CASE35 I&S式尋問法
下手人はクーノであった…その真意は?
「く、クーノ君…なぜ…?」
キーファは小さな体を揺らしながら2,3歩下がると左胸に刺さったままのナイフを掴み、膝をつく。
「あの新入りたちと一緒になっていろいろ探ってるみたいだったからな。消えてもらおうとな」
クーノがじわりじわりとにじり寄る。
「…今までその悪意を感じられなかったよ…。どう隠していたんだい?」
下卑た笑いを浮かべながらにじり寄るクーノに対し、キーファが問いかける。
「まあ、あんたが読んでいたのは本の中身ではなく表紙と最初の数ページだけ…。とでも言っておこうかな?読まれても問題ない当たり障りのない事ばかり考えていた…それだけだよ」
血反吐を吐きながらクーノを睨むキーファの問いかけにクーノは淡々と、へらへらとした笑みを浮かべながら答え、キーファに刺さったままのナイフを掴む。
「ぐぅ…」
クーノがナイフを引き抜くと、間欠泉のように鮮血が噴き出し、キーファは倒れ込んだ。顔色からは血の気が引き、まるで紙のように白くなっている。
「さて、ほっといても死にそうだが…トドメをくれてやるか…」
クーノがキーファに向けてナイフを振り下ろそうとしたその時。
「キーファさん、クーノさん、いますか?」
「入りますよ…」
ルチナとルドルフの声と、倉庫に足を踏み入れる音が鳴り響く。
「あの声は…あいつらか…厄介だ。ずらかるか」
クーノはナイフを振り下ろす手を止め、ナイフを捨てて窓をたたき割り、その場から出ようとする
「き、キーファさん!」
クーノが割った窓から出る前に、ルチナとルドルフがキーファのもとにたどり着いた。ルチナはぐったりするキーファのもとに駆け寄る。
「ルチナくん、キーファさんに応急処置を頼むよ。僕はこの下手人を」
ルドルフはルチナに癒しのベルを手渡すと、クーノをその場に組み伏せ、腕を普通なら曲がらないであろう方向に曲げようとする。
「こ、こいつ、力強っ!?」
「抵抗はやめることだ。折るよ?殴るけど」
「ぐあああっ!?」
ルドルフに対して抵抗などできず、クーノは気絶させられ、連行されていった。
*
「ふむ、こいつがそうなんですね?」
「ああ。今から尋問をしようと思ってね」
「ならば、I&S式尋問法をやってみましょう。とりあえず、身包みを剥いで手足縛って樽の中に押し込んで…」
クーノを確保したルドルフはチェルシーの提案により、I&S式に基づいた尋問を行うことにした。
「本来ならば獰猛な大ザリガニを何匹か入れて、口を割るまでズタズタにされるか、それでも割らないなら数日かけて骨を残してザリガニの餌になるまで放置するかですが…ザリガニがないのでとりあえず口を割るまで何かしらの痛い目を見てもらいましょっ」
チェルシーがにこやかに宣言する。顔は笑っているが、底しれない圧を感じる…。
「わーお、えげつないね…それで、知ってることなどあればすべて話してもらうよ」
「ぐっ…」
地下室に連行されたクーノは身包みを剥がされ、手足を縛られて樽のなかに押し込まれた。クーノの入った樽はルドルフ、セリア、ミミ、チェルシーに取り囲まれ、その様子をアストリッドが見つめている。
「……」
「チッ」
クーノは無言を貫く。その様子を見たセリアは舌打ちをすると、ドラム缶を思い切り蹴飛ばす。
「がああああ!?」
ガシャンと派手な音を立ててドラム缶が転がり、裸で手足を縛られたクーノが床に投げ出される。
「キーファさんを刺した時点でもうクロなんだよ?黙秘を貫く意味があると思ってるの?」
「…」
セリアが杖でクーノの顔を突きながら圧をかけるも、まだクーノは口を割ろうとしない。
「セリア、僕が割らせてみせよう」
「な、なんだ、離せ!なにを…」
ルドルフは喚くクーノを再びドラム缶に押し込む。
「セリア、ルカス君を出してくれ」
「うん、わかったよそれじゃ、出番だよ、ルカスくん」
セリアは懐から竹筒を取り出すと、ルカスを召喚した。
「ふふん、久々出番だよ〜」
竹筒から現れたルカスは大きく息を吸い込む。
「それで、お兄様、ルカスくんをどうするの?」
「ああ、ルカスくん、ヤスリアリクイになってくれるかな?大きくて、舌がチロチロしててザラザラしてるあの魔獣」
ルドルフがルカスにアリクイの威嚇のしぐさを見せつつ説明する。
「うん、わかったよ、ええと、こうかな」
ルカスは空中で一回転すると煙に包まれた。煙が晴れると、そこにはヤスリのようにザラザラとした舌をチロチロとさせた大きなアリクイに化けたルカスが居た。
「この舌の具合、まさに荒目ヤスリといったところか…」
ルドルフがヤスリアリクイと化したルカスの舌を指でなぞる。
「…っ!これは効くぞ…ルカス君、その舌で軽くクーノの舌を舐めてみてくれるかな」
「わかったよ、ルドルフ。それじゃ下手人さん、お仕置きの時間ですよ〜」
ルカスはいつもの決め台詞とともに舌を伸ばし、クーノの胴体にザラザラとしたを這わせる。
「をあああああ!?」
唾液でべっとりとしたうえにザラザラとした舌を這わせられる不快感にクーノが情けない声をあげる。
「どうだ、口を割る気になったか?」
不快感に悶えながらルカスに舐められ続けるクーノをルドルフが見下ろす。
「言ってたまるかよ…言ったら…」
「よし、ルカス君。次は強弱をつけてやってみよう」
「わかったよ。ほら下手人さん、覚悟してださいね〜」
ルカスはその長い舌で強弱をつけつつ舐め始めた。
「ぐっ、あがああああああ!?」
弱く舐められると言いしれぬ不快感が、強く舐めらると皮膚や肉を削られるような痛みが走る。
「どうだ、痛いだろ?口を割る気になったか?」
「い、言える、か…」
痛みに悶えるクーノをルドルフは見下ろす。クーノはなおも口を割ろうとしない。
「よし、第2弾だ。マリーも擦るんだ、いいね?」
「きゅむ!」
ルドルフはマリーに目の荒い鉄ヤスリを手渡すと、ドラム缶の中に入れた。マリーはルカスとともに強弱をつけながらヤスリで擦り始める。
「っ…!気持ち悪い!痛い!気持ち悪い!痛い!痛い!」
削られていくうちにだんだんと皮膚が剥がれ、肉にまで達する。その痛みは常人には耐えられるようなものではなかった。
「く、口は割らないからな…っ!」
クーノがふと上を見上げる。そこには、毒液が滴る毒針を構えたルドルフ、指先にかまいたちを纏ったセリア、鋭く尖った氷柱を持ったチェルシー、鋭い爪と牙を剥き出しにするミミが無言で取り囲む姿があった。
「っ!」
このまま口を割らなければルドルフたちにに一思いに殺されるか、ルカスやマリーにじわじわと命と体を削られるか…。
「わ、わかった!言います!言います!」
クーノが観念すると、ルカスとマリーによるヤスリ攻撃が止まった。
「はあっはあっ…で、では話しますから…」
観念したクーノは話し始める。クーノが話した内容はこのようなものだった。
・ウルゴス帝国で売れない錬金術師をしていたところ
、生命の石を高く買い取るとアンドルフから持ちかけられたこと
・エーデル財閥に潜入したのは研究のための素材が豊富にあったことからと、アンドルフからの指示だった
・研究の真意などはほとんど何も知らされていなかった
「知っていることはこれで終わりだな?」
「は、はい!全てを吐き出しました!だから殺さないで!?」
洗いざらいをぶちまけたクーノはドラム缶の中でへたり込む。
「ふむ。では、素材を盗み出したこと、キーファさんを殺そうとしたこと。罪は償っていただきましょうか」
アストリッドは立ち上がると、クーノに対し淡々と告げる。
「は、はい…」
拷問により精神的にも肉体的にも傷つき、疲弊したクーノはそう頷くしかなかった。
「ではボクたちが王城へ連れていきますね。ほら下手人!城へ行くよ!」
「げふっ!」
「連れていったらまた来るね」
チェルシーはドラム缶を蹴り飛ばし、身包みを剥がされ手足を縛られたクーノをミミとともに担ぎ上げ、連行していった。
「あっ!せ、せめて服を着せてくれええええ!」
手足は縛られ、隠したいところも隠せないままクーノはあえなく御用となったのであった。
「ぷぷぷ、みっともない姿…」
セリアはそんな姿を見て笑いがこらえられない様子だった。
「…ふむ」
クーノのみっともない姿に笑いをこらえられないセリアに対し、ルドルフはなにか考えこんでいる様子だった。
「あれ、お兄様、どうしたの?下手人は捕らえたし…まだなにか引っかかることがあるの?」
「ああ。お前にはまだ話していなかったな。あの時な…」
ルドルフはセリアに対し、エリーゼ先輩が魔物に変えられたこと、クーノを差し向けたであろう錬金術師、アンドルフのことを話した。
「そんなことが…先輩…」
ルドルフから聞かされたことに、セリアもショックを隠せない様子であった。
「ああ…なんとか元に戻す手立てがないか…探さなければならないな…」
ルドルフが考え込んでいると…
「あの館のことは覚えていますか?ウルゴス帝国の錬金術師と同じような研究が行われていたという…」
「ええ。…あまり思い出したくはないですが…」
アストリッドの言葉にルドルフが青ざめる。頭にあの奇妙な館での出来事がフラッシュバックする。
「あの館から押収された資料などは王城に保管されているそうです。もしかしたらそこに変えられた人を戻す手がかりがあるかもしれませんね」
「そうですね…行ってみるのがよいのかもですね」
アストリッドからの言葉を受けたルドルフはこくりと頷く。
「それと…やはり、奪われた素材を追うためにもウルゴス帝国に行く必要はありそうだね…」
「そうだな…それもまたいずれは…後ほど計画を練ろうか」
ルドルフとセリアが今後のことを話していると、アストリッドが2人に向けて深々と頭を下げる。
「下手人であるクーノを見つけ出し、捕らえたこと感謝申し上げます。ここからもやることがあるならば、助力は惜しみません」
アストリッドからの申し出に対し、2人は違った反応を見せた。
「いえいえ。まだ依頼は遂行したといえませんし…」
あくまで謙遜した様子のルドルフに対し…
「それじゃあ依頼料、下手人捕縛代と別に素材捜索代も請求します…あだぁ!」
にやにやしながら手のひらをアストリッドに向けるセリアの両頬はルドルフによりつねられた。
「あはは…とりあえず、今作りたいものの素材は揃ったし…まずは調合に励みたいかな…さて、今日はもうHQに戻るぞ、セリア」
「ひゃい…」
頬をつねられたまま、セリアはルドルフによりHQへ連れて行かれたのであった…
*
その頃、チェルシーとミミはクーノを連れ、ヴァルト王国の王城へたどり着いていた。
「ジゼルさん、I&S、帰還しました」
「チェルシーさん、ミミさん、その男は?って、どうしてその男は裸なんですか?」
王城の門の前で刀身に獅子の紋章が刻まれた大ぶりの斧を背負い、鉄兜を被りプレートメイルを纏ったプラチナブロンドに緑色の瞳が特徴的な女性…王城の門番、ジゼルがチェルシーとミミを出迎える。
「ええ。例の件の下手人を捕縛しましたので。陛下はいますか?」
「はい。とりあえずこの男はどうしましょうか」
「とりあえず…まずはいろいろ調べることはありそうなので、投獄して身柄を押さえようかと…」
チェルシーはそう言うと、クーノを城内へ運んでいった。城門の近くの茂みががさりと動く。
「キヒヒッ」
茂みから飛び出したのは、白い布を被ったゴーストだった。ゴーストは茂みから飛び出すと、そのままどこかへ向かっていった。
*
「ふむ…戻ってきたみたいだね」
その日の夜、ウルゴス帝国の王城にて…。月明かりに照らされた暗い一室に佇み、右腕を掲げるリズの元に一体のゴーストが飛びつく。
「どうかな?ふむ…ああ、クーノ、しくじっちゃったんだね…」
ゴーストに手を触れると、ゴーストが見た光景…クーノがチェルシーとミミにより王城に連行されていく様子がリズの脳内に流れ込む。
「…そうか。それで、どうするんだ?必要とあらばそのクーノとかいうの、消しに行っても構わないが…」
その様子を見ていたギャロンがアンドルフに問いかける。
「ほっときゃいいさ。いつかあっちに攻め込む段取りがついたらついでに殺すくらいでかまわねえ」
アンドルフはコンテナに頭を突っ込んだまま、ギャロンの方を見ずに答える。
「そう…でも、あのルドルフに…セリアだっけ。あれはなかなか厄介そうだったよ」
「ええ…リズちゃんも…腕を飛ばされちゃったくらいですし…」
オスカーが気怠げに両腕を頭の後ろで組みながら言う傍らで、緑髪のおどおどした少女がオスカーの服を掴みながらおどおどと言葉を紡ぐ。その直後、アンドルフは何かを感じたような表情を見せる。
「まあ、そりゃあそうだがよ…。ん、おお、久々に来たみたいだぞ、われらの協力者が」
コツン、コツンと通路を踏み鳴らす音が響いたと思うと、扉の前でその音は止まり、重い扉を開く音が室内に響き渡る。
「失礼するわ」
ドアを開けた人物が月明かりに照らされる。肩まで伸びたシルバーアッシュの髪、頭と胴体を覆う黒い外套、黒塗りの革鎧…。以前便利屋ゼルトザームのオフィスに訪れたウルゴス帝国の錬金術師、ウィルマであった。
「最近そっちの研究が捗っているそうじゃない。それにギャロンたちも…すっかり馴染んだみたいで」
ウィルマはギャロンたちを見回し、妖しく微笑みかける。そんなウィルマに対し、アンドルフが会釈をし、わざとらしく一礼する。
「これはこれは…。我等が協力者にして、闇の錬金党党首の、ウィルマさん…」
さていかがでした?




