表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
17/35

17 合否を受けて




 残り少ない中学生活。それはあっという間に過ぎていけば、合格発表日という名の今日を迎えることになってしまう。


 あれから快眠と言えるほどの睡眠を取れてはいたが、流石に昨日に関しては、あまり寝付けなかったそよい。心臓の鼓動がやけに大きく聞こえていれば、電車に揺られるこの時間は億劫に感じてしまっていた。


 自分の家からだと、公立校までは二時間は掛かる距離。だったら、家で待ちながらネットで合否の確認をすればいいのだが、そよいは直接、掲示板を見に行くことを選択していた。


 家の中でじっと待っているのは嫌いだ。そのうえでの選択だが、気持ちの話はあまり変わりなさそうである。


 乗り継いでいく電車内では、すべて運よく席に座ることができる。そんなことがなければ、乗り換え後は必ず立っていた。

 しんどいかと言われれば当然。しかし、朝の満員電車となるとどうせ変わりないし、座っていたら前の人からの視線に心をやられてしまうため、隅に寄っているのが一番楽であった。


 外の景色だけを見つめ、気を紛らわせる。

 親は仕事であった。大切な日にごめんと電話にて謝られたが、特に何も思わない。顔をあまり見ないようにしていれば、話し掛けることも特にないから。


 家があって、不便なく暮らせて、学校に通えて、親からの愛情も、もらえているはずで。

 自分は我儘だと罵った。だけど、踏み込みたいがための行動に後悔はないようにしたかった。

 周りの人たちはすごいなとそよいは思う。矢面に立つ人ほど尚更である。自分より苦しんでいるはずなのに、逃げずに立ち向かっている姿に憧れてしまう。


 今更になって親の電話に心が痛む。時折聞こえてくるのは親御さんとその受験生の会話。それは受験校が近づいてくるにつれ増えていき、次第に意識し始めていく。自分はひとりで来ていることに。


 その光景を見て、思いつめるかのような瞳で外へと視線を逃がしていると、偶然、目の前の女の子と目が合った。


 ──美少女──それが彼女に相応しい言葉だと思った。


 首元に触れるぐらいの髪はハーフアップでお団子にし、ぱっちりと開いた瞳を囲うはお人形のような長い睫毛。通った鼻筋に桜色のやわらかな唇。乾燥知らずだと見受けられる肌も一段と綺麗であれば、自然と口角が上がっている口元を目にすると、同姓であるそよいからでも魅力的に映っていた。


 そよいは自身が整っている顔だとは、流石に自覚している。

 周囲から受ける視線を感じたり、告白された回数と会話の回数などを比較したりもすれば、そういったことでは、と思ってしまう。


 だけど、目の前の彼女のほうが可愛いと、明確な差が存在する。見知らぬ人に見せる柔らかいその笑みは、男の子のハートを打ち抜くようなものであった。


 そんな子と目が合うと、そよいは瞬きをしつつ外へと視線を逸らした。

 あのような笑顔を見せられたら、眩しい以外ほかにない。あまり初対面の人と仲良くできるような人間ではなく、明るい彼女を見れば余計に見ることができないでいた。


 あと一駅。ちょっと首が痛くなってきたので、下に視線を移したりし、彼女のことを盗み見る。

 目に映るは、同じように外の風景を眺めていては、先ほどのことは気にした様子を見せなかった。

 景色へと浸る、そんな姿までもが絵になるようで、間違いなく学校の人気者になるであろうと、そよいの頭の中では想像がつく。


 三分後には到着した。いつものように人の流れには乗らず、一度お手洗いへ。それから、遅れるようにして受験校へと向かった。


 季節は春へと移り変わっていくのだが、まだまだ肌寒い季節。温かい太陽が顔を出していようが、ポケットに手を入れては、カイロが指先を温めてくれている。


 道行く人は同年代の子たちと付添人となる保護者。周りの人と同じように、受験校に近づいてくるたび、緊張で顔が強張っているような気がしていた。


 今までの努力が実り、あの雪が答えてくれたのだろうか。それとも、逃げずに向き合えといった答えが跳ね返ってくるのだろうか。


 正門を潜り抜け、人の流れに沿って歩けば多くの人だかりを目にする。合否の発表が行われる場所へと、たどり着くことができた。


 人が多いことから、かなり後方となる位置。かなり見えづらいと思ったが、二階の渡り廊下らしき場所から垂れ幕のような形で発表するようで、すぐに結果を知ることになりそう。

 準備をしている人を見れば、予想は当たりのようだった。


 今か今かと周囲は騒めいている。同じ学校の友達なのか互いに見守っていたり、親御さんと受験生の子も固唾を呑んで見守っていたり。周囲を見れば、むしろお母さん方が受験生よりもハラハラしていそう。息子さんや娘さんの肩に手を置いては、緊張した面持ちであった。


 スマホを手に取り、着いたことだけは知らせておく。

 すると、すぐに既読が付いては、大丈夫、と励ますような言葉までも送ってこられる。そよいとしては、仕事途中じゃないのと心の中で呆れては、別の人のトーク履歴へと移る。


 それは綾人と彩乃であった。

 交換した連絡先は、家族を含まなければ初めてである。それにアプリを使ってのメッセージのやり取りが、日に日に増えていけば、スクロールするほどのやり取りに。

 自分から交換を申し出たわけではないが、少しばかり大きな一歩。変わるきっかけの予行練習としては、参考にさせてもらうことになりそうであった。


 とはいえ、今更になって少し怖くなる。不合格だった際は、やはり気まずいだろうか。もしかしたら──なんて可能性は、周囲の声により視線を前へと向けざるをえなかった。


 時刻は午前十時。合格者発表の垂れ幕が降ろされ、受験番号が目に映る。


 見えると思ったが、スマホで撮影しようとする保護者の手が多く、見えそうにない。

 少し待つ。それは怖いがいずれ自分のもとにくる結果に向き合うべきで、前にと進んでみることに。


 前から数えるほうが速いのか、後ろから数えるほうが速いのか。残念ながらどちらでもない。中間あたりになるようで少し苦戦する。


 目を通していけば後ろに下がり、抜け出すことができると……大きく息を吐いた。


 俯いていては、あの日、雪で積もっていたはずの地面を見つめている。

 私は今、どういった表情をしていますか? そよいはあの景色に問うも、返ってくるわけではなかった。


 今度は視線を周囲へ。

 ホッとした親御さんの表情や、はにかむ受験生たちが目に見える。ところどころ番号も抜けていた。そんなことから、現実に引き戻されそうになれば複雑な気持ちにもなる。

 キャスター付きの掲示板によっても合否の発表がされていたようで、こっちでも見れていたのかと気を紛らわせる。


(……)


 ここからは書類を受け取りに列へと並び、今も通う中学へと報告しに向かうことになる。

 どこで受け取るのだろうか、案内される声と共に向かおうとするも、綾人を発見した。


 朝一に来ていたんだと思いつつ、隣の男の子が誰なのかと気にもなる。

 それは物静かな人物に見え、誰も寄せ付けないような、そんな雰囲気を持った男の子であった。


 ───────────────────────────────────


 自身の番号を探し終え、ホッとしたため息を付いた綾人は肩を落とす。


 合格であった。


 模擬試験において結果は振るったほうではなければ、最後のもうひと踏ん張りが実る形となったのかもしれない。初めてと言ってもいい成功体験は、少なからず今後の自信にも繋がるものであった。


 人混みから抜け出すことができれば、同じ中学を通う友人を偶然にも見つけることができる。

 肩に触れそうな髪の長さに静かな瞳。一匹狼と連想させる友人は、物心つく前からの幼馴染。


 名前は内山(うちやま)元孝(もとたか)


 ひとりで番号を見ていたようで、彼と目が合えば互いの表情からはわかりきっていた。


「合格したか?」

「もちろん。そっちもだろ」


 元孝に訊かれた綾人は、苦笑するかのように言った。

 互いに合格したと知れば、元孝は小さく息を吐き柔らかい目つきを見せ、受験した男子は三人と、もうひとりの人物について尋ねる。


「久喜のやつ、見たか?」

「まだ知らない。だけど現状は、これ」


 スマホを取り出した綾人はトーク履歴を見せる。

 そこには、彼は遅れると言ったメッセージを飛ばしており、対する綾人がもう合格発表されているぞと送っていれば、


「あいつ、俺に確認させやがった。番号送ってきて」

「言ってはないんだな」

「流石に自分の目で見ろって。親御さんも一緒だって話だから」


 綾人が指し示す番号は、おそらく受験番号。

 桁数から察した綾人は、ついでに探していれば確認していた。


「メンタルは流石だな」


 元孝はやり取りを確認していると、とある文面を見ては口にした。

 どうせ合格はしてるって。それは向こうからのメッセージであった。


「まぁ、実際合格してるし、あいつならもっと有名どころ行けただろうな」

「理由は聞けたのか?」

「ここが楽しく過ごせそうだから。あとは、大学は上目指すし、親もここならって許してくれたらしい」

「綾人目当てか」

「……そういった話で高校決めれるのはある意味凄いな」


 不敵な笑みを浮かべる元孝の言葉には、綾人は若干苦笑い。本心はどうなのかわからないから。


 ふと、周囲へと視線を向けてみる。

 同じ高校を選択した同級生たちは合格したのだろうか。もちろん、全員が合格していたら嬉しいことはこのうえない。だけど、受験番号も分からなければ人だかりを見ても、見つけることはできそうにない。


 それに併せ、あの中にそよいは居るのだろうか。いや、流石に家で確認しているだろう。自身が合格と知れば、まず報告よりも先に彼女がどうだったのかと気になってしまう。


 スマホを見てみるも通知は来ていない。

 なぜか綾人がもやもやしてしまう。本来、そよいの親御さんがもやもやしているだろうに。


 他の同級生がどうか、世間話程度に元孝に訊いてみると、ひとりは合格しているとのこと。

 お前にも来てるだろ。そう言われて見ると、ちょうど送られていた。


「綾人、書類は受け取ったか?」

「まだ。先に報告しようと思って」

「それもそうだな」


 一緒にここまで来た、綾人の母──未波にはまだ報告できていない。

 ひとりで見に行くと言えば、未波は息子の言葉に頷き、離れた場所で待っている状態であった。


 元孝も親に報告しに行こうと歩くのだが、待ってくれている方向は同じらしい。


「そういえば、結望から話、聞いたぞ」

「は? ちょっと待て、それって」

「笑ってもらう話だな」


 突然の幼馴染の話に、綾人は顔を歪めてしまう。


 相談したあの日、放課後にも話すようなことはあったのだが、まさか話されているとは思わなかった。

 もしかしたら広がっているのか。邪推する用件ではあったが、元孝が口にする。


「大丈夫だ。俺たちの仲だから教えてくれただけだ。言いふらしたりしないのは知ってるだろ」

「……じゃあ、何かアドバイスくれる感じか?」


 気まずそうな綾人は苦い顔をしていた。いくら幼馴染であろうとも、女性に対しての悩みで、同性に聞かれるのは些か気恥ずかしい。

 しかし、幼馴染である元孝が頷き、彼の言葉には背中を押してくれるような温かいエールが送られる。

 それは、相談した女子二名にも、同じようなことを言ってくれていた。


「いつも通りでいい。お前が自然としてれば笑ってくれるだろ」

「ちょっと、(もと)!? どうなったの!?」


 少し怒っているような人物が、目の前に現れる。

 それは元孝のお姉さんであった。


 女性の中では背が高く、綾人は久しぶりに出会ったことから呆気に取られていたが、男なら羨ましいだろう状況に追いやられている彼は、抱きつかれる形で捕まっていた。


「綾人……助けてくれ……!」

「ごめんね、綾人君。こいつ連れて行くから。で、合格したの!?」

「合格した……! クソ姉貴、まじやめろ……!」


 返事をすれば解放してくれたようで、彼は両親の元へと戻っていく。

 そんな時に、急いでスマホを確認する。


 自然と喜びよりも、安堵の気持ちが勝っていた。


「どうだった?」


 未波の元へと戻れば、いつもと変わらない感じで訊いてくる。

 親の顔をとも言うべきか。あまり見ない顔を綾人は見ていると、視線を逸らしてから報告した。


「……合格してた、ありがとう。さっき宮代さんから来てたけど──」


 合格したと言った瞬間の母親の笑みに、綾人は少しうれしくもなった。

 ここから入学手続き等と資料を受け取れば、一度中学に戻ることになる。

 そこでは、緊張した面持ちであろう職員室で待つ先生へと、合否に関して報告しに行くことになっていた。


 近くには元孝もいることだ、そう思い彼と向かえたらと思う綾人。

 スマホを急いで見た時の行動に表情と、そよいに見られていたのは、のちに本人も知る話となっていた。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ