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21 いってらっしゃい




 予想通りに日が経ってくれると、少しは心が軽くなる。


 翌日となる二日目に関しては、綾人は頭痛がなくなってきたと口にするも、熱はあまり下がらず。三日目となると、常に寝ることになっていたからか、体調はましになってきたと外見からも日に日に体調が良くなっているように見えていた。


 二日目は土曜日ということもあり、休みである未波が開いている病院に連れて行けば、インフルではないと安心した。


 人が増える土日、泊まりだして再びと言ってもよかったその日には、あまり綾人の傍にいるわけにもいかなければ、気にしすぎと未波や彩乃に指摘されてしまう。

 それは歩奈も同じではあったが、起きている彼にちょっかいを掛ける姉妹に対し、覚えてろよ、と彼が睨んでいれば微笑ましいものが見て取れた。


「おはよう」

「……おはよう」


 台所に立っている綾人と目が合えば、遅れて口にする。


 あれから五日目となる今日という名の早朝、マスクをせずに平常運転のように活動していれば、彼はお弁当を作っていた。

 ほとんど自室で過ごしていた彼だが、昨日の様子からしてもう大丈夫だろう。見せる表情からは元気そうで何よりである。


 ただ、病み上がりということもあって、早くも台所に立っているともなれば驚いてはしまった。今日くらいまでは、安静にしていてもいいのではと口にしたかった。


「宮代さん。ありがとう、看病してくれて」


 お弁当を用意する手を止めた綾人に、目を見てお礼の言葉を送られては、俯きながら返しておく。

 ホッとため息を小さく吐けば、彼から会話を投げかけられる。


「朝って、起きてからいつも寝間着の状態?」

「……どういうこと?」

「えー、二階に来る前に着替えないのかって話。一応、俺いるんだけど……」


 視線を逸らした彼を見れば、質問の意図が読めた。


 頭がはっきりしてきて、少し恥ずかしくなってくる。

 一応泊まっている家とはいえ、朝から綾人と目を合わせることがこの日までなければ、彼以外、二階は女性のみ。気を使いはするも、朝はどうしても頭がぼやけてしまい正常な判断ができておらず、自分のことよりも二階に顔を出す毎日。


 起床すれば様子を見に行く。それがバレていないのなら、今度から気をつけようと、そよいは一度着替えに行くため、一階に向かおうとする。


「そよいちゃん、おはよう」

「お、おはようございます」


 ドアノブを捻り、黙ったまま立ち去ろうとすると、ダイニングとキッチンとなるこの部屋の隣、寝室から未波が顔を出していれば、上機嫌な顔でこちらに近づいてくる。

 元気な挨拶を耳にすれば、ドアノブを戻し、ぎこちない挨拶を返すことに。


「可愛いパジャマ着てどうしたの~、見せに来てくれたの?」

「そ、その……」

「顔洗った? 髪はまだ整えてない? 時間あるし、お姉さんが櫛で整えてあげよっか」

「そこの婆さん、さっさと用意しろ」


 朝からグイグイくる未波に気圧されていると、呆れたような表情をした綾人が注意を引いてくれたのか、親に向かってあまり良くない言葉を使っている。

 そんな彼の言葉に頭に来たのか、言われた本人は近づいて行っては彼の頬を掴んだ。すぐに取っ払っていた綾人ではあったが。


「あんた朝から無理して……もう治ったの?」

「治った。熱も平熱だし、喉も鼻も違和感ない」

「そう。本当、可愛い女の子に看病してもらえてよかったね。ずっと心配してくれてたんだから。毎朝あんたの部屋に、様子見に行ってくれてたのよ?」


 未波の話を聞いては固まってしまう。

 知られていた。それも本人を目の前にして口に出されては、彼と目が合ってしまう。


 気まずそうに逸らされた。そよいは未波に言いたかった。せめて、自分がいないときに言ってほしかったと。


「ちゃんと礼は言ったの?」

「言ったから放せ……! 遅れるぞ……!」

「お弁当作ってくれたからゆっくりできるの。ありがとう」


 ため息を吐いた未波は、綾人の頭をポンポンと叩いてしまえば、解放してあげていた。

 そんな様子を見ていたそよいは、彼の苦い顔を見ては逃げるように立ち去り、一度着替えを済ませることに。


 茅島家のふたりに挨拶を済ませ、起床しているモモも撫でてから、二階に上がる。


 午前六時を回っている時間帯。彼は何時ごろに起きたのだろうかと気になると、テレビが点いては意識が持っていかれる。スポーツコーナーが終わればニュースコーナーに回り、天気の話となれば、今日も寒いと未波がぼやいている。


 テレビを見ながら席に着いていると、味噌汁と少しの白米、漬物が目の前に用意される。


「納豆でも食べる? それか玉子焼きがいい?」

「あり、がと……」

「うん……どっちも食べる?」


 驚きのあまり心の声が漏れていては、彼を困惑させてしまう。


 質問に答えてなければ、今も引きずっている感情を払拭させようと小さく呼吸する。


「納豆でお願いします……。手伝えること、何かある?」

「あぁ……もうそろそろ、彩乃と歩奈が起きてこないと遅れるから、ふたりを起こしてほしいかも」

「わかった」

「綾人ー、お母さんにはー?」

「ヨーグルトしか食わんだろ」


 親に対し口悪い綾人だが、味噌汁を用意してあげている。態度や言葉は反抗しているようだが、行動は別らしい。そんな息子に対し、未波は気にせず感謝しながら味噌汁の入った器を受け取っていた。


 そよいは朝食を摂るかは、その日の気分によって決めていた。

 しかし、この四日間、毎日食べさせてもらっている。


 用意されているから無理をしている。そういったことはなく、おいしいから自然と口にしていた。量もほどなくと、お腹が膨れるほどではないのがより良かった。


「ごちそうさまでした」


 小さくそうつぶやけば、食器をシンクに置き、水もつけておく。


「言ってくれてるけど?」

「……お粗末さまでした」


 メイクもし終え、ゆっくり食事をしている未波を睨みつける綾人。

 言われなくてもわかっていると、目からは伝わっているが、そよいに向けられたものではないけれど、少しは怖くある。

 敵視するような目つきではあれば、まだ何か含んでいるような視線であった。


「起こしてきていい?」

「ありがとう、彩乃は手強いから気を付けて」


 もぐもぐしていた綾人に訊いてしまえば、代わりに未波が答えてくれる。

 美人であり華がある人。三十代になっても、自身も未波みたく若々しく見えているのだろうか。まだまだ先の未来を想像しながら、先に歯を磨けば、三原姉妹を起こしに向かう。


 そっと開ければ電気は点いておらず、まだ寝ているようだった。


 ただ、部屋の光を浴びればひとりは動き出す。それは二階の人物で、厄介なんて言われている彩乃であった。


「電気点けないで~」


 悲痛の嘆きが聞こえてくる。だけど、耳を塞いでしまい、まずは明かりが遮って気づいていないっぽい、一階の小さき女の子を揺すってあげる。


「歩奈ちゃん、起きれる?」


 声も掛けてあげれば素直に起きてくれるだろう。目覚めた姿を目にすれば、小さき子は口角を上げては、


「いやだ」


 お布団に包まってしまった。


 再度起きてもらうように言うも、ダメだったので、先に二階の住人へ。

 ここからだと届かないので、二段ベッドについたはしごを利用すれば、同じように声を掛ける。


「彩乃ちゃん」

「……」

「彩乃ちゃん、起きれる?」

「……!」


 起きた。そうわかるように目がカッと開いては、バッと布団を剥がそうとしたが……そよいが踏んづけているので上手いこといかず。それでも、彩乃はそよいを見ては飛び込んでから言った。


「おはようございます……!」

「お、おはよう」


 どうしてか抱き付かれてしまった。それも気持ちの籠ったハグであっては、驚きのあまり両手を上げてしまい、抜け出せそうにもない。


 それより、二段ベッドの上に女子中学生がふたり乗っていても平気なのか。階段に足を下ろすそよいは、少し身を後ろにそらしているので落ちてしまうことはないが、ミシミシとなっていないか不安ではある。


「そよいさん、いい匂いがする……あと柔らかい……」

「……学校遅れるよ?」

「お腹痛い……」


 いきなり近づいた距離に固まってしまえば、目的を忘れないようにと口に出す。

 すると、堪能されていると思いきや、こっちが本音かと思うと少しの間お腹を擦ってあげていた。


「変わってあげたいけど……頑張ろ」

「うん……歩奈は起きた?」

「まだ」


 しばらくすると、ハグが解けてしまえばそよいから降りていく。

 一階の住人は未だ包まったまま。まるで蛹のように、殻に閉じこもっていた。


「歩奈……起きろー!」

『いやー!』


 長女の彩乃は知っていたのだろう、起きているということに。


 狸寝入りをしていた歩奈が、布団の中から楽しそうに叫んでいては、姉妹による攻防戦が繰り広げられた。

 とはいえ、あっという間に防衛側が壊滅したのは言うまでもない。彩乃がくすぐってしまえば布団から顔がひょっこり出てきてと、降参してしまったのだから。


「おはよう!」

「おはよう」


 にっこりと笑った元気な挨拶を返せば、三原姉妹はふたり揃ってトイレに向かう。

 一階のトイレと二階のトイレ、ふたつとも占領するようだった。


 ちょっとした仕事が終了すれば報告へ。笑い声が聞こえていたと綾人と未波が言っていれば、その必要もなかったようだ。


 少しすれば二階の居間に三原家全員が揃う。服も着替え終われば、歩奈は兄の体調を気遣い大丈夫だと知れると、すぐに座っては朝食に入り、彩乃はそのまま抱き付いていた。


「ちょ、どうした?」

「何でもない……」


 そう言って彩乃が飛び掛かった先は、兄の綾人であった。


 背後から抱き付いていては彼の背中に顔を埋めている。

 ただ、体勢が辛くないだろうか。上半身もほとんどが彼の身体から離れている状態で、突進したような絵ではあった。


「お兄ちゃんのうつった」

「……ごめんて。頑張れるか?」

「……」


 何も返事をしなければ、今度は体勢を立て直し先と同じように気持ちが籠ったハグをしていた。

 抱き付かれている本人は苦笑していて、彩乃は少し伺えるが目を瞑っては辛そうな感じ。

 そんな兄と姉の様子を追っかけていた歩奈は、食事の手を止め、なぜかにっこりとした表情で綾人の脚に抱き付いていた。


「仲良しすぎる?」


 三兄妹の様子を見ていれば、未波の返答には頷いてもしまう。

 ただ、親である未波も仲が良くてうれしそう。これでも全然喧嘩はするからね、と付け加えながら苦労した様子を見せてはいたが、笑みが消えることはなかった。


「お母さん行ってくるから、頑張ってきて」


 もうすぐ出勤することになるのか、未波は仕事用のリュックサックを背負えば、三人の頭を撫でてと「いってきます」と張りのある声で言えば、息子たち各々のいってらっしゃいが返ってくる。


 そして、なぜかそよいの前にも未波が立ち止まっては、


「いってきます」


 そう頭を撫でられ、未波は家を出るのであった。


 本日は初めてのことばかり。

 居候して五日目、少しばかり彩乃や歩奈と遊ぶこともあったのだが、彩乃には抱き付かれるほど、急に距離が縮まったような出来事はなければ、歩奈とは小学生と言ったこともあって話せているだけ。

 未波については、グイグイは最初からであり親戚の叔母さんといった接し方だった。


 だから混乱する。彩乃には、まるで姉妹のように抱き着かれ、未波からはお母さんといった感じで頭を撫でられる。

 多少は頬が赤く染まる出来事。顔に出ていたかは不明ではあったが。


 綾人が妹たちに抱き着かれている中、遅れるぞと言えば、ふたりも朝食を済ませ歯を磨いてしまってと準備が整えば、玄関にて靴を履く。

 そよいも見送ろうと、一階に降りていた。


「忘れ物ないか?」

「ない!」

「彩乃は?」

「……お腹痛い」


 元気な次女にムスッとした長女。三月とはいえ、今日も寒ければ歩奈は着こみ、彩乃は学校のジャージを着用している。

 未波の子であれば、可愛いのは当然だろう。


「温かいお茶入れたから、それでも飲め。無理そうだったら迎えに行くから」

「……そこまでじゃない」

「わたしもむかえに行く」

「大丈夫だから」

「春休みまであと一週間ちょっとだろ。もう少し頑張ってこい」


 苦笑する綾人がそう言えば、彩乃はムスッとした表情ながらも、頷いていた。

 彩乃によって玄関のドアが開けば寒い風が家の中へと入ってくる。


 外着の格好ではない、そよいと綾人の身は縮こまる。

 それでも、見送る程度には我慢できた。


「あ、バレンタインのお返しもらってない」


 開けたドアを閉めては彩乃が口にした。

 ともなれば、立ち止まることになる歩奈も、思い出すかのように声を上げた。


「あっ! ホワイトデーもう過ぎた!」

「忘れてないから。体調不良だったから勘弁してくれ」

「なにくれるの?」

「急に元気になってないか?」


 唐突な槍が一本二本と彼に降ってくるのだが、彩乃が平常になっている姿を見れば、思わず笑みが零れそうになる。

 今日のお楽しみだ。そうふたりに言って聞かせた彼は、一息ついてから見送る。


「いってらっしゃい」

「いってきます!」

「いってきます」


 元気な声にその姿は、手を振りながら見えなくなれば、彩乃も外に出ようとするも立ち止まる。

 ドアを閉じず、今度はそよいを見て言った。


「いってきます」

「……いってらっしゃい」


 眉を下げ、口角を上げていた彩乃を見ればそよいも返してあげた。

 続くようにドアの隙間からも元気な声が聞こえてくると、向こうには聞こえたかはわからないが、同じように返しておく。


 家の中が閑散とすれば、少しばかり寂しさを覚えていた。



 以上で過去投稿していたエピソードまでとなります。中途半端に更新が途切れていたこと、申しわけないです。

 エピソードとしては、三話ほど追加すれば、消去したり、視点を変えたりと。

 あともう少し、区切りの良いところまで執筆出来たらと思います、お願いいたします<(_ _)>


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