CASE26 エーデル財閥
新章突入となります
「それじゃ、母さん、クリセルダ君、僕らが出てる間、お願いします」
エーデル財閥の当主、アストリッドからの依頼を受けてから3日後…便利屋ゼルトザームの面々はアストリッドの依頼を遂行するため、王都へ向かうのであった。
「ええ、みんな、怪我とかに気をつけて、ヘマしないようにね?」
「ルチナちゃん、ハンカチ持った?怪我しないように、毎日歯は磨くのよ?」
便利屋の留守を守るヴェロニカとクリセルダはルドルフたちを見送る。
「ああ、きっちりやってくるよ」
「あたしがいるから大丈夫だよ!」
「クリ姉、心配しすぎだよ、もう、元気で帰ってくるからね」
見送るヴェロニカとクリセルダに対し、無事に帰ってくることを約束し、ルドルフたちは王都へ向かうのであった。
*
「よし、王都にたどり着いたね」
「さて、西出口で待っているといってたな」
「わ、わわわ…おっきい駅…人がいっぱい…」
列車に揺られること数時間。ルドルフたちは王都のターミナルに到着していた。王都に何度か行っており慣れた様子のルドルフに対し、ルチナは初めて見る王都のターミナルの人混みに落ち着かない様子である。
「ルチナくん、はぐれないようにな、セリア、ルチナくんの手を引いてやって」
「きゅむきゅむ!」
ルドルフはマリーを抱えて歩き出す。
「それじゃ、ルチナちゃん、あたしから手を離さないでよ」
「わ、わかりました!」
セリアはルチナの手をがっしり掴むと、ルドルフの後ろをついていき、アストリッドの待つ西出口へ向かった。
「ええと、どこにいるのかなっと…」
西出口も見渡す限りの人と人でごったがえしていた。ルドルフがアストリッドを探してあたりを見回していると…。
「ああ、あの人だ」
メンタンピン亭で出会った時と同じ、瓶底メガネにツバの広い帽子、口元に巻かれた薄手のストールという出で立ちでアストリッドが待っていた。
「待っていましたよ、ルドルフ社長。それでは、案内いたしますね」
アストリッドはターミナルを出ると、そのままルドルフたちを連れて歩き出す。
「と、徒歩移動なんですね」
「ええ、今はあまり目立つようなことができなくて…。というか、徒歩数分なもので」
アストリッドが案内すること数分。たどりついたのは高い塀に囲まれた…邸宅と呼ぶにはあまりにも大きく、城と呼ぶには小さい…そんな館だった。
「これが…大財閥の邸宅か…」
「うちの自宅兼オフィスの…何十倍くらいでかいかな…」
「あわわわ…粗相しないよう…気をつけ…なきゃ…」
あまりにも立派な館に、ルドルフとセリアは息を呑み、ルチナに至っては動揺のあまり少しばかり挙動不審になっていた。
「そんなに緊張なさらなくても大丈夫ですよ、さあ、どうぞ入って…」
アストリッドが門を開いたその瞬間…
「邪悪な権力の枢軸様のおな〜り〜!!本日はなにやらゲストをお連れのようです!雁首そろえてお待ちしておりましたあああああああああ!!」
黒いベストに細身のズボン、真ん中分けの髪型が特徴的は初老の執事がドラを鳴らしながらはっちゃけた叫び声を上げた。突然のパンチが効いたお出迎えにルドルフたちはフリーズする。
「え、なんですか、このお方は…」
「フリッツさん、応接室に皆を集めて、それとお茶を用意していただけますか?」
呆気にとられるルドルフをゆそにアストリッドは一瞬呆れたように肩をすくめると、慣れた手つきでドラを没収し、フリッツと呼ばれたはっちゃけ執事に指示を出す。
「はい!かしこまぁ!皆様ダージリンで、フロッケ君は梅昆布茶、わたしはコンブチャでよろしそうでありますねええええ!」
フリッツはアストリッドに敬礼すると、そのまま館へ駆け込んでいった。
「あ、あとでご紹介いたしますね…それではみなさん、応接室へ案内いたします」
アストリッドはルドルフたちを館内へ案内していく。ルドルフたちは息を呑みながら、アストリッドの館へ足を踏み入れた。
「ここはエントランスとなります」
「エントランスだけでうちのオフィスより広いよ…」
「き、きゅむ…」
白と黒に輝く大理石のタイル床、飾られた甲冑や大きな絵画、踏み入れた瞬間に普段と違う雰囲気に一同はのまれそうになる。
「応接室はこちらになります」
幾重にも重なる光の反射が天井や壁を彩るシャンデリア、舞台で歌う美しい女性が描かれたステンドグラス、立派な翌檜の椅子、紅色のテーブルクロスがかけられたテーブル…入室した応接室もまた立派な空間であった。
「うちのオフィスより…」
「セリア、いちいち比較するのやめよう、悲しくなる」
その空間に足を踏み入れたルドルフたちは息を呑みつつ、何とも言えない悲しさを感じていた。
「皆さん、この方たちが依頼を受けていただけるルドルフさんたちです」
テーブルに並べられた檜の椅子には先日アストリッドとともにメンタンピン亭に訪れたフロッケとネフタリ、それに先程のはっちゃけ執事に、ちゃらついた雰囲気の青年が座っていた。
「リヒトとフリッツはまだ名乗っていませんでしたね、ルドルフさんたちに自己紹介をお願いします」
アストリッドが言うとリヒト、フリッツと呼ばれた2人が立ち上がった。
「リヒトです。エーデル歌劇団の座長兼脚本家をしています。貴方たちのこと、次の脚本の参考にしていいかな?」
山吹色の短髪に青黒いレンズのサングラス、金メッキのイヤリングとややちゃらついた印象の青年が会釈し、名乗る。
「そしてわたしが執事長の…ふりふり、ふりふり、ふりふりフリッツ!!でおなじみの、フリッツであります!!」
「え…」
はっちゃけ執事が両手を頭の上で組みつつ、腰を振り名乗った。そのはっちゃけ具合にルドルフ達は唖然とする。
「馴染んでないですよフリッツさんのそのギャグは…便利屋の皆様とこれ読んでる方には…」
初対面でつまらないギャグをかましたフリッツをアストリッドがやんわりと窘める。
「やははは!当主様ったらお厳しい!でもだからこそ、当主としてやっていけるのでしょうねぇ!!」
フリッツはめげずにはっちゃけたことを言いながら、右手に高く掲げられたティーポットから低く下げられた左手に持ったティーカップに寸分の狂いなく均等に次々にお茶を注いでいく。
「ええ…優秀な執事ではありますが、ちょっとお調子者なもので…」
「ええ、そんなかんじですね…」
「あ、あの高さからお茶を寸分なく、こぼすことなく注ぐ技術…!」
呆れた様子のアストリッドとルドルフに対して、ルチナはその技術に目を輝かせていた。
「それはともかく、わたしたちも自己紹介をしなければですね。私は便利屋ゼルトザームの社長、ルドルフです、こっちは平社員でホムンクルスのマリーです」
「きゅむ!!」
ルドルフはアストリッドたちに会釈をし、名乗る。マリーも同じように小さな身体でぺこりと会釈をする。
「あたしは専務のセリアです。あと、主任のルカス君、化け狐です」
「よろしくお願いします…こんこん…」
セリアが会釈しつつ名乗ると、懐に入れた竹筒からルカスが顔を出し、名乗るとそのまま再び竹筒に引っ込んでいった。
「あたしはルチナです。ルドルフ先生から錬金術を学んでいます」
ルチナはぎこちなく会釈をし、名乗る。
「では、自己紹介が済んだところで本題に入りましょうか。それでは皆さん、席についてください」
アストリッドが促すと、ルドルフたちはテーブルの前に並べられた椅子に座った。
「依頼したいことなのですが、来月のエーデルフェスの警護と、内部調査をしていただきたく…」
「エーデルフェス、ですか?」
ルドルフは聞き慣れないワードに首をかしげる。
「エーデルフェスというのは、毎年8の月の12日に行われるエーデル財閥が開催する、エーデル財閥の錬金術部門で開発した品物を展覧したり、劇団が簡単な出し物をしたりといった催しです」
傍らにいるフロッケがエーデルフェスに関する説明をする。ルドルフたちはそれを頷きながら聞いている。
「ええ。エーデルフェスを間近に迎えたときに、錬金術部門で問題が起きまして…。極秘で進めていたはずの計画が外に漏れていたり、いくつかの貴重な素材がごっそり持ち出されたりと…。そのなかにはホムンクルスの材料となる生命の石や、錬金釜の素材となる錬金陶土などもあって…」
アストリッドの声色からは困り果てたような感情が見えている。
「失われた素材はいろいろとありましたが…。それらがあるおぞましい研究にも使われる素材だったというのもあって…」
「おぞましい研究とは?」
ルドルフが訪ねると、アストリッドは息を整え、答え出す。
「人間の体を素体に魔物を作り出す研究というものです」
「っ!!」
アストリッドの回答にルドルフは背筋が寒くなるのを感じる。
「人を魔物に…?そんな研究が行われていたのですか…?」
あまりにも現実離れしたおぞましい内容に、ルチナはおそるおそる言葉を紡いだ。
「王都の外れにある禁足地の館のお話は知っていますか?」
アストリッドはルチナに問いかける。
「そこであったことについては知らなくて…」
「王都の外れの…?もしや…」
ルチナはなにも知らないという様子だったが、ルドルフはある出来事が頭ををよぎっていた。
「ある館に住んでいた錬金術師が自分の妻子を素体に魔物を作り出し、自分もその魔物に殺害されたという事件があり…。その魔物は王国軍により討伐されたのですが…」
「…!」
アストリッドの言葉にルドルフは背筋が凍る感覚を感じた。あの奇妙な館での一件のあとに聞いた話と同じであった…
「魔物は討伐し、元凶である錬金術師も死に、事件は解決したと思われたのですが…そのときに押収された素材と、ここで失われた素材が一致しており…もしかしたら、錬金術部門の関係者の中に、そういった研究を行なっている、もしくは行なっている者たちと通じている者がいるかもしれないと考えました」
「つまりは、その人物を洗い出してほしいと、いうことですか?」
話を聞き終えたルドルフが言うと、アストリッドは肯定するように頷いた。
「そういうことです。なにを目的にしているのかはわかりませんが…。どうにも不穏な影を感じてしまうのです。どうか、引き受けていただけますか?」
アストリッドは立ち上がり、ルドルフに頭を下げる。ルドルフの考えはすでに決まっていた。
「ええ、引き受けさせていただきましょう」
「あ、ありがとうございます!」
アストリッドはルドルフの両手を握り、感謝の言葉を紡ぐ。
「ルドルフさんとルチナさんには錬金術部門の新入りとして、内部からの調査を、セリアさんにはメイドに扮していただき、外部からの調査をお願いします」
「え、お兄様とルチナちゃんが錬金術師として潜り込むのはわかるけど、あたしがメイド?」
アストリッドの思わぬ言葉にセリアは困惑した様子を見せる。
「ええ、つきましてはセリアさんには先に調査を依頼したある2人と共に行動をしていただきたく願います」 「あ、ある2人…?なんかあの2人な気がしてきたよ…」
セリアの脳裏にある2人の姿が浮かんでいた。セリアは館の見取り図を受け取ると、その2人と合流するために、ある一室へ向かった。
「失礼します…あ…」
セリアが入出すると、そこにいたのは…
「セリアちゃんも依頼…受けたんだね」
銀髪ウルフカットに狼耳と尻尾が特徴的な王家諜報員のミミが一息ついていた。その隣には…
「むにゃむにゃ…にんじんは…んう…」
椅子をいくつか並べた上に足を広げ寝転がり、手にはかじりかけのにんじんを持った青髪ボブカットにウサギの耳と尻尾が特徴的な王家諜報員、チェルシーがだらしなく眠っていた。足を広げているため、かぼちゃパンツがよく見えていた。
「やはりこの二人だったか…」
思った通りの2人の姿にセリアは声を漏らした。
こうして、便利屋ゼルトザームと王家諜報I&Sによる奇妙な共同捜査が始まったった。だがまだ彼らはこの財閥を覆う黒い霧の濃さに気づいていなかった…
さていかがでありました?次回以降はいろいろとインプットのために更新頻度が落ちる…かもしれません




