CASE31 錬金術部門、再調査
情報整理もかねた回になります
グロス、リズと立て続けに交戦したルドルフは駆けつけたセリア、チェルシーに助けられ、エーデル財閥の工房へ帰還し、ルチナによる治療を受けていた。
「わわわ、先生…ひどくやられちゃいましたね」
「きゅむ…」
「はは…まだ僕もまだまだということさ。君と、セリアたちの支えで生きながらえただけだよ」
ルチナはルドルフにポーションをかけつつ会話を交わす。 マリーはルドルフを心配そうに見つめる。
「これほどの傷はポーションだけでは追いつかない。これを使うといい」
ルチナによる治療を見ていたキーファはルチナに角度によって青にも緑色も輝いて見えるハンドベルを手渡す。
「…これ確か先生から貰ったテキストに載ってあった…なんだっけ…」
ルチナは頭の中をぐるぐるさせながらなんとか思い出そうとする。
「癒しのベルだよ。質はそこまで良くないが、このくらいの傷ならばこれがよいだろう。ポーションと併せて使うといい。この傷ならばたぶん明日中には完治するだろう」
癒しのベルとは、鳴らすことで治癒力を活性化させることで傷の治りを早くする…という不思議なベルである。
「まあ、鳴らしてみなよ」
「は、はい」
キーファに促されたルチナは癒しのベルを鳴らす。ベルが光り、シャン、シャンと心地のよい音色が辺りに響き渡る。
「ん…痛みが引いて…」
「きゅむ…きゅむにゃ…きゅむにゃ…」
ルドルフは痛みが引いていくのを感じる。マリーはルドルフに寄り添い、寝息を立て始めた。
「少し眠くなるよ。それと…あまり短いスパンで鳴らしすぎると癒しの波動が効きすぎて頭がおかしくなることもある。6時間おきくらいに鳴らすのがちょうどいい。では、私は戻るよ」
「…あ、ああ、ありがとうございます」
キーファはルチナとルドルフに一礼をする。ルドルフが去りゆくキーファに感謝の言葉を告げると、キーファは片手を上げた。
「なんというか、世話焼きな人ですね」
「ふむう…」
「あれ、先生?どうしました?」
ルドルフの脳裏に疑念が浮かぶ。キーファから教えられた高原に行きルドルフは異形の魔物に襲われ、さらにリズにも襲われ、重傷を負った。
──まさか、あの人は…?
「先生?」
考え込むルドルフにルチナが声をかけた。
「あ、ああ…少し引っかかることがあってだね…キーファさんのことだけど…」
ルドルフはルチナに対して疑念を伝えた。
「確かに…あの場所に行く転移の結晶を貸し出してくれたのはキーファさんですからね…」
「それに、あの場所へ向かう結晶がある、ということは何度も行く場所だからこそと考えられる」
ルチナの言葉にルドルフが補足していく。
「でもそれはハガネグモが群生しているかららだと思うんですよね。現にあの高原は他の採取地じゃ少なくなっていたはずのハガネグモがたくさん居ましたし…」
「そうなんだよなあ…。癒しのベルも本物だったし…」
事実として求めていた素材はあり、その後治療のために癒しのベルを与えてくれたのも事実である。自分たちを始末しようと思っていたとしたらそこやるはずがない…。ルドルフはそのように考えていた。
「んまあ、明日はもう一度調査が必要だな…。残りの素材は完治してからのがよいか…」
「先生、無理しちゃだめですからね。今日はあたしが治療しますから…」
ルチナはルドルフの治療を続けていった。
*
「それじゃ、調査、ですね」
「ああ、軽い聞き込みくらいなら僕でもやれるさ」
ルドルフのルチナは再び工房の面々から話を聞き出すことにした。
「さて、まずはあの人から…」
ルチナはラウルに探りを入れ始める。
「ルチナだったか。なんだ?」
「ええ、いくつか聞きたいことがあって。あたしたちが来てからも材料は消えてたりしてましたか?」
ルチナの質問に対してラウルは
「いや…それはないな。先月に生命の石が手に入ったときに生命の石含めたいろいろな素材が失われた話はしたよな。その時だけではあるんだ。あれ以来生命の石は手に入ってないんだ」
と答える。ルチナは相槌を打ちながら手帳に書き記していく。
「それと気になってたんですが…キーファさんってどんな人なんですか?」
ルチナが続けて質問するとラウルは目を丸くする。
「…ああ、あの人はなあ。前は考古学者のグループに錬いたらしいんだが落盤事故で大怪我をして、フィールドワークができなくなってここに入った…とか言ってたな。元々、発掘した物を修復するために錬金術の心得があったらしい」
「そんな経緯があったんですね…」
話を続けるラウルに対してルチナはこくこくと頷きながら聞き続ける。
「そんなことを聞くなんて…あの人を疑ってたりするのか?」
「い、いえ、そんなことはありませんが、ちょっと気になって…」
ルチナが言うとラウルは苦笑いを浮かべる。
「まあ、なんというか言い回しが小難しかったりして胡散臭さは確かにあるけど、世話焼きで聡明な人だよ。それよりも、お前や…ルドルフは大丈夫だったのか?魔物に襲われたらしいが…」
「ええ、なんとか…ありがとうございますっ」
ルチナはラウルに一礼すると、その場から離れていく。
「次は、センテさんだね。前に聞き込みしたときはあまり良く知らないとか言ってたけども…、素材が失われたことじゃなく、ほかの人のこと聞いたほうがいいかな?」
ルチナは思案を巡らせつつ調合を終えたのセンテの元へ向かう。
「あ、ルチナちゃん、どうかした?」
ルチナに対してセンテがにこやかに声をかける。
「そうだ、ラウルさんってどんな人かなと」
「そうだね…見たまんま、ちょっと人相悪くて高圧的な感じもするけど、とても面倒見がいい人、だよ」
ルチナの質問にセンテが答え始める。その内容に近くで作業していたラウルが複雑そうな表情を浮かべる。
「あはは…褒めてるのか貶してるのかわからないや…それじゃあ、あのクーノとかいう人は…」
あんまりな言い様にルチナは苦笑いしつつ、クーノのことを尋ねる。
「それが、あまりよくわからないんだよね。周りの人ともあまり話したがらないし…ただ、錬金術に関してはすごく詳しいんだよね…」
センテもクーノについてはよくわからないようだった。
「ふむ…核心に迫るようなことはなかったなあ。先生はどうしてるかな」
*
「ふむ。ネーベル高原に住む魔物のこと?」
「ええ、ちょいと不可解なことがありましてね見たこともないような魔物が…」
その頃、ルドルフはキーファに探りを入れていた。
「ああ。少し、失礼するよ…ふむ…」
キーファはルドルフの目をじっと見つめる。キーファの脳裏にルドルフの記憶が浮かぶ。異形の魔物と化したグロスとの交戦、突如襲撃したウルゴス帝国の謎の特殊部隊リズによる襲撃…。
「…なんだこの魔物は…こんなの、見たことないぞ…それに、この少女は一体…」
キーファはその異様な記憶に困惑を隠せない様子だった。キーファはルドルフの記憶を読み続ける。
「そうか…帝国でそんなことが…うっ…」
ルドルフの記憶を読み終えたキーファは頭を抑えふらつく。
「おわっと…大丈夫ですか…」
ルドルフはふらついたキーファを支え、近くの椅子に座らせる。
「ああ、すまないね…最近では読心術を使いすぎると、ちょっと頭がふらつくようになってね…。それで、あの魔物のことだったね?」
呼吸を整えたキーファが言葉を紡ぐ。
「あのあたりは元々人に危害を加える魔物はあまりいない、ましてや人間と魔物を掛け合わせたような魔物なんて…私は見たこともないよ」
「そう、ですか…」
ルドルフが相槌をうつとキーファはおぼつきながらも立ち上がり、頭を下げる。
「私が教えたあの採取場で君たちを危機にさらしてしまった。すまなかった」
「い、いえ、あれは私が弱かったからで…」
ルドルフは頭を下げるキーファに困惑する様子を見せる。これ以上は聞きづらいか…。と感じたルドルフはキーファに一礼すると、その場を去った。
「治療のためのベルを与えてくれたことといい…あの謝罪…奴らと通じて僕を始末しようとしてたならあんなことはしないよな…」
キーファへの聞き込みを終えたルドルフは思案を巡らせる。自分が見たキーファの姿は義理堅く、面倒見がよい好漢であった。そんな人物が自分を始末するために刺客のいる採取場を教えたりするだろうか?ルドルフは訝しんだ。
「さて、そろそろ時間か」
キーファへの聞き込みを終えたルドルフは癒しのベルを鳴らし、治療を始める。前日からベルとポーションによる治療を続け、すでに傷の大部分が塞がっていた。
「おや、あなたは新入りの…」
ルドルフが治療していると、ひょろ長体型に眼鏡をかけた黒髪オールバックの気の弱そうな男…。クーノだった。キーファからは当たり障りのないことばかり考えている、と称されていた。
「ああ、あなたはクーノさん、でしたね」
「ええ。おや、癒しのベルですね。治療中でしたか?」
クーノはルドルフの手の中の癒しのベルを見つめる。
「ええ。昨日ネーベル高原で採取中に魔物に襲われてしまいましてね。大変でしたよ」
ルドルフが答えるとクーノは
「そうですか…大変ですね、あんな悍ましい魔物にやられるなんて…」
とルドルフを労うように言う。ルドルフの眉がぴくりと動く。
「ええ。見たこともない魔物で焦りましたよ」
ルドルフはポーションを塗りつつ答える。クーノはルドルフの周りを見回す。
「ところで、いつも一緒にいたあのホムンクルスの子はどうしました?」
クーノはマリーがいないことが気になるようだった。
ルドルフの表情が少し固くなる。
「疲れたようなので休ませているだけですよ。それに、貴方がマリーの居場所を知ってどうするつもりで?」
ルドルフはクーノに対して警戒を隠せない様子を見せる。
「…いえ、いつも一緒にいたのにと思っただけですよ。では、調合がありますので」
クーノは顔を伏せると、そそくさと去っていった。
「ふむ…一度ルチナくんと情報を共有してみるか」
*
「ふむ…あの2人はやはり聞いたまんまという感じだね…」
「ええ。怪しいところは特になかったかなと」
ルチナとルドルフは合流し、お互いに得た情報を共有していた。
「でも誰が怪しいかはわからないですね…」
足を投げ出して座り込むルチナに対しルドルフは思いもよらないことを告げる。
「…ああ、実を言うと誰が怪しいかは目星はついてるんだ」
「そ、そうなんですか?でもいったい誰が…」
目を丸くするルチナに対し、ルドルフは静かに頷く。
「ああ。ただまだ確信がついたわけじゃない。一度アストリッドさんの所へ報告するよ」
「ああ、先生!?」
アストリッドの元へ向かうルドルフをルチナは慌てた様子で追っていく。果たして、ルドルフが目星をつけたのは…?
さていかがでしたか




