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12 親子の会話




 高速道路へと目を向け、そよいは車内に流れる洋楽を静かに聞いていた。


 あっという間だった二泊三日の別れが来た本日、挨拶をすれば、未波叔母さんにわざわざ家の近くまで送ってもらっている。


 土日祝とお休みの職場らしい。そんな休日の時間を奪ってしまう、そう言ったのだが、お話がしたいやお金がどうのと言われてしまい、勢いに押されてしまえば乗せてもらっていた。


 茅島家と三原家の妹ふたりとは、別れ際に挨拶をすることになっていた。

 温かく迎え入れてくれた。それは誘ってもらった茅島家に、彩乃と歩奈も同じであった。


 そよい自身が迎え入れる立場となっていたとすると、必ず戸惑っていては、あまり話しかけはしなかっただろう。ふたりの生活の邪魔にならないようにと思っていたが、思った以上に話すことがあれば、彩乃に関してはよく話しかけてくれてと馴染めていた。


 人当たりのいい子で助かった。暗かっただろう自身に対して、関係なく接してくれたことには感謝しかなかった。


「どうだった? お泊りしてみて」


 不意に未波から話し掛けられては、助手席に座るそよいは率直に答える。


「よかったです」

「……そっか。モモも懐いてるようだし、茅島叔母さんも喜んでたよ。たまに手噛むときあるか気をつけて、歩奈が一回噛まれて泣いちゃったから」


 未波は微笑みながら口にした。


 横顔を見ているだけでも、本当に三十代なのかと疑ってしまう、ハリのある肌に模られたような輪郭。洋服もお洒落であれば、ネックレスにピアスと、アクセサリーにも目を惹かれる。

 いくらするのだろう。大人ともなれば、やはり五桁はするものを身に着けているのだろうか。


 綺麗だな。そう憧れの視線で未波を見ていると、影響を受けているのが後部座席に座る綾人なのかと、バックミラー越しに覗いてみる。


 髪もセットしてるし、肌は白いし、服も着こなしている。おまけにピアスだろうか。銀色のシンプルなものを身に付けてと、お洒落に気を遣っているのは母親の影響かと思ってしまう。


 彼も同じく車に乗っている。それは、そよいを送り出した後にふたりで買い物へと出かけるよう。母親とふたりは嫌ではないのだろうか、男の子ならとそう思いはした。

 それは、自分ならといった話であった。


「綾人は高校生になったら、やりたいことあるの?」


 暇そうにしていたからか、未波が綾人に話しかけている。


「別に。……しいて言うならバイト」

「もう、それは助かるけど……友達作ったりとか、この行事楽しみーとかないの?」

「別に」


 綾人が素っ気ない返事をしていると、未波は眉間を寄せていく。

 普通の会話ぐらい、してほしそうだった。


「こんな感じで私には何も話してくれないの。そよいちゃんどう思う?」

「えっと……」

「いや、なんで宮代さんに振るんだよ、困らせるなよ」

「学校のことも含めて、何も話してくれないからでしょー」


 いがみ合うかのような話に挟まれては、そよいは少しばかり窮屈になると同時、微笑ましくもなる。

 未波は息子の返答に不満顔を見せるのだが諦めてしまい、笑顔でそよいへと話を振ってくる。


「そよいちゃんは?」

「……わからないです。まずは普通に通えたらいいです」

「そっか。学校の中で見つかったらいいね。一度限りの高校生活なんだから、勉強も大事だけど楽しまないと。叔母さんなんて、遊びに遊んだんだから」

「例えばって聞いてもいいですか?」


 未波の言葉に気になったそよいが訊くと、彼女は思い出すかのように話してくれる。

 その表情は、懐かしい出来事を振り返るように笑っていた。


「学校行事はもちろんだけど、友達の家にお泊りとか、日帰り旅行にも行けば、髪色も変えて遊んでたかな。体育祭も文化祭も全力だった。先生には怒られたけどね、友達と一緒になって。それもまたいい思い出」

「……やんちゃしてますね」

「そうね。ただ、やんちゃはしてたけど、周りの迷惑にはならないよう心掛けてたよ。しっかりと礼節は弁えて行動はしてたかな」

「宮代さん、母さんやんちゃどころじゃないから。他人には迷惑かける子じゃなかったらしいけど、高校生で朝帰りしたりとか、夜中に帰ってきたりとか、学校サボったりとか、不審者が近くに居るようなこともあったとか、いろいろ凄かったらしい」


 綾人が割って入ってくれば、その内容を耳にしたそよいは、不良なのかと口を結んでしまう。


 たしかに想像できそうであった。未波の雰囲気からして、抑揚のある明るい声音にお洒落に気を使っている姿は、放課後も友人と遊んでいたのだろうと伺える。

 服装も気崩してメイクもして。人の迷惑にはならない程度に、校則違反をしていたのだろう。それはクラスでも目立っていては、注目されていた人物かもしれない。


 そのような想像ができる未波には少しは訊いてみたかった。

 周りと上手くやっていけるようなコツを知りたくはなった。


「どうしてあんたが知ってるの。それに不審者って何の話?」

「インターホン越しだけど、母さんの後ろに男が居たって話。祖父ちゃんが言ってたぞ、応答したら男がそそくさと逃げたって。『元気も良いし、勉強はできてたから良いけど、どうしてあぁなってしまったのかなぁ』て、困った顔しながら教えてくれた」


 彼の言葉からは、未波は口を閉ざしてしまい、そよいは心の中で苦笑いを浮かべてしまう。


 実の父から孫に話を通されていた、これが未波にとって共に住むデメリットかもしれなかった。それはため息を吐いては、未波からの表情を見るに余計なことを聞いて、と呆れてもいたようだった。


「だから、彩乃がそうならないか心配もしてた。それも祖母ちゃんも同じこと言ってた」

「あの子はそうはならないでしょ。むしろ、部活以外は外に出ないじゃない。──そよいちゃん、遊ぶのは良いけど、未波叔母さんみたいにはならないでね?」

「どの口が言ってんだよ」

「大人になって反省してるから言ってるのよ」


 そよいからしてみれば、三原家は仲が良いようであった。

 綾人は何も話さない、と未波が言っているも他愛もない会話はしていれば、見守るような自身としては頭が痛んでしまう。


 その後はふたりの会話を静かに聞いていれば、相槌を打つ程度。

 見慣れた街中を目にすることになって来ると、少しばかり、緊張した面持ちへと変わっていた。


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