CASE32 胸騒ぎ
2週間ぶり投稿となります。今日は内通者の正体が…?
「誰かという目星がついたのですね?」
「ええ、おおよその目星はついています」
ルドルフはアストリッドに内通者が絞れた、という報告に訪れていた。
「それで、誰に目星をつけたのでしょう?」
アストリッドがルドルフに顔を近づけ、尋ねる。
「ええ。錬金術部門のクーノです」
ルドルフが目星をつけた人物。それはキーファからも当たり障りのないことばかり考えている…と称されてもいたクーノだった。
「…それでは、クーノさんに目星をつけた理由も聞かせていただけますか?」
ティーカップの紅茶を軽く啜り、一呼吸おくとアストリッドはルドルフに尋ねる。
「ええ。先日ネーベル高原で魔物に襲われた話をした際に、彼は悍ましい魔物と口にしました。私がどんな魔物に襲われたかも言ってないにもかかわらず…」
「ふむ…どのような魔物に襲撃を受けたか、知っている人でないと口にできない言葉…というわけですね?」
アストリッド補足すると、ルドルフは頷く。
「そういうことです。キーファさんのようにも記憶や心を読むこともできない彼がどうして?と引っかかりましてね」
「たしかに引っかかりますね…あとはどうやって確たる証拠を押さえるか…」
ルドルフとアストリッドは話し続ける。その話を壁越しに聞いている者の影が…
「…あの程度で勘付かれるとは」
壁に耳を当て、一人の男がルドルフとアストリッドの話を盗み聞きしていた。
錬金術部門の錬金術師、クーノ。キーファからは当たり障りのないことばかり考えている、と言われ、センテやラウルからは錬金術の腕前は立つがどうにも関わりが少なく、つかめないと思われていた。
「さて、やつらを始末するにはどうしたものかな…また奴らとコンタクトを取るしかないか…」
クーノは苦々しげにその場を去る。それをある人物が見つめていた…。
*
「さて、傷もふさがったし、明日にでも採取にでも行くかな…」
「わわ、やっぱり効き目すごいですね…」
その日の昼下がり。ルドルフが受けた傷はほぼ塞がっており、すでに採取に赴けるほどになっていた。
「あとは闇コウモリの羽だけど、確か…この近くならどこがいいだろうか」
「ラウルさんなら知ってるかもですね」
ルドルフとルチナはラウルのもとへ向かう。
「闇コウモリの羽?」
「ええ。素材として必要になって…この近くにないかなあ、と」
ルチナがラウルに尋ねるとラウルは地図を取り出す。
「ならここから西にいったところにある真っ暗闇の洞穴に大量に生息しているよ。ほんとに暗いから、なにか照らすものを持っていけ」
「ええ、ありがとうございますっ」
ルチナはラウルに一礼すると、その場を去る。
「真っ暗闇の洞穴か」
「はい、真っ暗なのでなにか照らすものが必要といわれましたが…なにかありましたか?」
ルチナが言うとルドルフは籠の中をまさぐりはじめる。
「カンテラがあるが…心許ないかなあ…。光の魔術が使える人がいれば助かるけども。ともかく、今日は調合に専念するか。あとはまた後ほど」
ルドルフはそう言うと錬金釜の方へ向き直り、調合を始めた。
*
「なるほど、ついに誰が怪しいかの目星はついたんだね」
「ああ…それはな」
その日の夜、HQに帰還したルドルフはクーノを内通者だと判断した理由などを説明した。
「なるほどね…確かに、不自然ではありますね…」
「んう。確たる証拠がまだないとはいえ。一応はマークを強くしておくのはよいかな」
チェルシーとミミが考え込むようにして呟く。
「それと、光の魔術を使える人がいないかなあと。明日真っ暗闇の洞穴へ向かうから…」
ルドルフが尋ねるとミミは手を口に当て考えるような仕草を見せる。
「そうだ、アストリッドさんの護衛のフロッケくん。あの子は雷や光に関する魔法術が使えるみたいだよ」
ミミは護衛のアストリッドの一人である魔法術研究者の獣人、フロッケの名前を挙げた。
「なるほど…それは頼もしい。よし、明日彼についてきてもらうように交渉しよう」
「ん、あの子が抜けた分はあたしたちが護衛するよ」
こうして、翌日はルドルフとルチナが採取に、セリア、ミミ、チェルシーが財閥内の調査とアストリッドの護衛に回ることが決まった。
*
「では、よろしく頼むよ」
「ええ!ぜひともボクにお任せください!」
翌朝、アストリッドやフロッケ本人から承諾を得たルドルフは真っ暗闇の洞穴へ向かおうとしていた。
「それじゃ、気をつけてこいよ」
「ええ、気をつけてきます」
ラウルは暗闇の洞穴へ向かうルドルフたちを見送る。ルドルフたちが見えなくなった頃、見計らうように誰かがラウルに近づいていく。
「ラウルさん、ルドルフさんたちはどうしました?」
クーノであった。あくまで無害を装い、当たり障りのない雰囲気を纏いながらラウルに尋ねる。
「ああ、採取に行ったよ。闇コウモリの羽をとりにいくとかいってたな…」
───闇コウモリの羽なら…何箇所かあるな…転移の結晶が必要な場所か?
「なるほど、そうでしたか、ありがとうございます」
クーノはラウルに一礼すると、その場を去っていく。ラウルはそれを怪訝そうに見つめる。
「ふむ、転移の結晶は揃っているな…では近場…真っ暗闇の洞穴だろうな」
棚に並ぶ転移の結晶を確認したクーノはルドルフの行き先の予測を立てると、懐から自前の転移の結晶を取り出し、移動した。
「…何しに来たの」
ウルゴス帝国の王城に突然あらわれたクーノを気怠げに出迎えたのは黒髪に真っ黒なハイライトのない瞳をしたペストマスクの青年であった。その目はクーノを睨むような目であった。
「まあ、用があっただけだ、オスカー。ルドルフとかいったな?あの錬金術師」
「ああ、リズの腕を切り飛ばした一味のリーダーだっけ…」
オスカーがペストマスクを整えながらルドルフのことを頭に浮かべる。
「ああ。俺がお前らに生命の石や魔物由来の素材を流した件だが…どうやら勘付かれたみたいでね」
「…そう」
クーノを見つめるオスカーの表情がさらに険しいものになる。
「それで、どうするの?まさか、その後始末、僕たちにやらせるつもりじゃないよね?」
オスカーの声色が圧を込めたものに変わる。
「い、いやあ、なんとかやつら、消してくれれば助かるのは…そうだが」
「はぁ…まあ、いいよ。奴らには落とし前は必要。リズの敵でもあるし…」
オスカーはため息まじりに了承の意を伝えた。
「それで、僕も出るけど…他にだれか連れていけるのは…?実験体は何匹かいるけども…」
オスカーがあたりを見回していると、カツン、カツンという足音と、ガラの悪そうな声が響く。
「ああ、それならいいのがあるぜ、オスカー君」
不気味な笑い顔がデザインされた仮面を被り、赤黒いシミのついたクロークを羽織った男…。ウルゴス帝国の錬金術師、アンドルフである。
「いいのが…?」
「ああ。もうひと段階強化を入れるつもりだが…ちょいためしに動かしてみたくてなあ。それに、ルドルフ。あいつを殺すにはぴったりなやつだ…」
アンドルフがニヤつきながらオスカーを実験体の入った水槽がならぶ部屋に連れて行く。
「…こんなに実験体がいるってことは…それだけ悲しんでる家族とかがいるってことだね」
いくつも並ぶ水槽の中には、両手が蛇になり、体の表面は爬虫類のような鱗で覆われた男や、女性ものと思われるよ装飾品が体にくっついた半魚人のような魔物といった異形の魔物が入れられていた。
「ははは、俺は嫌な思いはしてねえからなぁ。それより、こいつだよ、試したい魔物ってのは」
アンドルフがある水槽の鍵を開けると、水槽の中から隻腕の女性のような姿をし、緑色のオーラを全身にまとった魔物が現れた。
「何だよ、こいつは…」
オスカーはその魔物の他にない異様な禍々しさに慄いた様子だ。
「ああ、こいつはほんの5年くらい前に捕まえた素体で作り出したやつでな。秘めた力はあったんだがなかなかうまく引き出せなくて処分寸前だったんだが…ようやくある程度動かせる目処がついたんだ」
オスカーはにやついた声で淡々と説明を続ける。
「知性を残す形で進化させることができたのは初めてだからどこまで動くかはわからないが…まあ死なせることないように頼むぜ?」
「…善処はするよ」
オスカーはこの異様な魔物を含めた数匹の魔物を引き連れ、王城を後にした…。
*
「暗いな。やはりカンテラだけでは心許ないか」
「きゅむ!」
その頃、ルドルフ一行は真っ暗闇の洞穴の探索を始めていた。外からの光の一切届かない黒一色の空間の中、マリーが持つカンテラがぼんやりと光っている。
「わわ…暗いよう」
「ふふふ、ボクにお任せあれ!」
あまりの暗さにびくつくルチナに対して、フロッケは自信ありげな様子だった。
「ドナー・ブリッツ!」
フロッケが魔法術を唱えると、フロッケの左手はバチバチと音を立てながら光り、辺りを明るく照らした。
「さて、いきましょう、これ出しっぱなしだとしんどいですから、なるはやで採取お願いしますね!?」
「ああ、さてルチナくん、闇コウモリのおびき出しだけどね、まず、ああいう暗い通路に石を投げてみるんだ」
「ふむふむ…」
フロッケの魔法術とマリーの持つカンテラに照らされながら、ルドルフはルチナに闇コウモリのおびき出し方を教えている。ルチナは教わった通りに石を投げる。
カラン…カラン…
石が地面を弾みながら転がっていく音が響く。まもなくして、目のない黒いコウモリの群れが突如ルチナたちに群がっていく。
「わわ!コウモリの群れ!」
ルチナは突如現れたコウモリの群れに恐れをなす。
「この場合はね…眠らせる魔法術か…なければ眠り薬を撒いて、動きを止めるんだ。ボヤッとしてたら怪我して血を舐められちゃうよ。…シャーフ・ヴァルデシュランゲ…」
ルドルフの手からリング状の光が放たれ、コウモリはぱたり、ぱたりと落ちていく。
「そうしたら眠ってるうちに羽を引きちぎるんだ。残った体も錬金術の素材になるからとっておくんだ」
「はい。…では、いただきますね、闇コウモリさん」
ルチナは闇コウモリに向けて一礼すると、そのまま羽と体を分けていく。
「よし、これだけあれば足りるかな。よし、戻るよ」
「ボクが先導していきますねっ」
「きゅむ!」
フロッケとマリーが先導しながら、出口へ向けて歩き出す。足元に気をつけながら、一歩一歩踏み出していく。
「さて、出口が見えてきましたよ」
やがて見えてきた出口を抜けた頃…。
「…便利屋ゼルトザーム社長、ルドルフ…」
ハイライトのない黒い瞳をした黒髪とペストマスクが特徴的な青年…ウルゴス帝国の少年兵、オスカーが数匹の異形の魔物を引き連れ、待ち構えていた。
「な、なんだ…」
「リズが世話になったみたいだね。まあいいや…」
オスカーが左手の指をパチッと鳴らすと、後ろに控えていた数匹の異形の魔物が息を荒くして前に出る。
「おお…これはこれは」
「ルチナちゃんとマリーちゃんは下がっててください」
「は、はい!ほら、マリーちゃん…戻るよ」
フロッケに促されたルチナはマリーを連れ、洞穴の入り口近くの岩陰に身を潜めた。
「フロッケくん、奴らは人間が素材になってる。なるべく殺さないように…」
「戻せるかもしれないですからね…わかりましたよっ」
フロッケが魔物に向けて駆けていく。魔物たちはフロッケに向け飛びかかる。
「グギャアアアアアッ!」
「直線的ッ!ホーゲン・ドナー!」
フロッケの指先から放たれた弧状の雷が異形の魔物たちに炸裂する。その一撃で何体かの魔物は倒れ込んだ。
「なんだ、あまり強くはないみたいですね…って、わあ!?」
弧状の雷を食らった魔物のうち、撃ち漏らした魔物が地面にフロッケを組み伏せる。
「グギギッ!」
「っうぅ…!」
魔物はフロッケを組み伏せると、口吻でフロッケの脇腹を突き刺した。脇腹を貫かれる痛みと、血液がじゅるじゅると吸われていく不快感にフロッケが顔を歪ませる。
「油断しました…」
「仕方ないね…でえいっ!」
ルドルフは魔物の背後に回ると、首根っこを掴み、強引に口吻を引き抜いた。
「まだまだ…っ!」
ルドルフは流れるような動きで引き抜いた口吻を掴み、起爆させる。顔を焦がした魔物は蹌踉めき、倒れ込む。
「…やはり、素体がただのチンピラとかじゃ敵わないか。それじゃ…」
オスカーが指を鳴らし、出てきた魔物は今までにない異様な魔物であった。隻腕の女性の影ような姿をし、全身が緑色のオーラで覆われている…。
「…なんだか今までになく禍々しいのが来ましたね…」
「…あ、ああ…そうだね…」
その魔物を見た瞬間、ルドルフは妙な胸騒ぎを覚えていた。魔物はルドルフとフロッケをじっと見つめる。
「るど…ち…ゃ…?」
魔物はか細いうめき声をあげ、ルドルフたちを見つめ続ける。この魔物がルドルフを絶望の淵に叩き落とすことになる…
さていかがでした?




