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11 近づく距離




 帰宅早々、手を洗い、喉を潤すことができたそよいと綾人は、少し休んでいた。


 肌寒い気温、着こんだ服装。そんななか走ったため、体の中は汗ばんでいては、一度シャワーも浴び下のインナーなども洗濯機で洗うことに。

 時間が経てば互いに部屋の中で干してしまってと、その頃には時間帯が昼頃となっていた。


 その時間帯となると、訊いていた通り元気な彩乃が部活から帰って来ては、綾人が昼食を作ってくれ、のちに三人でゲームすることになる。


「はい、座ってください」


 提案した、というよりは自身と遊びたいと口にした彩乃が、立てかけられたテレビの近く、円型のカーペットへと座れば笑顔で呼びかけてくれる。


 会って一日。流石に気に入られているというわけでは、ないと思うそよい。

 だけど、昨日の晩御飯での会話、姉が欲しかったという話を思い出せば少し心配にもなる。彼女が理想とする姉のような存在が、家に来たのかというところ。


 無意識に責任感というものが生まれれば、期待外れと思わせないように付き合おうかと、少しは意気込んだ。

 誰しも最初が肝心だ。中学の滑り出しは別の方向で注目されてしまったが、仲良くなれるチャンスは掴む。変わるきっかけの予行練習だと思って。


「彩乃。これ、テレビのどこに挿せばよかった?」

「え、ここじゃない?」


 ゲーム機本体を持ってきた綾人であったが、あまり理解はしていないようで、彩乃が手伝っている。


 持ってきたのは今どきの最新ゲーム機ではないようで、かなり古めの機体。多少はゲームをしたことがあるそよいにとって、古いゲームで遊ぶのはある意味新鮮かもしれない。それに遊んだことのないゲームであった。


「お兄ちゃん弱い」

「うるさい、まだ練習だろ」


 彩乃が大きなゲームパッドを持ち、そよいと彼はリモコンでの操作を試みる。


 遊んでいるソフトは、各キャラクターのゲームコンセプトに合わせた十二種類のゲームが遊べるもの。今は惑星を舞台としたシューティングゲームで、操作方法を覚えるところからであった。


 今は互いに打ち合ってと練習中の模様。

 そんななか、彩乃がよそ見をしながらも操作し、なぜか謝ってくる。


「宮代さん、ごめんね、最新のゲーム機じゃなくて。うちこれしかないの」

「ううん、楽しいよ」

「……それならよかったです」

「おい、さらりと俺を倒すな」


 ゲームパッドを持っている彩乃が敵であっては、ライフが三つあった綾人は戦闘不能となってしまった。


 綾人はゲームがあまり得意ではないようで、時折コントローラーを見ないとボタンの位置を忘れてしまうよう。

 対するそよいはもう慣れてしまった。何事もそつなくこなせる彼女は、ゲームもお手の物。初めて触るコントローラーだが、彩乃に教えられた操作方法をすでに覚えてしまっては、頭と連動し手も追いついていた。


 それは彩乃とコントローラーを交代しても変わらずであった。


「痛いたいたい」


 彼は無防備にも姿を現し、背中を見せていた。そこを標準合わせて連射。ライフをひとつ削り物陰に隠れてと、再度彼を狙ってしまうと回避アクションを起こさせる前に、もうひとつライフを削ってしまう。


 流石に狙い撃ちは可哀そう。彼が攻撃できるように姿を現して見れば、彩乃からの攻撃は来なかった。


 どうしてかと思い、彼女へと視線を移すと、笑っている。

 これでは一番の年上は彩乃であり、下は綾人ではないかと心の中でそよいも笑ってしまう。彩乃もやはり長女というべきか、歩奈と遊んであげる際は手加減をしてあげているのだろうと思った。


 ゆらゆらと浮遊する機体を操るそよいは、彼の表情を盗み見る。


 目を細めては真剣な表情。頑張って狙っているけど、物陰に隠れてしまえば攻撃は当たらない。

 イライラする姿を見せているのか。

 全くもって違う。口元を結んでいては、諦めずに敵であるそよいを探し続けていた。


 隣にいる彩乃は彼に提案して見せては、指差しまでもしている。

 ふたりの姿を見ていると、表情が豊か故に少し羨ましいと思ってしまう。


 だけど、そよいの心の中も似たようなもの。小学生になったばかりのころを思い出せば、心の中も温まる。数少ない友達と遊んだことを振り返れば、こうして誰かと遊ぶことに笑みが零れそうになっていた。


「よし──やばいやばい」


 視線を俯かせ干渉に浸っていると、ダメージを受けたようでライフが一つ減っていた。

 綾人が命中させたようだが、そよいは体が反応するがまま連射。回避アクションを行いながら彼に近づくと、がら空きの背中を狙って止めを刺した。


「なんでそんなに上手いの宮代さん」


 少しの間ジト目を向けてくる綾人は、悔しそうに口にした。


「ゲームはしたことあるから……。それに、私の視点からだと居場所が丸見えだから、遮蔽物にちゃんと隠れるようにしたらどう?」

「そうだよ。お兄ちゃん顔出し過ぎて無駄に被弾してる。あと、上にワープするのも使わないと」


 けらけらと笑ってみせる彩乃は、スムーズに操作しながら綾人に見せつけている。彼は顔を顰めながらも妹の操作を見ていれば、その顔が面白かったそよいとしては笑顔でいられる。

 もちろん、顔には出ていなかったが、笑うことに対し不快に思うようなことはなかった。





 操作方法も覚え、慣れてきたら協力して敵を倒すことに。

 三人の助け合いが必要となっていては、操作が不慣れな綾人をそよいと彩乃が引っ張っていく。


 敵であるエイリアンも様々。ボール型の敵は近くに来たら体当たり、宙に浮く敵は風を巻き起こしては攻撃、人型をした敵は左右の手から光線銃を放ってくる。

 どれも弱点である色のついたマークがあるのだが、ステージが進むごとに一度で倒すことができず、何度か弱点である部分を攻撃しなければいけない。


 三人は声を掛け合って敵を倒しながら、並行してミッションも達成していく。


 自ずと距離も近くなってくる。名前を呼ぶときも、少しは躊躇うこともなくなった。


「なんか攻撃されてんだけど、どっから来てる?」

「それ私」

「おい、ダメージにならないだろ。──今度は?」

「私じゃない」

「……宮代さん?」


 多少の悪ノリもしていれば、自ずと言った感じではあった。

 彩乃が意地悪する理由はなんとなくわかる。先のモモの散歩もそうだが、彼を弄ぶのは少しばかり面白い。それに、そう思わせる何かが彼にはあった。


 綾人のジト目から視線を逸らしていれば、彩乃も笑っている。それに距離は話しかけるものだけではなく、自然と彩乃が身を寄せている。


 ボス戦は幾つか挑戦した。多少は躓くようなことがあったけれど、苦労の末に最後は綾人が止めを刺し、何とか協力して倒すことができた。


「終わったー」


 彩乃が達成感から伸びをしては、そよいも一息ついた。

 テレビの端に映る時間を見ればもう十五時を回っている。楽しい時間はあっという間に過ぎていれば、久しい感覚にどこか落ち着きがなく、そよいの中にはそわそわしている自分がいた。


「お菓子でも食べて休憩するか」


 立ち上がった綾人がそう言えば、準備をしてくれては手を洗うことに。


「モモは起きてるよね?」

「流石に昼寝から起きてるだろ。水は用意してたからケージの中で遊んでるけど……どっちかにしろよ」

「じゃぁ、しふぁいってふる」


 早速、綾人が出した煎餅を口に加えた彩乃は、一階へと急いで降りていく。

 ゲームを機を直していない。そう綾人が再度席を立つと、そよいも手伝いながら片づけることに。


「宮代さんってゲーム上手いほう?」

「……どうだろう。久しぶりに遊びはしたから」

「久しぶりか。まぁ、受験で机に張り付いてたか」


 苦笑する綾人も、勉強を頑張っていたと聞く。それもちょうど一年前の話にはなるのだが、同じ公立高校を受験すると聞いていたため、毎日勉強に明け暮れていたことだろう。

 ゲーム機を片付けながら、綾人が受験で難しかったところを聞くと、共感できるところもあった。


「良い息抜きにはなった?」

「……うん」


 小さく頷くそよいとしては、良い息抜きといった範疇は超えていた。今となっては、もう少し泊まらせてもらいたいと我儘も出てしまうほどに。

 このまま日曜日も泊まれば、月曜日の学校は確実に間に合わない。もう少しで卒業するとはいえ、遅刻するわけにはいかないだろう。親には迷惑をかけてしまう。


 ふと、綾人から視線を感じ取る。

 彼の表情というわけではなく、その視線から感じ取れるものは、どこか一歩引いているような気がした。


 周りの視線には敏感であった。自意識過剰ではないと思っている。突き刺さる視線は除け者の様な扱いで自然と距離を取っていれば、そよいからはなにもアクションは起こさず静かな日々を送っていく。


 彼が口にした言葉は、気にかけているようなことであった。たった一日でも距離が近くなってしまえば、気付いてしまったのかもしれない、自身の表情があまり変わりないことに。


 気遣いができる人間だと感じられる。冷静になってきた今なら、抑揚のない声に変らない表情は、本当に楽しんでいたのかと心配しているのか、迷惑をかけてしまったのかと、彼を追い込んでいるかもしれない。


 考え過ぎだろうか、頭を悩ませてしまうそよいは一度俯いてしまえば、


「宮代さん、お菓子食べ終わったら夜ご飯の用意だけ手伝ってもらっていい? 一階で机とか食器用意するから」


 変わらずに声を掛けられる。


 表情も特段変わっていなければ、今の彼からは何も感じられない。それはお菓子を食べている際は、互いにテレビへと視線を移していれば、他愛もない会話を彼が広げてくれる。


 時間が経てば、帰ってきていた茅島家に未波と歩奈も含め、みんなで食事をすることに。一階ではモモとも少し遊び、人が集まれば温かい食事を今日も迎え入れることになる。


 高校受験お疲れ様。そう言った意味合いで開かれた晩御飯は、後に茅島家からシュークリームを頂くことになってと、幸せを感じられたそよいであった。


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