15 明るい生活
ここから一話ずつの投稿になりそうです。よろしくお願いします。
物置部屋、そう感じさせる狭い部屋にスマホのアラームが鳴り響く。
熟睡していた綾人は身体を反転させてスマホを手に取ると、アラームを消してはゆっくりと起き上がり、その場で伸びをした。
起床時間は五時頃、祖父や祖母よりも早く目を覚ませば、いつも通り居間に訪れコップ一杯の水を飲み干し、風呂場へと入ってはシャワーを浴びる。
朝に冷水シャワーを浴びることは健康に良いと言われている。
冬場だろうと関係ないが、死んでしまうと一度の試しで諦めてしまった綾人は、温かいシャワーを浴びながら寝癖の付いた髪をもリセット。寒いと震えながらも身体を拭いてしまえば、櫛も使って髪にヘアオイルを馴染ませ、ドライヤーで乾かしては整える。
コンタクトを付け、肌を保湿し、日焼け止めを塗ってしまう。
自分の部屋で着替えを済ませると、残り少しの制服と別れを告げることになる。
誕生日にて買ってもらった立てかけの鏡を前に、いろいろあったなと思い耽る。
後悔はないように。引き続きよろしくお願いします、そういったクラスメイトも何人かいるはずで、しばらくは会うことがないクラスメイトが多くいる。
残り二週間もない。そんな中学校生活を有効的に使うために、今日は恥を忍んで訊こう。さすれば、キッチンへと向かいお弁当の準備を始めた。
冷蔵庫から、昨日に作り置きをした、れんこんのはさみ焼きを用意。ブロッコリーは水で洗い、切っては茹で、玉子焼きを作ってしまう。
殻を入れないよう、ヒビを入れたあとは両手を使って割り、塩と砂糖、醤油と味付け。
三原家の玉子焼きは砂糖を控えめに。あっという間に作ってしまえば、毎日食べるプチトマトを忘れないように。隙間ができてしまった箇所には、冷凍食品のちくわの磯部揚げで賄い、ブロッコリーを冷ましていれば白米にはたまごのふりかけを掛け、こちらも蓋をせず一度冷ましておく。
狭いキッチンに広げた弁当箱を整理し、朝ご飯に味噌汁を作ればテレビを見ながら食事する。
未波が起床して来れば、いつものように近づいてくるので回避。さっさと準備をしろと言うと、綾人と同じようにシャワーを浴びに行く。
朝食を済ませると、リュックサックの中身を見て時間割に間違いがないか確認した綾人は、まだ起きていない妹たちの部屋へと向かうことに。
二段ベッドの下の住人は目を擦りながら起床すれば、上の住人は後回し。手を貸してあげ、素直に洗面所へと階段を降りていく。
歯を磨く祖母に挨拶すれば顔を洗い、髪は歩奈自身で行い、子ども用の日焼け止めを塗ってあげる。
もちもちで綺麗な肌が保てるように。歩奈も残すは着替えとなれば、再度二階へ。
一番面倒な二段ベッドの上の住人は、身体を揺すろうが威嚇する声音を上げてくる。
やさしくもう一度揺すり、時間のことを言っても同じことなので、天敵である歩奈を召喚。無理に起こそうとすれば長女は嫌そうな顔をしては起き上がり、睨んでくる鋭い目には、綾人は呆れた顔を見せていた。
午前七時。学校指定のジャージを着用すれば、未波には化粧途中でいってらっしゃいと言われ、歩奈や彩乃には廊下でのすれ違い。玄関で顔を合わせた祖父に、わざわざ顔を出した祖母にも言われると、いってきますと外に出る。
ガレージに置いてある唯一の電動自転車に乗り、持っていたバッテリーも装着しては学校へと向かっていく。
ここからだと受験校方面に自転車を走らせていくことになる。
整えた髪は意味を無くし、冷たい風を強く受ける。未だに暖かくなる気配のない寒さに、顔を顰めてしまえば、我慢しながら漕いでは十五分。手櫛で髪を整えれば電車へと乗り換え、少しの間窓際で外を眺めることに。
自転車の時もそうだが、頭の中に浮かぶはそよいのことであった。
そもそも、この中学三年間はどう過ごしてきたのか。
あの事を言い慣れていない感じから、静かに過ごしていたのか。周りは元々、彼女とどう接していたかも気にはなる。
そういえばと思い出すは、綾人の家の近くにある公立校──浅木高等学校へと受験した理由。
自分から訊くことはないが、未波が話してくれたことから考えると、他の家族と住むことに妥協しては、近くの高校を選んだのだろうか。行きたい高校はなかったのかと気にもなる。
彩乃も同様に、どうして? と思っているだろうが、それは遠い話になるのか、将又聞くこともないのか。
踏み込まれたくないことは誰しもあるだろう。静観するのが互いの距離を保てるため、そこは気を付けようと心に留めておくことにする。
乗り換えはなく、片道一本で目的地に到着すれば、今度は徒歩で向かっていく。
同じ学校の生徒を少数目にしながら下り坂を降りていき、計一時間ほどで学校に到着した。
靴を履き替え、二階に上り、一番奥の教室へとたどり着けば親しみのある教室へ。
「──わっ」
教室へ入ろうとドアをスライドさせると、クラスメイトの女子とぶつかりそうになる。
向こうは前を見ておらず、驚いた声を出しては、少し見上げる形となっていた。
「びっくりした。どうぞ」
「ううん、三原がどーぞ」
「いや、いいから。レディファーストで」
「『いや、いいから。レディファーストで』」
「真似るな。しかも俺は女子じゃないし、そんな風に言ってない」
言葉どおりに驚き先に譲ったのだが、目の前の女子は首を横に振る。それも、カッコつけるような声音で真似してきては紳士ぶり、綾人は眉を顰める。
そんな彼の姿を見た女子は、楽しそうに笑っていれば、見ていたクラスの女子が茶化してくる。
「朝からイチャコラするなー、バカップルふたりー」
「してないですぅー、三原は私の愛の告白を断りましたぁー」
「……いつ告白された、身に覚えないぞ」
「あたしの頭の中で断られた」
「滅茶苦茶すぎるだろ」
悪戯っぽく笑った彼女はトイレと言って教室を出れば、綾人は呆れながら教室に入ることができる。
茶化した女子には挨拶を。向こうは手を振りながら返してくれた。
自分の席に着こうとすると、今度は男子二名と目が合った。
「よっ」
「おーっす、綾人。受験どうだった?」
「わからん。そっちは?」
「俺も何とも言えん。マジでドキドキするわぁ」
「お前はガチガチの進学校だから震えるだろ。綾人は浅木高だっけ? そっちも偏差値高いだろ」
ひとりは苦い顔を浮かべながら合格発表を待ち、もうひとりは余裕そうに椅子へと背を預けていれば、綾人に訊いている。
受験生であればソワソワもするだろう。
ただ、余裕そうな男子生徒がそういった様子なのは、綾人が訊く、次なる理由となっていた。
「そういう愉悦部様はどうだったんだ?」
「最高の一日だった……!」
「スポーツ推薦いいよなー。こいつ、俺たちが受験してるっつーのに、ほとんど自習だったらしいぜ?」
「先生が映画も見せてくれた」
「羨ましいな。まぁ、テレビに出る時を待ってる。一番セカンドだっけ?」
「よう覚えてるな、綾人。楽しみにしてろ。全国大会決勝で見せた五打数四安打一試合二ホーマー二盗塁の活躍を見せた俺は、絶対に活躍してやるから。お前も見とけよ?」
「なお準優勝、ひとりだけ奮闘する結果で敗北なり」
同じく併願だったクラスの男子が余計なことを言えば、綾人は小さく笑い、映るようだったら応援しとくと言っておいた。
他愛もない会話をすれば自分の席へ。
綾人の席は一番前の席であり中央寄り。一学期終わりに席替えをしてからというもの、変わっていなかった。
二学期から今まで、各授業の先生の雑談に答えたりすれば、出席番号とかではなく問題も急に当てられることがあったのは言うまでもない。
油断していたら飛んでくる教師の会話は、集中していなければ恥をかき、場合によっては話を聞かない人間だと思われてしまう。
そのような席のおかげでか、勉強に身が入っていたのは事実ではあった。
「おはよう」
「三原おはー」
「おはー……」
席に着く手前、隣の女子二人組から挨拶が来ては、似たように返してしまう。
遅れて気付く綾人は口元を結べば、ふたりの女子がクスクスと笑っていた。
隣の席の人物は、小柄でふわふわしたような柔らかい印象を与えられる。もうひとりは前髪を揃えている、ギャル風の見た目。
同じ公立高を受験したふたりであった。
「三原どした? そんな挨拶したことあったっけ?」
おはー、そう挨拶してきた女子が不思議そうに笑っていれば、綾人は微妙な顔をしてしまう。
「つられただけだ、俺は悪くない。あと日暮は笑うな」
「笑うよ、朝から面白いものが見れたから」
「結望が笑うって、三原がふざけることやっぱりなかったの?」
「ふざけてるというよりは、バカすることは昔からあったから、その名残で」
席に着いて早々、自身の話で盛り上がられる。それはとても困ることであった。
そのため、話しを切り上げさせるように、綾人は机の上に広げている問題用紙を見て、彼女たちに言った。
「正解かどうかの確認?」
「そうそう、見せてもらってる。だけどさ、あーしだけさよならになりそう」
「大丈夫だから、最後まで手を抜かなかったでしょ? それに結構合ってるよ。最後の問題を落とそうが賄えてる」
「結構頑張ってただろ。自信持てよ」
「それ、C判定に向かっての言葉で問題なし?」
「「……」」
ジト目を受けたふたりは黙ってしまう。
彼女の模擬試験の判定を前から知っていた。哀愁漂うのは、綾人の隣の席が彼女の席ではないため。三角座りをするかのように腰を下ろしていては、机から見せる顔は口元が隠れていたのであった。
「やっぱ倍率高めだし、考えるべきだったかって思っちゃうけど……信じるしかないかぁ」
「その気持ちは大切。それに私は梨花といっしょに同じ学校通いたいよ?」
「うわ、それちょう心にくる。結望はやさしいし、小動物みたいで可愛いから高校でも癒されたいなぁー。物騒なことは言わないでよー」
「うん、ちょっと近すぎ」
元気付ける隣の女子に、抱き着こうとしているは前髪をそろえた女の子。
朝からいちゃついてるのはこちらです。そう話に夢中となっている人間に届かなければ準備をし、リュックは後ろのロッカーの上へと置いておく。
しばらくすれば、登校する生徒も増えていく。
いつ訊こうか。先延ばしにすればどうせと思い、隣の頃合いを見ては声を掛ける。
話を真剣に聞いてくれる。そして、異性についての話は異性に解答を求めたほうがいいだろう。綾人としては話しやすい女子のため、ふたりから訊いてみることに。
「あのさ、ふたりに相談があるんだけど、いい?」
「いいけど……どうしたの?」
ふたりはきょとんとした顔で綾人を見ていては、何の相談かと聞き耳を立てる。
綾人としてはひとつ。電車の中で考えていた言葉をそのまま伝える。
「女の子に笑ってもらえる、接し方を教えてほしい」
目を逸らさず、真剣な面持ちで綾人は訊いた。
仲良しふたりは目を合わせれば、思い出したかのように声を揃えて言ってくる。
「「シスコン?」」
「全然違う」
「となると──」
「えっ!? 彼女できてたの!?」
そう大きな声を上げたのは、聞いてくれていたふたりからではない。
ひとつ後ろの席の人物である、教室の出入り口でぶつかりそうになった女子であった。
どうしてもう戻ってきたのか。手に持っている色紙を目にしてもなにもわからないが、最悪なことだけは理解できる。
大声で誤解を招くようなことを言うんじゃないと。
「あ、ごめん、先生向けのやつ書いといて、見つからないように。──で、三原の彼女、誰なの……?」
「女の子にって誰? このクラスの人?」
「変に騒ぐな。それに彼女じゃないし、そういうのじゃない」
やってしまった、大声を出した女子は声のボリュームを抑えて再度訊いてみるも、綾人は否定。訊き出す隣の席の女子に対しても同様であった。
周囲の視線が突き刺さる。
目を向けることはない。特に、男子からの視線には要注意。誤解を生みたくはないので冷静に対処する。
「三原、女の子にって言っておいて逃れると思ってんの? みんなの注目を浴びておいて、それはないでしょ。ほら言え言え」
「注目させたのは秋原の声だろ」
「それはめんごだって。ていうより、好きな人ができたんでしょ? 誰か言ってみなぁ」
「秋原待て。まずは同じ男である俺たちから訊こうか」
「そうだ、綾人。女子ではなくて俺たちに話せ。誰を狙っている」
後ろの女子からのダルがらみが来れば、男子たち数名がノリよく綾人の席へと来ては、腕組みをしている。
(面倒すぎる……)
苦々しい表情を見せてしまう綾人は、どうこの空気を収束させるべきなのかと考え始めた。
別にそうじゃないと言いたいが、男女共通、訊いてくれそうな空気ではない。
ただ、時計へと視線を移せば、もう少しでチャイムが鳴り読書の時間。このままのらりくらりと時間を潰せば問題なさそうであった。
『綾人に彼女ができただとー!!!?』
しかし、綾人にとって最悪なケースへと持ち込まれてしまえば、事態の収束は遠のいてしまう。
廊下からであった。男の叫び声が教室にまで響いてきては、今度は叫んだ人物が勢いよくこの教室へと乗り込んでくる。
そして、迷うことなく真っ先に綾人の席へと駆けつければ、両肩をがっちりと掴んでみせる。
その人物は、クラスは違えど、綾人の友人。成績優秀な小うるさい人物であった。
「おい、綾人! お前いつの間に彼女ができていたんだ! できたら俺に教えてくれよ! 俺たち盟友じゃないのか!?」
「久喜、邪魔しないで。私たちが聞いてるから」
「日暮結望、俺にとって大切な事件が巻き起こってるんだ! 譲れるわけないだろ!」
「あんさぁ、どうして一組のあんたが六組の話聞こえてるわけ?」
「赤い糸で結ばれてるから」
キモ。そうクラスの女子のほとんどが、蔑むような声音で口にしたのだが、言われた本人は気にしていない。傷つくどころか、周りにどう思われてもいいと必死な表情であった。
やいやい言ってくる彼から、綾人は視線を外していると、偶然目が合った。
それは担任の先生であり、うるさい友人に対し冷たい視線を送っていては、彼の後ろで顎を突き上げ、見下ろしている。
「──てか、話が聞こえてきた。『三原に彼女がいたとかで六組が騒いでるらしい』って。で、綾人! 好きになったでもいいから教えてくれ! 俺がお前の盟友として見定めてやる! ろくでもない女だったら即座に止めるぞ!」
「聖介、後ろ」
「んなもん気にするな、最初から気付いている! こんな婚期を逃がしそうな人間のことは忘れて──死ぬ死ぬ死ぬ死ぬ死ぬ!!」
肩を掴まれてしまえば、握力により潰されそうになっただろう。
六組の担任は保健体育を担当している、女性教師であった。
「久喜、早く自分のクラスに戻れ。ここは六組、勝手に教室に入るな」
若干呆れ顔である担任の先生は、腰に手を当て注意する。
悪びれる様子もない友人は、先までの必死さが消えてしまえば、すん、とした静かな表情へと変わっていた。
「先生、質問です。勝手に入ってはいけない理由はなんでしょうか?」
「組織として、決められたクラス内で仲良くできるようになりなさい」
「なにそれ、軍人思考みたいな。それにクラスはあと少しですよ、先生。よし、綾人。話しの続きを──あ、綾人ーーーー!!」
連れて行かれた友人にさよならと手を振れば、一旦の落ち着きを示すことになる。予鈴が鳴れば、免れることができたのであった。
ただし、結局のところ聞けず仕舞い。ちょっとした騒ぎになったのは、自分の言い方も悪いかと思う反面、どう訊くのが正しいのかと頭を悩ませた。
目の前に広げた小説。その内容が頭の中に入ってこなければ、隣から小声で話しかけられる。
「さっきの話、放課後なら少し聞くよ?」
「まじ?」
「うん、いろいろお世話になってるから」
「……ありがとう、それは助かる」
彼女の提案に有り難く乗っからせてもらうと、今度は背中を突っつかれては振り返る。
あたしも乗りまっせ……! そう言わんばかりの表情には呆れながらもお願いしますと、頷くように伝えるのであった。
二件のブックマーク、ありがとうございます<(_ _)>
気付くの遅くて申しわけないです。ほどほどに頑張らさせていただきます




