CASE27 潜入捜査 side alchemist
潜入捜査開始、ルドルフとルチナは錬金術部門へ…
「はい、新入りのルドルフとルチナです、よろしくお願いします」
「お、お願いします!」
アストリッドから依頼を受けた便利屋ゼルトザームの面々はエーデル財閥に潜入捜査に駆り出されていた。ルドルフとルチナは件の錬金術部門の工房へ…。
「そんなにもかしこまらなくて大丈夫だよ。私はキーファ、この錬金術部門を纏めさせている者だよ」
白衣を纏い、肩につかないくらいの長さの銀髪でやや生え際が危うく、モノクルをかけ、杖をついた痩せぎすのエルフの男がルドルフとルチナに名乗る。目の下のクマややや重そうな足取り、差し出された右手の震えからはどことなく危うさを感じさせる。
「ええ、よろしくおねがいします」
ルドルフは差し出されたキーファの手を握る。その手からはひんやりとした冷たさが伝わってきた。キーファはルドルフとルチナと握手をかわすと、2人に耳打ちをする。
「君たち、あの件でここに来たんだろう?」
唐突に確信を突いたキーファの一言にルドルフとルチナは一瞬硬直する。
「ええ!ま、まさかそんなことは」
「だめだめ、声が大きいよ。全く、調査に来た人員がこんな簡単に狼藉してるようじゃ、困るんだがね…」
驚きのあまり思わず大きな声を出しかけたルチナをキーファが制止すると、2人を工房の外へ連れ出した。ルチナは大きく息を吸うと、ゆっくりと吐き出した。
「す、すみません…でもどうしてキーファさん、あたしたちが調査に来たと…?」
「アストリッド卿から言伝があったとか…?それとも…」
目的をズバリ当てられてしまったことにルドルフとルチナは驚きを隠せない様子だ。
「はは、そんな大したものではない。私は代々、読心術を受け継いでる家系でね。ある程度人の心が読めるのだよ」
2人の驚きを察したキーファは軽く笑い飛ばすと、自身の持つ特殊な能力について明かした。
「そ、そうなんですか?…で、では」
ルチナはなにかを考える素振りを見せる。キーファはルチナをじっと見つめる。
「今日はお肉が食べたい…そんなところだろうか」
「ええ!す、すごいです!」
キーファはルチナの考えていたことを言い当てた。ルチナは言い当てられたことに感嘆の声を上げる。
「まあ、そういうことだ。それと…私は片手が動かしづらくてね。すまないけど、時折調合の際は時折力を貸してくれるとありがたい。よろしく頼むよ、お二方」
キーファはそういうと杖をつきながらおぼつかない足取りで工房へ戻っていった。ルドルフとルチナもそれに続き工房へ戻っていく。
*
「ふむ…錬金術部門のメンバーは僕とルチナ君を除き4人か」
「このなかに怪しい人たちがいるかも、ですか…」
ルドルフとルチナは作業をしながら錬金術部門のメンバーの動きを観察していた。
「動く魔剣、20個完成、と」
錬金釜に向かい黙々と調合に勤しんでいる、気の弱そうな黒髪オールバックに黒縁メガネが特徴的なひょろ長の錬金術はクーノという。キーファ曰く、ややデリカシーに欠けるところもあるが錬金術の腕前は自分に次ぐ腕前…とのことであった。
「鋼鉄板、ここに置いておくぞ」
鋼鉄板が何枚も入った箱を運んでいた群青のツーブロックにやや筋肉質な強面の褐色肌の青年はラウルといい、キーファに次ぐ古株であり、ポーションの調合に長けているとのことだ。
「ええ、ありがとうございます、ラウルさん」
ラウルに感謝の言葉をかけつつ何かを調合している焦茶色の長髪をバレッタでまとめた少女はセンテといい、新入りながら優秀な錬金術師ではあるが、ぼやぼやしていて悪気なく毒を吐くのが玉に瑕…とのことだ。
「今のところ怪しい動きは見られない、ですね」
「そうみたいだね…」
ルドルフとルチナは錬金術部門の動きを注視し続ける。動きを注視しながら、ルチナはある疑問を抱いていた。
───もしこの中に素材を持ち出した人がいたとしたらキーファさんは心を読むことで犯人を特定できなかったのかな…?
ルチナはずっと考え込む。
「まずはやはりうまく溶け込んでそれとなく情報を得られるようにするしかないかな…」
「そうですね…気になることもありますし…」
ルドルフとルチナは工房のメンバーに駆け寄っていく。
「どうするんですか先生?」
「まあ、僕に任せてよ」
ルドルフはラウルに駆け寄っていく。ルチナはマリーを抱きかかえルドルフについていく。
「ふむ…この材料は…どれに合うかな…」
ラウルは出来上がった鋼材の検品をしている。どの用途に合うかを見極める、大切な作業だ。
「ラウルさん、少々お時間いただきますね」
「ん?ああ、新入りの…ルドルフだったか。どうしたんだ?」
ルドルフがラウルに話しかける様子をマリーとルチナは後から作業をしながら見つめる。
「よければこれはどうでしょうか?私が作った『見通しのルーペ』、です。この虫眼鏡を通して見れば素材の性質がわかりますよ」
ルドルフは腰からさげた巾着から手のひらに収まる大きさの虫眼鏡を取り出し、ラウルに手渡した。
「ふむ…これは…わかりやすいな…。これは、マジックアイテムに…こっちは防具向けだな」
ラウルへ見通しのルーペを通して見た素材を仕分けていく。ものの数分で仕分け作業は終わったようだ。
「ふむ、これはお前が作ったのか?うちにあったルーペより精度がいいみたいだけど…」
「ええ。私は小さなアトリエの経営をしてましたが、経営に失敗してアトリエを潰してしまって…それで当主様に雇ってもらいました」
ルドルフはうまく素性を伏せながら、ラウルに近づくことに成功した。
「そんな腕でアトリエを潰すなんてもったいない話だな…」
「お恥ずかしい限りで…そうだ、素材の話で思い出しましたが、この工房で素材に関して困ったことなどはありますか?」
「…!」
ルドルフがそれとなく探りをいれると、ラウルの目が見開かれた。
「お前もしかして、あの件を知ってるのか?」
「い、いえ、なんだか聞いただけですよ、なにか材料が失われているとか…」
ルドルフが言うと、ラウルはため息交じりに話し始めた。
「…先月辺りからな、素材が消えているんだ。鋼材やらなんやらみたいなどこにでもあるようなものから…生命の石や、錬金釜の材料になる錬金陶土、それに魔物から剥ぎ取った素材とか、な」
「なるほど…貴重な品物もあったんですね…」
ルドルフは頷きながら話を聞き続ける。
「ただ持ち出して売っているのか、私的になにか作っているのか、それはわからないが…さすがに生命の石はな…。不穏なことにもよく使われるので王家諜報員に依頼して行方捜索してもらったりはしたんだが…」
───なるほど、それでI&Sがここに来ていたわけか…
「ふむふむ、まだ見つかっていない、ということですね」
「ああ、誰が何の目的で盗み出したりしたのか、わからずじまいというわけだ。そういうわけで、俺から言えることはそれだけ、かな」
ラウルはそう言うと検品の続きを始めた。
「ええ、お時間いただきありがとうございます」
ルドルフはラウルにぺこりと頭を下げるとルチナのもとへ戻っていった。
「それで、どうだったんですか?」
「ああ、やはりアストリッド卿が言っていたように、生命の石や錬金陶土、それに魔物から剥ぎ取った素材…いかにもな怪しい実験に使いそうな材料が盗み出された…ということだ」
ルドルフはルチナに聞き出した情報を伝える。ルチナはルドルフから聞いたことを手帳に書き記していく。
「ふむ…それにしても先生、すごく鮮やかな聞き出し方でした」
「ああ、そういった仕事も少なからずやってきたからね。大事なのは相手の警戒を解きつつ、うまく相手の懐に入り込むことだよ」
ルチナからの称賛を受けたルドルフは得意げに言う。便利屋として、そういう仕事もあったんだなとルチナは頷いた。
「それではあたしはセンテさんに探りを入れてみますね」
「ああ。僕より君のが警戒しないかもだからね。こっちの調合は僕とマリーでやっておくよ」
「きゅむ!」
ルチナはルドルフとマリーに調合を任せると、センテのもとに向かって行った。
「ふむ…こっちの調合は終わりましたね。次は…」
センテは調合が一段落したところであった。
「すみません、センテさん…」
「ええとあなたは…ルチナちゃん、だったよね。どうしたの?なにか困りごと?」
センテに声をかけたまではよかったものの、なにを話の切り口にすべきかを考えていなかった。
───ど、どうしよう、何を話せばいいかわからないよ〜!
「る、ルチナちゃん?」
しどろもどろになり冷や汗をたらすルチナの様子をセンテが怪訝そうに見つめる。ルチナが見いだした切り口とは…
「あ、あ、あの、センテさん、そ、素材が盗み出された件に関して、なにか知ってたりは…」
「ルチナちゃん?」
突然の直球での質問にセンテが驚き、ルチナはやってしまった、という表情を浮かべる。
「い、今のは違うんです!た、ただ、小耳に挟んで気になったなー…なんて…」
わたわたするルチナに対し、センテは話し始める。
「確かに、そのことは話に出てたりするからね…。でもわたしもあまりよくは知らないかな?盗み出された素材がすごく重要なもの…というくらいしか知らないんだ」
センテは特になにか知っているわけではないようだった。それならば…と別の切り口から話を聞き出せないか?とセリアは思いついた。
「んー…、内部に犯人がいるかも、と言われてるみたいですけど、ならばキーファさんが心を読んで割り出せてたりするんじゃないかと思ったんですけども…」
ルチナは浮かんでいた疑問点をセンテに伝える。センテははっとした表情を浮かべる。
「確かに…そうなんだよね。キーファさんが心を読める、それは間違いない事実だと思うけど、それでもわからない、ということは…」
センテは考え込むような素振りを見せる。
「どこまで心が読めるのか、読ませない方法があるのか…」
ルチナは思案を巡らせている。その時であった。
「おやおや、お2人とも、なにか相談事かな?」
通りがかったキーファが2人に声をかける。
「い、いえなんでもありません!」
「ルチナちゃん、キーファさんにそんなごまかしは効かないよ?ルチナちゃんみたいにわかりやすい子は特に…」
しどろもどろになるルチナにセンテの少々トゲのあるツッコミが炸裂する。2人の滑稽なやりとりを見ていたキーファは軽く吹き出すと話し始めた。
「たしかに、私は心が読める。だが、それは本心からくるものなのか?と思うこともあるんだ。私が読める心の情報量はそう多いものではないからね」
キーファはやや顔色の悪い顔で笑みを浮かべながら話す。
「そういう、ものなんですね…」
「ああ、センテは悪気なく失礼なことを浮かべがち、ラウルは直情的、クーノは当たり障りのないことばかり考えてる…だが、私が読んでる心が本当なのか?とも思う…そういうことさ」
キーファは相槌を打ったルチナをじっと見つめる。
「ふむ…君はなんというか、わかりやすい子だね」
「ええ!キーファさんからも言われちゃった!」
立て続けに2人からわかりやすいと言われたルチナはショックをウケる。
「まあ、いいことだよ、隠し事ができないというのも。そういう人こそ信じられる」
キーファは気怠げな声色でそう言い残し、持ち場へ戻っていった。
「確かに、ルチナちゃん人がよさそうだからね…信じられる、のかも」
「あはは…あ、ありがとうございます」
褒められてるのかそうでないのか、ルチナは複雑な気分であった。その場を立ち去るルチナを、キーファが持ち場からじっと見つめていた。
*
「ラウルさんとセンテさんからの情報はこんなところ、ですね…あとは…キーファさんの読心術からわかる情報量はそう多くはないようです」
「あとはクーノさんだけど、センテさんから話を聞いてる間にどこか行ったみたいだ…まあ、戻ってきたらいろいろ聞き出すさ」
業務時間終了後、アストリッドの館へ戻る帰路でお互いに得た情報をまとめていた。いつのまにか席を外していたクーノを除く3人からは手がかりとなりうる情報は得られなかった。
「セリアたちはなにか情報得られたんだろうか」
「そこもまた聞いてまとめておかなきゃ、ですね」
夕暮れの中、帰路につくルドルフたちを見つめる影が…
「あの新入り…いろいろ嗅ぎ回っているようだな…だけど、これは返すわけにはいかない…。それに、あのチビは…」
その手にはとくん、とくんと鼓動するように動く赤い石が握られていた。
エーデルフェス開催まで、あと28日
さていかがでしたか?




