CASE24 恩師と
今回はルドルフが恩師と再会する話です
山肌の荒れ地での一件から数日後…。ルドルフたちの住まうシュタール村の駅のホームに、ある4人の男女が降り立った。
「ここだな、ルドルフ…俺の教え子が住んでる村ってのは」
最初に降りたのはレイだった。アカデミーの元教師であり、ルドルフの恩師であり、現在は教職を辞し、南方で錬金術のアトリエを開いている。
「うちの町よりだいぶ綺麗なところだね〜。鉱山の村なんだっけ?」
次に降りたのはアリシア。楽しそうに笑いながらあたりを見回している。
「そうだな…鉱石のほか、希少な宝石がとれる…とのことだよ」
アリシアに続いて降り立ったのは白髮にウルフカットの長身で痩せ型の目つきの悪い男。サングラスを額にかけ、飛び跳ねる鯉が描かれた黒いジャケットに海老茶色のズボン、やや近寄りがたい雰囲気の青年だ。
「レイ先生の教え子さん…どんな方でしょうか…うう」
最後に降り立ったのはアリシアの後に隠れるおどおどした雰囲気の少女。目の下のクマ、群青色の髪に濃い青紫色のジャケットとプリーツスカートと全体色に寒色ぎみで控えめな雰囲気を醸し出している。
全員が客車を降りたのを確認すると、4人は駅を後にし、便利屋ゼルトザームのオフィスへ向かうことにしたのだが…。
「さて、向かうぜ…どこだったかなあ、場所は」
「ええ、レイ先生、オフィスの場所知らないの?」
場所を知らないというレイに対してアリシアが呆れたような声を上げる。
「あ、ああ…創立祝いのホームパーティーに行ったっきりでよく覚えてないんだよ…ただ、小高い丘の上だったのは覚えてるんだけど…」
「なるほどな…それじゃ、この辺の人たちに聞くしかないか…」
こうして、レイたちは場所がよくわからないままに便利屋のオフィスへ向かうことに…。
「ここは町の食事亭ってことか?ようやく開いたくらい、ってかんじだけども…」
「こういうところは情報がいろいろあるんだよね〜。ほら、あの子とか」
一行は店を開けてまもないメンタンピン亭の前にたどり着いていた。アリシアは店の前の掃除をしているタイゲンに近づいていく。
「ねえねえキミ、便利屋ゼルトザームって知らない?」
「うん、ルドルフさんの便利屋だね?」
「どこにあるかを聞きたいんだけど…」
「ああ、ここから近いんだよ。ここをこう行ってね…」
アリシアに道を聞かれたタイゲンは便利屋ゼルトザームのオフィスへの道を答えた。
「ありがとね、メカクレソバカスくん〜」
「にゃはは!礼には及ばぬ、だよ〜」
道を教わったアリシアはタイゲンに手を振り、オフィスへ向かっていく。タイゲンもアリシアに手を振りかえし、掃除を再開した。
「ここだよな?今誰かいるのかな」
便利屋ゼルトザームのオフィスの前にたどり着いたのはレイは一呼吸おくと、戸を3度ほど叩いた。鍵が開けられる音が鳴り、戸が開く。
「きゅむ?」
「あれ?誰だキミは」
「きゅむ?きゅむ!」
マリーがレイたちを出迎えた。マリーと面識のないレイたちは面食らった表情になる。マリーは突然の来客に驚いた様子だ。
「なんだ、君は…妖精…?言葉が話せないのか?」
レイの弟子のうち、目つきの悪い男がマリーに目線を合わせるようにしゃがみこむ。
「きゅむ!きゅむ…」
マリーはその鋭い眼光に怯えて目に涙を浮かべる。
「そ、そんなに怖がらないで…」
「くふふふ〜、マティアスちゃん顔怖いからね〜、ごめんねおちびちゃん、怖いの見せちゃって」
少し落ち込んだ様子のマティアスを見てアリシアがにやにやと笑いながらマリーを撫でながら声をかける。
「しかし、なんだか目つきとかなんだかルドルフに似ているような気がするぞ」
マリーを見たレイがルドルフの面影を重ねる。すると後にたっていたおどおどした少女が口を開く。
「あ、あの…もしかして、そのルドルフという方が何かあってこんな姿になったんじゃ…」
「あんなあリーサ、そんなトンチンカンなことが起こるわけが…」
リーサと呼ばれた名のおどおどしたした少女の突拍子もない言葉をレイはあきれたように否定しようとすると…
「くふふ〜、あながち的外れでもないかもよ?錬金術では性別を変える薬だとか、動物の耳が生える薬なんかも作れたりするし、妖精みたいな姿になる薬だってあるんじゃないかな?それが失敗したとかも…」
「た、たしかにそれはそうなんだがなあ…まさか本当に…」
アリシアの言葉にレイの考えが揺れ動き始める。するとアリシアはマリーの後に周り、両腕を上げ下げし始める。
「きゅむ?」
「レイせんせ〜、ボク実験中に事故ってこんな姿になっちゃいました〜…助けてくださ〜い…」
アリシアは何を思ったか裏声で腹話術を始める。マリーはきょとんとした顔でされるがままになっている。
「ほ、本当にルドルフさんという方なのかもしれせん…!」
アリシアの言葉と腹話術により、リーサはなぜかマリーがルドルフであると完全に思い込んだようだった。
「ま、まさか…本当に…ルドルフ…ルドルフなのか…?」
「きゅむ?」
レイは跪くと、マリーの両手を握った。マリーは依然としてきょとんとした表情を浮かべている。
「随分と変わったみたいだけど元気にしていたか…?」
「きゅむきゅむ!」
「ボク元気でしたよ〜!」
マリーに問いかけるレイに対してマリーは元気いっぱいに答え、アリシアは腹話術を続行した。
「る、ルドルフゥゥゥゥゥ!!!」
「きゅむきゅむ!」
レイはマリーを抱え上げ、強く抱きしめた。その目には熱いものがこみ上げていた。すると…
「何やってんですか…レイ先生」
「あらあら…来客?って、学長を殴ってクビになったレイ先生!」
訝しげな表情を浮かべたルドルフとセリアが帰ってきた。
「あ…る、ルドルフ?じゃあこの子は…」
「きゅむー」
硬直するレイの腕からマリーが離れ、ルドルフに向かっていく。ルドルフはマリーを出迎え、一口大のパイを食べさせる。
「あ、ああ…こいつは…話せば長くなりますが…」
ルドルフはマリーが自分で作ったホムンクルスであることを話した。
「な、なんだ、ホムンクルスだったのか…もちろん、わ、わかっていたさ…あはははは…」
レイはそう言うも、その目ら泳いでいた。
「それで、レイ先生はなにか依頼があってここに来たんですか?」
「いいや、前にお前の弟子と会って、なんだか懐かしくなって顔を見に来たんだよ。なんだかよくやってる、と聞いてな」
レイの言葉を聞き、ルドルフは嬉しそうな表情を浮かべる。
「へへ…それで、そちらの方たちは?」
「ああ、こいつらは俺の弟子でな…お前ら、ちょいと自己紹介してやれ」
ルドルフが尋ねると、レイはアリシアたちに自己紹介をするように促した。
「あたしはアリシア!レイ先生のオフィスで錬金術を学んでるよ、得意なのは爆弾調合!あと、錬金術の素材を使った装置作りもやってるよ」
アリシアはルドルフの手を握り、上下に大きく振りながら自己紹介をする。手を上下されるルドルフは戸惑った表情を浮かべる。
「…マティアス、です。得意なのは…そうだな…マジックアイテムの調合…です」
マティアスはサングラスを外し、ルドルフに向けて一礼する。ルドルフはマティアスに向けて一礼をする。
「り、リーサです…錬金術はまだ覚えたてで…得意と言えるのはなにも…」
マティアスの後ろから出てきたリーサは自己紹介を終えるとそのままカーティスの後ろへ引っ込んだ。
「私はルドルフ、便利屋ゼルトザームの社長で、レイ先生の元教え子、です」
「あたしはセリアです。便利屋ゼルトザームの専務で、レイ先生のアカデミーでの最後の教え子です」
自己紹介を終えた弟子たちに対し、ルドルフとセリアが自己紹介をする。
「くふふ〜、なんか寝不足って感じの目つきだよね〜、何徹目かな〜?」
「このノリ…なんか苦手だな…今は…2徹はいったかな」
ルドルフはアリシアのあっけらかんとした様子についていけない様子で、困惑していた。
「はは、にしても懐かしいなあ…」
「そうだな…お前が便利屋を立ち上げて以来…だったなあ…」
久々の再会にルドルフとレイはしばしの談笑を始める。セリアたちはそれを微笑ましげに見つめている。
「それで、エリーゼは今どうしてんだ?お前の便利屋に入ったとか聞いたけど…」
「エリーゼ先輩…」
話の流れでレイが何の気なしにエリーゼの話題を口にすると、ルドルフの表情が曇る。
「な、なんだ…?何かあったのか?」
ルドルフの表情から、ただならない事態を察したレイはルドルフに問いかける。
「ええ…実をいうと…」
ルドルフは重い口を開き、エリーゼとの間に起きたこととその顛末を語りだした。それを語るルドルフと、聞いていたレイの表情は曇っていた…。
「そうか…そんなことが…」
「何かできたことがあったんじゃないか…今でもそれが頭に浮かびます…。寝れない日も多くて…」
悪夢に魘され、後悔が頭をよぎる…そんなルドルフの心境をレイはどことなく察していた。
「…うう…ルドちゃん…そんな辛いことが…」
ルドルフの辛い過去を聞いていたアリシアが涙をこぼしながらルドルフの手を握る。ルドルフは曇った表情を一転させ、困惑した表情を浮かべる。
「な、なに、さっきまでのあっけらかんとした姿はどこ?」
「あ、アリシアさんは涙もろいですから…」
「アリシア、ルドルフさんが困ってるから…」
リーサとマティアスは困惑した様子で一連の流れを見つめる。
「あ、あたしさっきルドちゃんが眠れてないのをからかっちゃった?」
「ワッツ…?」
アリシアが震えた声で続ける。ルドルフは思わぬ視点からの言葉に思わずおかしなリアクションをとってしまう。
「い、いえ、大丈夫だから…。私は…ただ、先輩と誓った、皆を幸せにする錬金術師になる、そのために生きていますから」
「ルドちゃん…」
ルドルフは胸の前に握り拳を作り、そう告げた。アリシアは感銘を受けたような表情になる。
「なら、こういうのは作れるかな?あたしが考えた皆を笑顔にできる…かもなやつだよ」
アリシアが取り出したのは6つのスイッチが並んだ板状の装置だった。
「なんだ、これは」
「まあまあ、見てみてよ、まずは左上から」
アリシアが左上のスイッチを押す。
ウゲォッ…
「え」
えづくような声が装置から発せられる。ルドルフはきょとんとした表情を浮かべる。隣に座るレイも同じような表情を浮かべている。
「わわ…持ってきてたんですか…」
「はぁ…初対面の人にそんな珍プレーな装置見せてどうするの…」
これにはリーサとマティアスも呆れた表情を浮かべていた。その一方で…
「パヒャヒャ!なにその変なゲボボイス、ウケるウケる〜!」
「でしょでしょ、まだまだあるよ〜!」
セリアは腹を抱えて笑っていた。その笑い方に気をよくしたアリシアは次々にボタンを押し始める。
ウゲッ
ゴボォッ
オゥゥゥエッ
ゴブェェェッ
オエエエッウギョロボォォ
「パッヒャヒャヒャ!何最後の壮絶なやつ!」
「くふふ〜、いいでしょいいでしょ」
腹を抱えて笑うセリアとゲボボイスの奏でる二重奏にアリシアはご満悦な様子だった。
「僕よりよほど笑顔にできてんじゃないか…?」
一部始終を見ていたルドルフの表情はどこか曇りが晴れているようにも見えた。
「はは、気にするな気にするな。お前も別なやり方でそれを目指していけばいいさ。噂はかねがね聞いてるんだぞ?人助けや事件解決に貢献したりしてるそうだし、弟子にもホムンクルスにも慕われてるのもよくわかるしな」
「ええ。僕のやり方で…」
恩師の言葉にこみあげるものを感じながら、ルドルフは頷くのであった。あたりには、アリシアとセリアの大爆笑が響いている。
「…あれはあれでいいんでしょうか」
「いいと思う…多分」
はっちゃけた部下に悩まされるのは師匠譲りだったんだ、とルドルフはくだらないことを考えたのであった。
さていかがでしたか?次回は次々回からはじまる長編の前日譚になります




