではないかと、本人に直接言いたくはなった。


 そよいは心の中で顔を顰める。


 体付近に飛んできたシャトルに対し、体を避けて打ち返すも、明らかにシャトルは低く綾人の得点に。


 今度は打ち返す際のミス。ふんわりと上がりすぎては、彼の標準が定まってしまい、良いところに落とされる。次の一手は力なく自コートにシャトルが落ちてしまい、点数は綾人に勝ち越されてしまうことに。


 自分が勝っている状況に、ご満悦の様子であった彼が目に映る。

 調子に乗ってと、そよいは完膚なきまでにしてやろうと闘志を燃やし始める。


 ただ、所々綾人にミスが見えていては、最初だけか、とそよいは余裕を持って相手することに。


「ほっ──ふっ──ちょ!」


 左右に前後と振っていれば頑張ってついてくる。

 その姿に顔は見ていて楽しいもの。心の中では、頑張れー、とそよいは一歩踏み込むだけで打ち返すことができている状態。主導権を握ってしまえば焦る必要はなかった。


 相手から点を取るというよりは持久戦に持ち込んで、ラリーを続けるといった形。

 わざと返せるだろう範囲で打ち返してあげれば、自ずと向こうの体力が擦り減っていく。


「き、きつ……」

「負けるよ」

「わかってるって。それにまだ中盤だから」


 疲れが見えてきた綾人を挑発してみると、眉を顰めた表情が返ってくる。


 プライドというものがあるだろう。男性が女性に負けると言った話もあれば、彩乃にはいいだろうが、おそらく、歩奈には負けているところを見せたくないだろう。かっこいい兄でありたいと思うから。


 今もこちらの様子を見ているのか、ちらりと横目で妹ふたりを見てみると……。


「見て! 四葉のクローバー!」


 歩奈がそう掲げていては、彩乃も頑張って探している様子。


 休憩しているようだった。

 時間も経っているか、そよいは心の中で微笑んでいた直後──シャトルが自身のコート、後方へと落ちてきては咄嗟に身体を翻しては打ち返す。


 しかし、体勢を崩したその隙に、彼は力なく飛んできたシャトルを、ちょん、と前に落として見せては一点獲得するのであった。


「はい、四対三」


 彼は平気で言って退けた。


 よそ見をしている隙を狙うとは卑怯者。そう目を細めるそよいは、意地悪そうな顔をした綾人へと視線を送るも、相手の表情が変わることはない。


 別に点数は上げてもいい。そう言ったことがありならと、そよいも反撃することに。


「あ」


 シャトルを持って、ショートサーブの準備。何か不思議なものを目にするかのように声を上げてみては、視線を左前方へ。


 彼が気にして、よそ見をする瞬間を狙う。そう手に持つシャトルを離さそうとしたのだが、


「宮代さんって……頭悪い?」


 自身にしか気を取られていない綾人に、率直な感想を突き付けられた。


 向こうは騙されなかった。挙句の果てには達観視している様子であれば、鼻で笑われる。

 彼も大概ドジ踏んでいるので騙せると思ったのに、変に頭が良いらしい。今日だけで二度目も見透かされてしまった。


 ムキなったそよいは、前触れもなくサーブを放つ。

 それは少し強めにラケットを振れば、綾人は驚いてしまい慌てて打ち返してくる。


 しばらくラリーが続けば、少し浮いてやってきた一手は、奥の隅へと狙いを絞って。そうラケットを振り抜き、飛ばしたシャトルは、アウトになってしまうコートの範囲外へと落ちそうになっていた。


 力み過ぎた、ムキになり過ぎたか。二点差になると、悔しさのあまり口を噤むそよいだが、前かがみになった綾人が頑張って手を伸ばしていれば、打ち返してくれる。


 これにはラッキー。浮いたシャトルに対し、調子に乗っている彼を倒してやろうと思ったっそよいは、少し足を浮かせてしまう。

 その状態で、左手を掲げてはシャトルの位置をとらえ、ラケットを軽く振り抜いてしまえば──


(あ)

「いたっ!!?」


 スマッシュとなってしまい、彼の体にぶつけてしまうのであった。


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