CASE23 危うしルドルフ?恩師と弟子の邂逅
前回に引き続きルドルフが災難に見舞われます
「ああ、このあたりではマジックアイテムの素材が取れるんだよ」
「どんなものの材料になるんですか?」
ルドルフとルチナは採取のため、ヴァルト王国南部の荒れた山肌の道に訪れていた。
「ああ、魔法術には、炎、土、雷、風、水、氷、闇…といったふうに大きく分けて7つの属性がある、というのは知っているね?」
「ええ。その他、どれにも当てはまらないような魔法術もありますが…それと、得意な属性はだいたい一人につき1つくらいだと…」
「ふむ、よく理解できているね、さすがだ」
ルチナがルドルフから習ったことを答えると、ルドルフは感心したようにこくこくと頷く。
「ああ、僕なら炎、セリアなら風といったようにね。ただ、今から僕が教えるマジックアイテム。それは魔力さえあれば、それに応じた属性の強力な攻撃ができる代物だ。アングリフシュタインというんだ。これはアングリフシュタイン・緑といったところかな」
ルチナに解説をしたルドルフは金属の丸いレリーフの中心に緑色の宝玉が埋め込まれた魔道具を取り出し、ルチナに見せる。
「ネーミングはさておき、なんだか見ていると引き込まれそうですね…」
宝玉に触れると、風が吹き荒れるような感覚が手に伝わってくる。
「あ、ああ、魔力を出したりしないように気をつけて。暴発するから」
「わわわわ!」
ルチナは慌てて宝玉から手を離した。暴発していたら…とルチナの顔が青ざめた。
「まあ、扱いには十分気をつけるように。さてと、採取に…」
「食べられるものとってきたら小屋で待ってるクリ姉が喜ぶかな?」
ルチナはあたりを見回し、食べられる素材を探し始める。ルドルフはそんな愛弟子の様子を微笑ましげに見つめていた。
「きゅむ、きゅむきゅむ!」
「どうしたんだマリー?」
採取に戻ろうとした時、ルドルフの傍らにいたマリーが何かに反応する。
「魔物か!」
ふと上を見上げると、サソリとトンボが合わさった様な、体長2メートルほどはある巨大な怪虫が3匹、ルドルフとルチナに飛びかかろうとしていた。
「ドラゴピオンか…厄介な…」
巨大な鋏、毒液を垂らす尾、巨大な羽…。凶暴な気性もあり、かなり危険な魔物である。
「ルチナくんにこれがどんなものかを見てもらうかには丁度いいかなっと…っ!」
ルドルフはアングリフシュタイン・緑を高く掲げ、魔力を注ぎ込む。あたりに斬撃をまとった強烈な風が吹き荒れる。
「ビギィィィィイ!!」
ドラゴピオンは切り刻まれ、あたりに緑色の体液を散らして息絶えた。
「あ、あんなに大きな虫が一撃で…」
「ああ、魔力はまあまあ消費するが、威力は相当なものだ。爆弾同様、扱いには気をつけて」
「ギピィィィィィ!!」
ルドルフは解説しつつ火の玉の魔法術を放つ。2匹目のドラゴピオンは断末魔をあげながら消し炭となった。
「よし、あと一匹ですね…あれ、どこに…」
アングリフシュタインやルドルフの魔法術の威力を見ていたルチナは最後のドラゴピオンを見失ってしまっていた。
「ルチナくん!後ろ!」
「うしろ…?わわあ!?」
ルドルフが気づいた時には遅かった。ルチナの背後に回ったドラゴピオンが尻尾をルチナに尻尾を突き刺しにかかった。
「っ!うううっ…!」
なんとかかわそうとしたものの、毒針がルチナをかすめてしまう。傷口が焼け付くように痛み、全身がぴりぴりと痺れる感覚がルチナを襲う。ルチナはその場によろめく。
「ピギィィィィィィ…」
ドラゴピオンはルチナの正面に回り込み、尻尾をルチナの首元に押し当てる。これはまさに、餌食となる生き物に対する処刑宣告のようだった。
「い、いけない…!」
「ぎぃぃぃ…」
ドラゴピオンが尻尾を振り上げ、ルチナをに向けて突き刺しにかかる。
ズンッ!
「あ、あ…」
肉を裂くような聞こえの悪い音が辺りに響く。しかし、ドラゴピオンの尾はルチナに刺さっていなかった。
「せ、先生…」
「んぐっ…」
ルチナの前に割って入ったルドルフの鳩尾にドラゴピオンの尾の毒針が突き立てられていた。
「っ…柄にもないことするんじゃないね…やはり…ぐぅぅ!」
ルドルフは痺れる腕を震えさせながらもドラゴピオンの尾を掴み、力任せに引きちぎった。
「ギィィィ!!」
「消し飛べ…」
ルドルフが火の玉を放つと、ドラゴピオンは燃え上がり、消し炭となった。
「っ…る、ルチナくん…」
ルドルフは刺さった毒針を引き抜くと、懐から痺れをとる薬を取り出し、ルチナに塗りつける。体の痺れが取れたルチナは倒れそうなルドルフを支える。
「先生、大丈夫ですか!?クリ姉が待ってる小屋に運びますよ!マリーちゃん、急ぐよ!」
「きゅむ!」
「あ、ああ…すまない…」
ルチナとマリーは痺れて動けないルドルフを庇いつつ、クリセルダの待つ山小屋へ向かって行った。
「ドラゴピオンの毒にやられたというわけね…」
山小屋にたどり着いたルチナはクリセルダに事情を話し、ルドルフのことを任せることに。
「困ったわねぇ…治療薬があればいいのだけど…」
「ああ…ルチナくんに使ったもので切らしてしまってね…」
「困ったわね…」
治療薬がない状況にクリセルダは頭を抱える。
「簡易錬金釜はあるけど…材料は…ポーションに…メコバラの花だけど…このあたりに生えてたかな…」
治療薬を作ろうにも材料が足りなかった。ルチナがこのあたりにあったか…と思い出そうとしていると、ルドルフが苦しそうに口を動かし始める。
「ここを下山したところにある小さな森に生えているよ…あと、これを持っていって…。ポーションに、魔力を回復させる妙薬だ…」
ルドルフはルチナにポーションと、濁った緑と茶色の液体の入った瓶を手渡した。
「ええ、では急ぎます!クリ姉、マリーちゃん、先生のことお願いね!」
「ええ、任せて!」
「きゅむ!」
ルチナは1本の箒を取り出すと、小屋を飛び出していった。
「これ、魔力で動くんだよね…う、うああああああ!?」
ルチナが箒に跨り掴んだ箒の柄に魔力を注ぐと、箒が浮き、そのまま矢のようなスピードで荒れた山を下っていった。あまりのスピードにルチナが慄く。
「ひゃあああああ!麓の森!山の麓の小さな森ぃぃぃぃぃ!」
目的地に着いたら即座に魔力を止めよう、猛烈なスピードに顔を歪ませながらルチナは誓ったのであった。
「や、やっとたどり着いたよ…ま、魔力補給しないと」
山肌のくだり道を飛び抜け、ルチナはついに目的地にたどり着いた。ふらふらとしながら、ルチナはルドルフから受け取った魔力を回復させる妙薬を取り出した、
「…いつ見てもおぞましいね、これ…しかも、これ凄まじい味がするんだよね…」
瓶の中には枯れ葉のような色のどろっとした液体が入っていた。意を決したルチナはそれをひと思いに口にする。
「うっ…なまぐさっ!?」
甘じょっぱく、苦いようなどろりとし液体が口の中にはいると、不快な生臭さが鼻をつき、ルチナを苦しめる。怯みながらもなんとか半分ほどを飲み干した。
「あは…でもなんだか飲み終わったら少し気分がよくなってきた…探さなきゃ…うぷっ」
魔力を補給したルチナは大きく息を吸うと、胃の奥からこみ上げる生臭さに耐えながら素材探しを始めた。
「あれ、見つからないなあ…これは違ったやつだ…」
ルチナはあたりを探るも、探せど探せど目的のメコバラの花は見つからなかった。
「あの素材はどこを探すとよく見つかるんだったかなあ…?」
ルチナがあたりを見回しながら探していると…
「あれあれ、先生、なにか探してる子がいるよ〜、落とし物かなあ?」
なにやらにやついた少女のような声がする。自分のことかとルチナは振り返る。
「くふふ、その分厚い手袋に、右手の杖、背負ってるツルハシ、錬金術師さんかな?レイ先生の同業者かな?」
声の主はダークグリーンの髪をインナーカラーにした黒髪の少女だった。丈の短いブルーグレーの外套と暗い茶色のスカートと、にやついた雰囲気に反して落ち着いた服装が目を引く。その傍らに立っていたのはカッパーブラウンの髪を真ん中分けにした二枚目の男だった。
「ああ、そうみたいだな。何か素材を探しているのか?」
レイというらしい上質そうな浅葱色のワイシャツにクリムゾンレッドのネクタイという気品を感じる服装である一方、切れ長の山吹色の瞳からはどこか力強さを感じる。手にはルチナ同様、厚手の手袋に杖を携えている。
「あ、はい!探しているものがありまして!メコバラの花なんですが…」
ルチナはメコバラの花を探していることをレイたちに伝える。
「ああ、メコバラの花なら向こうに行った先の泉のほとりにあるよ」
レイはメコバラの花のある泉の場所を指さし、ルチナに伝えた。
「あ、ありがといございます!」
「ああ、他にも採取してる人たちがいるかもしれないから、頑張って採ってこいよ」
「くふふ〜、頑張ってね、錬金術師ちゃん〜」
頭を下げて感謝の言葉を伝え、泉へ歩いていくルチナをレイとにやついた少女は見送った。
「ここだよね…綺麗な泉…」
歩いていくこと数分。ルチナがたどり着いたのは見る角度により青やエメラルドグリーンにも見える美しい泉だった。その泉の美しさに息を呑みながら、ルチナはメコバラの花を探し始める。
「ええとこれは…あ、これだよね…」
ルチナは特徴的な白い花を引き抜き、図鑑の写真と見比べる。特徴的な形の花に、丸い形の根、探していた花と一致していた。
「これだね…よし、必要分はこんなものかな。早く先生のところに帰らなきゃ」
ルチナは箒を取り出し、ルドルフたちが待つ山小屋へ帰ろうとしたときだった…。
「へへっ、待ちな嬢ちゃん」
ルチナを呼びとめる声がする。声の主は黒いバンダナに割れ顎、黄ばんだ歯ににやついた表情の大男。わかりやすいチンピラだった。
「な、なんですか?急いでいるのですが…」
ルチナが飛び立とうとしたとき、チンピラが鉄パイプを取り出す。
「怪我したくなけりゃ、金目のものと素材を置いてきな」
「わわ、これがカツアゲってやつ…?」
鉄パイプを向けられたルチナの頬を嫌な汗が伝う。
「…あれ、レイ先生、ちょっと加勢したほうがよくない?」
「そうだな…」
ルチナを気にかけてやってきたレイたちが通りがかる。2人が杖を構えたその時…
「ええい!」
ルチナが魔法術で浮かせた手のひら大の石がチンピラの鼻っ柱に直撃する。チンピラは鉄パイプを落とし、滝のように鼻血を流す。
「い、いてぇよ〜!こいつ、イカれてやがる!?ひぇ〜!お許しを〜!」
「え、あれだけで?」
チンピラはルチナの反撃に怖気づき、尻尾を巻いて逃げていった。ルチナは呆気にとられた表情を浮かべる。
「さて、先生のところに帰らなきゃ」
ルチナが再び山小屋に向かおうとすると…
「見事だったな、若い錬金術師さん」
「あ、貴方たちはさっきの」
飛び立とうとするルチナに声をかけたのはレイとにやついた少女であった。
「ああ、君は錬金術師みたいだけど、アトリエやオフィスを開いているのか?それとも誰かの弟子だったり?。私はレイ。この近くの街で錬金術のアトリエを開いているんだ」
レイはルチナに対してお辞儀をし、名乗る。それにつづけてアリシアが名乗る。
「あたしはアリシア、錬金術師で、そっちの先生の弟子だよ〜、くふふ〜」
アリシアは両手でスカートを持ち上げ、気品あるカーテシーを披露した。ルチナは2人に向き直るとぎこちなくお辞儀をし、名乗り始める。
「あ、あたしはルチナ。北にある村の便利屋さんのもとで錬金術を学んでます」
「北の村…?便利屋…?」
ルチナの口にしたワードにレイがはっとした表情になる。
「もしかして君が師事している錬金術師って、ルドルフという名前ではないか?」
「は、はい!でもどうして先生の名前を…?」
ルチナはレイがルドルフを知っていたことに驚いた様子だった。
「ああ、ルドルフがアカデミーに通ってた頃に錬金術を教えていたのは私だからな。いわば、君は私にとって弟子の弟子なんだ」
「え、ええええっ!?」
思わぬところで師匠の師匠に遭遇したルチナは驚きのあまり目を見開いて叫んでしまった。
「ルドルフは元気にしているか?」
「はい!今はちょっと毒にやられてますけど…それで薬の材料を…」
「なるほど、ならば早く帰ってやったほうがいいな。邪魔してすまなかったな、それじゃ、魔力切れと前方には気をつけるようにな」
ルチナからルドルフが毒にやられていることを聞いたレイはルチナに早く帰るように促す。
「ええ、では!情報、ありがとうございました!めは魔力を…うううっぷ…」
ルチナは魔力を補給するため、飲みかけの妙薬の入った瓶を取り出し、生臭さに悶えながら飲み干した。
「あー、これ飲みすぎたらきっついよ…?戻しちゃわないように気をつけてね?」
アリシアが悶えるルチナを見て心配そうな様子になる。
「い、いえ、魔力が尽きないように…うぷっ…では!うあああああ!」
ルチナは箒に跨り、そのまま山小屋へ向けて危なっかしく飛び立っていった。
「はは、ルドルフか…いい弟子もったみたいだな…」
レイは飛び立つルチナを感慨深そうに見つめる。傍らではアリシアがルチナに向けて手を振っていた。
「ざ、材料…取ってきたよ?先生はどうしてる?」
「あら、おかえりなさい。ルドルフ先生は今マリーちゃんが介抱してるわ。それよりも大丈夫?なんか顔が真っ青だし、生まれたての小鹿ちゃんみたいになってるよ?」
クリセルダが箒酔いなのか妙薬の飲みすぎなのか、顔を青くしてぷるぷると体を震わせるルチナを出迎える。
「だ、大丈夫!調合もすぐ終わるから!」
ルチナはそう告げると、ふらふらとした足取りである一室に向かって行った。
「さ、さて…ポーションと…メコバラの花を…」
ルチナは簡易錬金釜に火をかけると、釜の中に材料を入れていき、かき混ぜ始める。
「簡単なものなら…気分が少し悪くても…う゛っう゛っ…」
かき混ぜていると、突如胃からなにかがこみあげてくる。そのとき、ルチナはアリシアからの言葉が頭をよぎる。
「────あー、これ飲みすぎたらきっついよ…?戻しちゃわないように気をつけてね?────」
そういうことか、とルチナが謎に納得した瞬間だった。
「おえええええっ!」
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「そうか、レイ先生に会ったんだ。懐かしいなあ…」
ルチナが作った治療薬を飲みながら、ルチナが恩師であるレイと会ったという話をルドルフは聞いたルドルフは感慨深そうにする。
「この治療薬…よく効くんだけど…なんか舌がピリピリするし、へんなにおいするし…どうしたんだい?僕もこういうのは作ったことないよ」
「い、いえ、なんでもありません!メコバラの花が枯れかけていたのかも…?」
ルドルフの指摘に対しルチナの目は明後日の方を向いていた。様子が明らかにおかしいが、ルドルフは気にもとめなかった。
「枯れかけた花くらいじゃこの刺激的なにおいや舌触りはないんだけど…まあいいか」
その後、ルドルフは一生涯の間に何度も治療薬を作ったが、ルチナが作ったような刺激的な匂いや舌触りを再現することはなかったという…
さていかがでしたか?




