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14 伝えられた彼




 眠たい。暖かいパジャマを着て、ローベッドの上で横になった綾人は、大きな欠伸をした。


 明朝に起床して英単語の確認。そして受験──ではなく、まさかの二度寝をかましてとおバカなことをしてから公立受験に挑めば、帰って来れば高校三年間、この家に住むかもしれないと言っている遠い親戚がやってくる。


 私立の受験ならギリギリになっていた時間帯である二度目の起床は、歩奈といった神の子のおかげで救われた。彩乃にはおむすびを口に突っ込まれ、多少はお腹が満たされた。

 そのような一日から始まった一昨日から日曜となる今日まで、宮代そよいと過ごす日々は様々な感情が浮き出ていた。


 初めは混乱した、続いて調子に乗ってる親に怒りを持ちつつ、彩乃や歩奈が仲良くしてもらっている姿を見れば、安堵を覚えた。彩乃がかなり食い気味で話していれば、土曜日は食器をふたりで洗いながら、妹の声音は弾んでいた。


 たったの三日、時間にすれば一日ちょっと。彼女が家に泊まり、印象が変わっていく。


 最初は静かな人物。悪く言えば暗い人物。

 いきなり心を開いているのはおかしなことだが、話しかけづらく、どこか掴みづらい印象。


 本音で話しているのかもわからず、本心が見えてこない。抑揚があまり感じられない声からもそう感じ取ってしまい、全ての行動に悲観的であるかのような、そんな声音に表情であった。

 掛けてくれる言葉にやさしさは見えていたので、本当に住むことになったら大丈夫だろうか、自分がストレスの原因になってしまうのではないのか、そう心配もした。


 だけど、接してみれば変化する。

 散歩の時や夕食の準備を手伝ってくれると、訊いてくれたり返してくれたりと会話は問題なく、少々言い返したりもしてくれる面白い人であった。


 端から見るに、警戒もされているだろうと思っていたため、彼女と話せてよかった。


 驚いたことがあるのだとすると足が速いこと。陸上部を少しだけとは言っていたが想像以上であった。

 おそらく、まだまだ余力を残していたのだろう。短距離走をメインに部活では練習していたらしい。あっという間に距離を離されていた。


 別れ際、多少は踏み込みすぎていないかと不安になった。

 散歩から帰宅した玄関でのやり取りで、笑みを見せることがなかった彼女。楽しいと思ってしまったばかりに自身が調子に乗っていたのではと後悔し、謝ろうと決めていた。


 それでも、食事の時もそうだった。

 仕草だけではなく、言葉でも伝える彼女は相手のことを考えているよう。

 そうするのは併せてとなるだろう。笑うことが苦手、伝えられた言葉からは重みを感じられた。


 暗闇の中、ベッドに寄りかかるように倒れ込んだ、何かに縋るような体勢。その時の彼女の姿を思い出せば心が痛む。


 彩乃と話しているときも笑っていない。表情の変化も無いに等しく、声もあまり変わりはない。それは未波に対しても同様であった。

 こちらが言葉で反撃すれば、ジト目を向けてはきた。顔を真っ赤にしている姿も見て取れた。表情は変わらずとも食事の手も進んでいた。


 表に出すことが苦手、自然と笑うことが難しい。


 どうしてかはわからないが、表情に出にくいのはとても辛いだろう。誤解を招くひとつの要因となりそうであれば、言葉にしてくれなかったら、綾人も勘違いをしていたのは間違いないかもしれない。

 それに話してくれたということは、自覚していては面に出せたらと望んでいると思う。


 少しでも和らいでくれたら。笑顔になってもらえたら。


 それは、少しばかり気にしていた彩乃も、仲良くできたらと今日の夜に話していれば、楽しかったことには変わりないよう。いっしょにバドミントンでも出来たらいいなと、綾人が思っていた以上にそよいのことを気に入っていた。


 何か特別なことをすると可笑しいと思われそう。でも、どうしたら感情が顔に出るようになるのか。そういったことに陥ったことがないため、頭を悩ませる綾人。


 クラスメイトに相談でもしてみようか。流石に直接は言わないが、濁す形で聞いてみよう。

 もしかしたら、解決策ではなく、嫌な気持ちにさせる行動を教えてくれるかもしれない。それは聞いておきたい限りであった。


 少し頭を過るは、彼女が住まない可能性。

 ただ、それを考えても仕方がない。自分が落ちようが落ちまいがそれも関係ない。……というのは嘘で、母である未波が、払う学費が大きく変わるので合格していてほしい。


 伝えてくれたからには見て見ぬふりはしたくない。安心して生活できるようにしてあげたい。


 別れ際に貰った連絡先。よろしくで止まったメッセージ。


 スマホの画面を眺めていた綾人は、このまま考えていたら眠れない。明日はいつも通りの学校であるためスマホを手放せば、一度忘れるかのように、瞼を落としたのであった。


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